利点06. 「弾体が飛ぶ」

 DEX極振り無課金自給自足プレイヤーことStrawberryEater427は、久しぶりにNPCショップを訪れた。自身には作れないアイテムを購入するためだ。


「あれ、シズナさん。魔法屋で会うなんて珍しいですね」


 そこで出会ったのは、フレンドにして【拳銃】普及計画の協力者、バランス振り無課金エンジョイ勢プレイヤーことImitationCat145だった。


「やあ、ピヨコくん。【拳銃】普及のために必要な物があったんだが、私ではINT値が足りず、魔法アイテムは作れなくてね」

「そうでしたか。何を買ったんです?」

「ふふふ、これだよ」

「【エンチャント・グリップテープ】ですか」


 【エンチャント・グリップテープ】。剣の柄に巻くことで、その剣に「毒付与」や「炎属性」といった特殊な効果を持たせる魔法アイテムだ。INTとDEXに優れたプレイヤー謹製の物ならば「貫通」や「AGI低下」等の様々な効果を付与できるが、店売り品では基本的な効果しか付けられない。


「【拳銃】に巻くんですか?」

「【拳銃】に巻いても、銃床で殴った時に効果が出るだけだね」


 これは既に多くのプレイヤーが試したことだった。

 【エンチャント・グリップテープ】は剣のみならず、拳や脚に巻いても、巻いた部位での素手攻撃時にその効果が発揮される。その辺の小石に巻けば小石に効果が付与され、拾った木の枝に巻けば木の枝に付与される。

 【拳銃】に巻いた場合は、【拳銃】自体に効果が付与され、肝心の銃弾には何の影響も与えなかった。


「【エンチャント・グリップテープ】は、それが巻かれている物体で攻撃をした時に効果を付与する。より厳密に言えば、攻撃時に【エンチャント・グリップテープ】が巻かれている物体には効果が付与されている」

「はあ」

「このというのはつまり、のことだ」

「そうですね」


 店を出て歩き出すStrawberryEater427に、ImitationCat145は何となく追随した。StrawberryEater427は当たり前のように会話を続けていたし、自分の買い物については後日でも良い。


「前に話したことがあったね。【拳銃】の銃弾は、銃爪ひきがねを引いたに的に届いている。最速の物でも多少の時間差が生まれる、魔法や投擲とは違ってね」


 それを聞いて、ImitationCat145は少し呆れてしまった。また失敗前提の実験か、と思う。


「言いたいことはわかりました。でも、それが正しいか以前に、どうしようもない問題があります」

「言って見たまえ」

「銃弾はシステム的な物で実体はありませんよ。あらかじめ巻いておくなんて無理なのでは?」

「そうだね。だから、次は【エンチャント・グリップテープ】がという条件について検証した」


 歩きながらStrawberryEater427は【エンチャント・グリップテープ】をインベントリから取り出し、封を切る。


「結論から言えば、という判定は、ことでTRUEとなる」


 StrawberryEater427が【エンチャント・グリップテープ】で銃口程の大きさの輪、短い筒を作ると、残っているように見えたテープは消費されたと判定され、一瞬で掻き消えた。

 次いで【拳銃】を取り出したStrawberryEater427は、その先に【エンチャント・グリップテープ】の筒を添え、銃口をImitationCat145に向ける。


「喜びたまえ、ピヨコくん。

 君はこの『Ken & Maho Online』で初めて、毒付与効果の銃弾を食らうプレイヤーだ」


 乾いた安っぽい音と共に、何かが当たった感覚。それが続けて6発。


 ImitationCat145が自身のステータスを確認すると、状態欄には紛れもなく「毒状態」のアイコンが表示されていた。



 街中で行われたデモンストレーションとWikiへの投稿により、【エンチャント・グリップテープ】と【拳銃】を組み合わせる利用法は、ごく一部のエンジョイ勢プレイヤーに知られるようになる。

 StrawberryEater427の抱えていた【拳銃】の在庫も、物好きなプレイヤーに多少は売れたという。

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