第10話 新たな主6
主に連れてこられたのは石造りの大きな建物。誰かの邸宅という様子はなく、様々な人の出入りが見られる。その人々は貧富も男女も関係なかった。
「ここはどこでしょうか?」
「教会よ。神様に祈りを捧げる場所」
神社仏閣のような役割を持つ建物のようだ。
「セントレイトは王制都市だから来る人は限られているけど、なにも教会は神様に祈りを捧げるだけの場所というわけではないわ」
中に入れば椅子が並べられており、皆が椅子に腰掛けて銅像に向かって皆が手を組んで祈っている。合掌ではなく、手を組むのがこちらの流儀らしい。
「ほら、奥へ行くわよ」
主に従って教会の奥へと入っていく。廊下を通り抜け、裏口から出る。するとそこにはちょっとした広場を挟んで別の石造りの建物がある。その建物の前の広場では子供達が走り回っていた。
「あら、ステア様。ようこそ」
一人の女性がこちらに気付いて対応してくれる。頭まで覆う黒い服は、神社仏閣のような施設と相まって、尼僧を思わせた。
「シスター、かしこまらなくていいわ。それよりもこれだけど…」
先ほど、一度すられた布袋。それを女性に差し出した。
「そんな、ステア様もお苦しいでしょうに…」
「いいのよ。私にはこれくらいしかできないのだから」
「すみません…」
申し訳なさそうに尼僧は布袋を受け取った。
「あの、そちらの方は?」
「ああ、新しくうちのメイドになったサクラよ」
紹介されて一度頭を下げる。
「そんな、新しく人をお雇いになられたのなら、なおのことこれは受け取れません」
「良いから受け取っておいて。少しだから、ね」
返されそうになる布袋を尼僧の胸元に押しつけ、返却されることをなんとか避ける。
「ではせめて何かお飲み物でも…そちらでお休みになられてください」
尼僧は子供達が遊ぶ広場の建物へと小走りで駆け込んでいった。主は広場の傍らに置いてある椅子に腰を下ろす。少しだけ肩で息をしており、座ると同時に大きく息をついた。どうやら少しお疲れのようだ。
「あ、ステアお姉ちゃん!」
子供達がこちらに気付いて一斉に駆け寄ってくる。主は子供に人気のようで、お疲れの様子は微塵も見せず、笑顔で子供達と話をしていた。
「お姉ちゃん、遊んで」
子供達が一緒に遊ぼうと、主を椅子から立たせようと服を引っ張る。主は少し困ったような顔をしていたので、子供達の手を主の服から軽く引きはがす。
「お姉ちゃん、この人誰?」
「この人は新しく私のお手伝いをしてくれる人。サクラって言うのよ」
「へー…」
子供達の視線がこちらに集中する。子供相手とはいっても、主の品を欠かぬようにしなければならない。
「サクラと申します。以後、お見知りおきを」
子供達の元気な返答が返ってくる。
「そうだ、サクラ。みんなと一緒に遊んであげて」
「はい。かしこまりました」
主の命令だ。これより子供達との遊びに全力を尽くす。
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