第3話 奴隷市場2
着替え終わり、また言われるがまま奴隷市場の商品となる。黙って自分が買われるのを従順に待っている様子を見ながら、二人の男達はなにやらヒソヒソと話していた。耳は良いので会話は良く聞こえた。
「アニキ、これで売れますかね?」
「見た目は悪くないんだが、あの身体だしな」
「頭もちょっとヤバいかもしれないっすよ」
「確かに、服の着方がわからないってのは俺も驚いたぜ」
渡された服は馴染みのない形状や様式だった。そのため着方がわからなかったのだが、彼らからしてみればありきたりな服だ。着方がわからないと言うこと自体が異常だと見られているようだ。
「だが着飾って多少はマシになった。これでそれなりの値段はするだろうな」
「良かったっすよ。うまいもんが食えるんすよね」
「高い奴は無理だ」
「うぅ、いいものが食いたいっすよ」
日頃それほどいいものを食べられていないのか、手下の方の男は口を開けば二言目には何かを食べることの話をしている。
「お前は道中とさっきの着替えの時と二回吐いてるから余計だな」
身体に着いた無数の傷跡を見て彼は嘔吐しているのも空腹の原因の一つのようだ。
「…とはいえ、これで見た目は良くなったからな。少しは高値も期待できるぜ」
男二人は再び客引きを始める。その間もずっと無言で状況の推移を見守っていた。すると徐々にだが人目が集まってくるようになった。
「どうです? いい女でしょ?」
集まった客に男が売り込みをかける。何人かは足を止めて値踏みをしていくが、なかなか商談がまとまらないようで、買い手はつかずに時間だけが過ぎていく。
するとやってきた一人の客が一歩、露店へと踏み出してきた。
「よさそうな女じゃねぇか。ちょっくら剥いてくれるサービスくらいあっても良いんじゃねぇのか?」
客にそう言われて露店の男の表情が少し引きつる。
「それは買ってからのお楽しみってやつでしょう?」
なんとか切り返すが、その返しが客の勢いを止めることには繋がらない。
「おいおい、安い買物だったらそれもありだけどな。そうそう安い買物ってわけじゃねぇんだよ。ならどれくらい夜の方も楽しめるか、ある程度予測を立てなきゃな」
男達の視線が商品に集まる。各々、見た目で何か評価しているようだが、それは馬の耳に念仏と言わんばかりに、ただ商品として指示された場所にジッと座っていた。
「胸が少し物足りねぇ気もするが、どんなものか気になるじゃねぇか」
先ほど一歩踏み出してきた客がさらに足を踏み出してきた。
「あ、おいっ…」
露店の男が制止する間もなく、客は商品の服に触れ、胸元を大胆にはだけさせた。
「うわっ!」
「なんだこれはっ!」
「うぇ、気持ち悪い…」
客達は一斉に驚きと共に距離を取る。何人かはすぐに立ち去り、何人かは罵詈雑言を残してから立ち去った。
「なかなか商売上手じゃねぇか。もうちょっとでとんでもないものを買わされるところだったぜ」
気付けば露店の前の客は誰もいなくなってしまった。周辺の露店からヒソヒソと噂が伝っていっている。これでまともな値段で売れることは無くなったのだろう。
露店の男がへたり込んで大きなため息をついた。
「くそっ!」
近くにあった物を蹴飛ばす。相当怒りが溜まっているようだ。商品の悪い店と殺伐とした店主の店に客が寄りつくわけもなく、一瞬にして開店休業状態へと逆戻りとなった。
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