第2話 奴隷市場1
馬車に揺られて連れてこられたのは露天市場。しかし普通の市場ではない。売られているのは野菜を始めとした食材でなければ、農耕機具や武具といった道具でもない。店頭に並ぶのは手足を縛られた人だった。
小さい子供もいれば、成人した大人もいる。そこに自分も手足を縛られて座っている。ここに自分を連れてきた二人の男はしきりに前を通る人に声をかけている。
「そこの兄さん、どうだい? 見ていかないかい?」
ただジッと座っていろと厳命されたため、身動ぎ一つしないで仏像のように座ったまま動かなかった。それを見て足を止める人はいるものの、みんな首を傾げて通り過ぎていく。
「お、旦那。久しぶりじゃないですか。この女はどうです?」
足を止めたのは体格のいい男。見たことのない甲冑を着ており、人を近づけない雰囲気からかなりの熟練の戦士のように見受けられた。
「女、か。今日は瞥見できているのだがな」
「そう言わずに、以前もお買い上げくださったじゃないですか。ヴァルハラの騎士団もそろそろ女に飢えてきていやしないですかい?」
「欲しければ奪うという手も俺達にはある。残念だが、急ぎで買う必要は無い」
「そうですかい。ではまた頼みますぜ」
甲冑の男と一度目が合ったが、特に興味を持たれることはなかった。
「アニキ、売れないっすね」
「今回はこいつの一点限りだからな。売れなきゃまずいんだよな」
どうやら他に仕入れることができなかったらしく、二人はどうしても自分を売りたいらしい。
「アニキ、この際少し値引きとかどうっすか?」
「いや、周りもまだそれほど売れていないから値引きは早い」
男はボロい皿を取り出すと、そこに水を入れる。
「だがアピールは必要だ。女は少し惨めな方が男受けするからな」
皿を目の前の地面に置いた。
「喉が渇いただろう? 飲んでいいんだぜ」
「なるほど、さすがっすね、アニキ」
地面に置かれた皿の水を飲んでいい。その許可を与えた二人は何故かニヤついていた。何を考えているのかよくわからなかったが、拾われてからろくに飲食をしていない。そんな状態のため、水を飲んでいいという許可はありがたかった。
「この女はどうっすか? 見ていってくださいよ」
男達は集客を再開する。その男達の背後で、縛られた手を抜き、自由になった右手で皿を手に取る。そして入っている水を煽るように一気に飲み干し、皿を地面に戻す。最後に手を再び縛られた状態に戻し、最初の命令通りジッと座っていることにした。
「おい、何だよ。水はいらねぇのか…って、もう飲んだのか?」
「え? マジっすか? どうやったんだよ」
二人の男が何故か驚いている。何を期待していたのかしらないが、どうやら彼らの予想外な動きがあったらしい。
「おいおい、どうやったかしらねぇけどよ、これじゃあアピールになんねぇぞ」
馬を操っていた男が頭をかいている。
「アニキ、あっちの奴隷が売れたみたいっす」
「なに? クソ、負けてらんねぇ。客引きだ。とにかく数を打つぞ」
「了解っす」
「売れてくれりゃよかったが、売れねぇならしかたがねぇ。こうなりゃ着替えだ。こんなよくわからねぇ、しかも血が固まった服じゃさすがに売れねぇ」
「じゃあエロい服っすか?」
「バカ、こいつが服を脱いでみろ。売れるどころか客も近づかねぇよ」
「あ、そうっすね。こいつは脱いだらダメっすね。客がみんな吐いちまう…」
「露出は抑えたちょっと目立つ奴だ」
「わかりやした!」
手下の男は露天から離れて行く。残った馬を操っていた男はため息を漏らす。
「…ったく、儲けがさらに少なくなっちまう」
男は頭をかきながら地面に座り込んだ。どうやらかなり参っているようだ。
「顔は悪くねぇんだよな。なんとか身体は隠して、少しでも高く売りたいもんだ」
男は少しこちらに視線を向けながら、独り言のように呟いていた。着替えが届くまで開店休業状態となりそうだった。
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