第9話【無理ゲーの終わり】

 吹き飛んだアグレストの右腕をAK-47Ⅱ型で撃ち抜く。――右腕が灰になって消滅したのを確認し、背後を警戒した。


 その後――アグレストは叫び声と共に体中が発光しだして消える。


 シンヤは慌てずに装備を手榴弾に変更して、足元に転がすと同時に緊急回避でアグレストの巨大した左腕の攻撃を避ける。カメラワークの変更は一切せず、タイミングは何十回と実戦で挑戦している。


 失敗する方が難しいほどだ。


 爆発と同時に左腕が吹き飛び、AK-47Ⅱ型の乱射で灰となって消えていく左腕に笑みが漏れてしまった。


「倒し方知ってるだけで、ここまで楽になるか……」


 しかし、ここからが問題だ。


 ドロドロと溶けだした皮膚や骨は球体型に変化していき、無数の腕がロベルトを襲う。シンヤはすごい速度でボタンを連打しながら、上下左右にキャラクターを動かして攻撃を避け続けた。


 時には住宅街を利用しながら、色々な建造物をうまく利用して手榴弾をアグレストに投げ込むが、当たらない。


《メッセージ(リア):何でアグレストと遊んでいるんですか?》


 何度か助けていただいた恩人からのメッセージに苦い顔をする。


 ――俺が遊んでいる? この状況で? ありえないだろ!!


 距離を取りながら無数に投げた手榴弾の1つがアグレストの前で爆発し、アグレストの球体からキラキラと輝く赤色の宝石が姿を現した。


 それをコルトガバメントに装備変更し、確実な一発をキラキラと光輝く宝石に撃ち込んだ。球体から腕の数が増えていき、攻撃パターンが更にややこしさを増していく。


 それをディスプレイ画面で確認しながらさらに距離を取る。安全圏からの確実なダメージを狙う戦法……橋の上では狭すぎて出来なかった方法だが、ここならそれが出来る。


 しかし……目の前に現れた金髪ツインテールのキャラがアグレストとロベルトの間に割り込んだ。右腕には機械で出来た近未来的なデザインをしたハンドガンを持っている。


 キャラクターネームが【リア】と上空に記載されており、このキャラクターが「リアさんか……」と助けに来てくれたことに対する感謝半分と、あと少しで倒せそうだったのに……と横取りされた気分が半分だ。


 リアはハンドガンをアグレストへ向けて連射する。赤色の点滅した弾が無数にアグレストの体に張り付き、ダメージは入っていない様に見えた。


「何だ? この武器……意味あるのか?」


 その数秒後――赤色に点滅した弾が大爆発を起こす。


 シンヤは目を見開き、そのハンドガンの威力に呆れた笑い声が漏れる。それは爆発する弾を撃ちだせる銃……つまり、手榴弾の上位互換であるという事。


 球体から宝石が姿を現した……ロベルトの背後にいるリアを除いた8名のプレイヤーが閃光弾を投げまくる。知らないうちに背後にたくさんいるプレイヤーに多少動揺したことは許してほしい。


 ディスプレイ画面が閃光弾の光で真っ白に輝き、アグレストは宝石を丸出しにした状態で固まっていた。そこからは周りにいるシンヤを含めた10名のキャラクターによる一方的な虐殺……アグレストはその場で倒れ込んで爆散した。


「はは……マジかよ。閃光弾で動き止められるのかよ……知らなかった。てか、これはチートレベルだろ!? 何だよあの武器……周りにいる奴らもそうだが、装備のレベルが全然違うぞ!?」


《メッセージ(リア):倒し方を知らなかったみたいですね》


「知らんわ!! 今日たどり着いたばっかりの人間にこいつは何を期待してやがる!?」


 他のプレイヤー達もロベルトという新人にたくさんのコメントを送ってくれた……とても先ほどまで逃げ回っていた東京にいるとは思えない、温かい空気がそこには出来ていた。


やっとオンラインゲームをやっていると実感した気がする。


 そしてシンヤがその中で特に仲良くさせてもらっていたのが【リア】・【カイト】・【ZION】・【サッチー】と呼ばれる4名だ。この人達とは、連絡先を交換するほどいい関係だったと言えるだろう。


■□■□


 ここから先のお話はあまり意味が無いかもしれない……それはラストに繋がるピースなのだから、今話してしまうのは馬鹿だと言える。


 リアとカイトは、10名のキャラクターを東京から全員集めるのに3年近くの年月を費やしたそうだ。シンヤにとっては初めて2~3週間程度のゲームだが、ここにいる古株メンバーはこの化け物だらけの東京で、ずっと待ち続けていたに違いない。


 自分自身で2つ以上のキャラクターを作って東京に向かおうとは思わなかったのか? と聞いたら、《メッセージ(リア):負けたらデータ消えるのに、人数合わせの捨てキャラは使えませんね》と言われてしまった。


 実力で東京に到着できるプレイヤースキルを持った人間が10名集まって、初めて意味があるのだろう……気持ちは分からないわけでも無い。


 シンヤは4月2日から4月5日までの間……この東京で生き残って来た化け物プレイヤー達にここでの生き方を多く学んだ。アグレスト以外の化け物の倒し方・敵に襲われない方法や場所・そして新宿に建てられた巨大な塔【アヴァロン】について。


 聞けば聞くほどホラーゲームというよりはファンタジーに近くなっていく。どこからでも見える4重の螺旋で出来た巨大な塔は、このゲームを始めた時に目的にしていた場所――やはりここを攻略すればゲームがクリアされたことになるらしい。


 最も古株のリアとカイトは、リリース時からずっとプレイをし続けており、やっとの思いで10名というボスチャレンジの切符を手に入れた事に興奮した様子だ。


 長年にわたって予想と準備を整えていたシンヤ以外の9名は、誰かが欠ける前にボスへ挑戦したいと言い出したんで、シンヤは一生懸命聞けることを聞きまくった。


――自分だけボスに殺されてクリアできないとか……悲しすぎるだろ?


【4月5日(月曜日)】


 挑んだのは夜中の1時頃……それぞれの予定を合わせながら、集まるのに大分苦労したらしい……主にカイトさんが。


「そろそろ……狩りますか」


 長い戦いになる事は予想できたので睡眠管理はしっかりとしておく。限界まで体調は整えたつもりだ。ゲーマーの天敵は腹痛と目の疲れなのだから。


 キンキンに冷えたコーラを流し込み、緊張感を抑える。


 みんなから教えてもらった数々の化け物の倒し方や攻撃パターンは資料となって、机の周りに散らばっている。完璧に頭に叩き込んだ……確実に中間テストや受験以上に勉強していたと思う。


 学校? 行っていませんが問題ありますか?


 コントローラーを片手に笑みが漏れた。正直に言ってしまえば、負ける気がしない……周りが頼りになりすぎる。


 10名のプレイヤー達は、アヴァロンの中へと入って行った。


 そこは酷い光景だったような……悲しい光景だったような……中にどんな化け物がいるか分からない緊張感と、仲間が守ってくれる安心感が感情をごちゃごちゃにしながら――シンヤはボスと戦った。


 皆がそれぞれの武器を片手に、正面にいる【〇〇〇〇〇】と戦った。


■□■□


 ゲーム攻略者


 ・信条シンヤ


 ・天能リア


 ・道徳カイト


 ・森根サチ


 ・熱意リョウ


 ――残ったのは、5名の『本名』が記載されたディスプレイ画面だけだった。それから数日後……5名にのみ、それぞれ1000万ずつの賞金が振り込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る