第8話【無理ゲーとか言ってすいません今までがヌルゲーでした】

 橋を越えて東京の北区に到着したロベルトはそれから数時間以上逃げ回っていた。電話ボックスを探し周っては、ゲームを終了させる悲願を願って。


「ありえないだろ!? 何だよこれ!!」


 シンヤのネカマキャラであるロベルトは、建物の中をとことこと突き進んでゾンビ達から逃げ回る。外に出た瞬間に速攻ゲームオーバーになる未来が見えていた。


 シンヤが引き分けに持ち込んだ【アグレスト】は雑魚キャラと混じって普通に歩いているし、その他にも【ターミナル】・【カブリコ】・【ラミリステラ】・【クリムゾニック】・【GOD】・【グラ】&【バニ】――その他たくさんのアグレストレベルの中ボスキャラクター達が町中を徘徊している。


 どの敵も今のシンヤでは到底勝つことが出来ない化け物ばかり……こんなのクリア出来るわけが無い。


 建物から建物へ身を隠しながら細い小道を使っては、ショッピングモールに突入してそのまま駐車場の3階へ飛び出す。


「カツン!!」――歯と歯を叩く音……


「っく!?」


 瞬間移動した化け物がロベルトの前に立つ――逃げる、避ける、そして逃げる……


「ピピピピピピピピピピピー」――モールス信号のような音……


「気持ち悪いな!!」


 伸びた腕がロベルトの道を塞ぐ――進路を変えては緊急回避を使って、車を利用しながら逃げる。


「カッカカ……カカ」――錆び付いた歯車のような音……


「何でもありかよ!?」


 駐車場に置いてある車が宙に浮いては、それがロベルトの方向へ弾丸のように飛んでいく。ダメージを受けては、速攻で薬草の大量消費……


「キィィィューカキャァァァァ……キィィィュー!!」――高い音と叫び声が混ざったような気持ちの悪い音……


「眩しい……」


 太陽の光が届きにくい、駐車場の三階にいるはずのロベルトを謎の光が包み込む。シンヤの頭の中で警報が鳴り響いた。――急いでその光から距離を取る。


 次の瞬間――光に照らされていた部分に巨大レーザーが飛び出し、その部分が消滅した。ゲームとは思えないリアルなグラフィック。


 駐車場は崩落し、ロベルトはそれに巻き込まれて1階へと落ちていく。体力はイエローゲージに突入したが、死んではいないようだ。


 そこに連打エフェクトが出現――爪を使ったガチャガチャ連打。


 ――いらない仕様作るな……


 ついでに10円を使えば世界記録を狙える自信がある。ファ〇コンはボタンが出すぎているから、角度が肝心だ。初心者はスーパーの方をお勧めする。


 時代に合わない懐かしさを感じながら崩落から脱出すると――数十体以上のゾンビや化け物に囲まれていた。


「さすがにこれは無理だ……終わった」


 アグレストレベルの化け物や雑魚ゾンビがウジャウジャといる状況。ゾンビだけなら活路も見えるが、こんな化け物だらけの場所から逃げ切れる自信は無い。


 装備するのはAK-47Ⅱ型――シンヤが最初に手に入れた相棒とも呼べる武器。


 記念にスクリーンショットでも取ろうか? ……東京に到着したんだ。ネットに乗せればそこそこ話題にもなるだろう。


 諦めムードになっていたシンヤは、左下に表示されたメッセージを視線で捉える。


■□■□


《チャット(リア):どうやら最後の1人が来たみたいですね……》

 金髪ツインテールのキラキラとした制服に身を包んだ女性キャラクター。ハンドガンを装備して先頭に立っていた。


《チャット(カイト):また、迎えに行って死ぬパターンありません?》

 青色の髪に眼鏡をかけた男性キャラクター。スナイパーライフルを背中にしょって、リアと呼ばれるキャラクターの隣に立っている。


《チャット(zion):行きましょうよ! 距離も近いし、ラッキーですよ》

 赤色の男らしいツンツンした髪をした男性キャラクター。シンヤが手に入れたAK-47シリーズのⅢ型を装備している。


《チャット(サッチー):私も賛成! そろそろこのゲームもクリアしたい》

 ボーイッシュな緑色の髪をした女性キャラクター。バチバチと雷に包まれた日本刀を装備している。


《チャット(リア):とりあえず行きますか……暇ですから》

《チャット(カイト):リアさんが言うなら賛成です》

《チャット(zion):さすがリアさん!! 分かってる》

《チャット(サッチー):それじゃあー行きますか……リアっち!!》


 リアと呼ばれるキャラクターの後ろには、9名のキャラクターが立っていた。そして彼らがいる場所は、東京の文京区……日本一の学校を前に大量のゾンビや化け物達に囲まれている。


「ロベルト……長かったが、君を逃す気は無いよ」


 リアと呼ばれるキャラクターを使っている少女は真っ白な箱の中で、コントローラーを握りしめてロベルトの元へ向かう。


 その頃、ロベルトは橋の上で放置プレーされていたため、全くその場を動いていなかった。


 この日本サイズのデカいフィールドの中を縦横無尽に9名のプレイヤーが動き出す。


■□■□


《メッセージ(リア):今から正面の敵を吹き飛ばしますから逃げてください》


 【リア】と表示されたメッセージを視線で捉えたシンヤは、疑うことを忘れてその言葉を素直に信じた。そのメッセージが表示されて数秒後――複数名のロケットランチャーによる攻撃で、正面にいる化け物達が吹き飛ばされる。


 シンヤはその瞬間を逃さない。慌ててコントローラーを操作して、倒れているゾンビや化け物の真横をスルスルと抜けていく。


 ――なぜ救ってくれたのか? 何で東京にプレイヤーがいるのか? 全く状況が把握できていなかった。


 自分の事しか考えられず、ゾンビのいない場所まで走り出す事しか出来ない。


「誰だか分からないけど、マジで感謝!!」


 近所中に響き渡るほどの声が出た――最高の気分だ。


 その後、ゾンビ達が入り込まないであろう一般住宅地の並んでいる場所で、車の裏に隠れてやり過ごす。左下に新しいメッセージが届いていた……


《メッセージ(リア):死亡告知が出ていないという事は逃げられたようですね。今から大切なことを簡潔に説明します。

①ゲームクリアには10名の参加プレイヤーが必要

②こちらで9名までは揃えています。

③東京にいるプレイヤーにはロベルトさんの情報が告知されています。

④メニュー欄から地図のコマンドが増えていると思います。》


「マジで……」


 ただでさえ東京に到着したのは俺が初めてだと思っていたのに、すでに9名も存在していた。もしかすると他にもいた可能性は大だな……それにゲームをクリアするための条件がプレイヤー10名!?


 まだまだ言いたいことはある……地図ってなんだよ!? いろいろ分けわからんぞ!?


 シンヤはメニュー画面を開き、新しく追加されていた【地図】というコマンドを選択する。ゲーマーであるシンヤは、知らない情報がある事が許せない。地形や倒し方……知っているか知らないかだけで、その敵の見え方は大きく変わる。


 地図を開くと自分の現在地と東京23区が一覧で表示される。ロベルトは赤色の点で表示され、不規則に動く青色の点が他のプレイヤーキャラだと予想できた。


 シンヤはリアに返事を書き込む。


《メッセージ(ロベルト):助けていただいてありがとうございます!! 本当に泣いちゃいそうでした……直ぐに合流したいです。どちらへ向かえばいいですか?》


「俺は女になるぜ? 何か問題でも?」


 こんなところで死ねるか……俺はこのゲームで完璧な女になりきる。ネカマだろうが何だろうが、知った事ではない。ここで女だと思わせておけば、確実に男どもがこちらから向かいますと言ってくれるだろう……


《メッセージ(カイト):こちらから向かいます》


「おっし! 男を1人釣ったぞ!?」


 この美少女キャラクターが輝く時が来た。今この瞬間の為に、キャラクターメイキングに捧げた膨大な時間が役に立つ!


 きらきら輝く透明度の高い水色の髪に可愛らしいブレザー制服……その上には学者が着るような白衣にパッチリとした宝石のような目……完璧だ。


 熟練プレイヤーの到着をただただ車の裏に隠れて待っていた時――ロベルトに丸い影がかかる。どこか見覚えのある光景に額にしわが寄る。


「?」


 丸い影は徐々に濃さを増していき、巨大な右腕の形をした影が映る……「――ん!? アグレストかよ!!」――急いで緊急回避を行う。


 空中から落下してきたアグレストは、右腕を巨大化させて車ごと吹き飛ばす。長い戦いの記憶が脳裏をよぎり、ため息が漏れた。


 アグレストはその場で全く動かず、その間にシンヤはAK-47Ⅱ型で周りのゾンビ達を駆逐していく。他に中ボスレベルの化け物はいない……リベンジマッチも可能な状況だ。


 倒し方を知っている今の俺なら……いける。


 その後、跳躍したアグレストの右腕を手榴弾に装備変更してその場で転がす。緊急回避のタイミングとアグレストが落下するタイミングがいい感じに重なり、アグレストの右腕が吹き飛んだ。

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