第1話【無理ゲーなんですがこれ】

 【信条シンヤ】――俺の名前だ。


 自分の事をどう思っているのか? そんな風に聞かれれば好きだと答える。


 いや、そういう趣味じゃないよ……?


 シンヤは小学校の頃からゲームが好きだった。ガッツリFPSゲームにハマり、それは趣味の域を超えていた。そういった趣味に生きる自分は、生き生きしていたと思うよ。


 中学校に入ってからもその趣味は衰える事を知らず、ネットの掲示板にも名前が載るようになり、他の人のサイトに自分のキャラクターネームが載っている事に武者震いをしたこともある。


――つまり、嬉しかったのだ。


 学校を休んで、世界ランキングに名を残すようなこともした。一瞬の輝きではあったが、今思い返してみてもなかなかすごい事をしたと自信を持って言える。


 ある程度の結果を出すと、飽き性な自分はまた新しいゲームを極めようとする。


 そんな時に出会ったのは、掲示板のトップに載っていたとあるゲームの話題だ。


《実は最近、無理ゲーに挑戦してるんですよ。これ、クリアした人います?》

《『オブ・ザ・デット』じゃん……それは無理、クリア出来ない》

《運営が賞金まで付けたゲームっしょ?1000万とか、払う気ないだろww》

《3年経ってもクリア人数0……結構極めた奴も、東京直前で爆死》


 そんな書き込みに目を奪われた。


『誰もクリアしたことが無いゲーム』何て言われたら、少しやってみたくなるじゃないか……ゲーマーの性だな。


 タイトルをコピペしてサイトで検索をかけると、動画や画像が嫌というほど出てきた。


「って、これ……ガンゲ―じゃん!」


 それはシンヤが世界に名を刻み込むほどの得意分野。笑みが漏れてるのは仕方が無いこと。運命を感じ、ダウンロードページを探す。


 しかし、やる気をそぐ部分もこのゲームには存在した。


「基本無料ゲームかよ。――しかもオンラインゲーム」


 これはシンヤの勝手な意見だが、基本無料ゲームはシステムがザルで、FPSでも愚痴をよくこぼした記憶がある。


 大体がクソゲーだ…… ※これはシンヤの個人的な意見です。


 だがそれ以上に魅力的な言葉がこのゲームには存在する。


『誰もクリアしたことが無い』


 これほどゲーマーに魅力を伝える言葉が存在するだろうか? いや、無い! ゲームをやった事が無い奴だって挑戦してみたくなる魔性の言葉だぞ!?


 そして適当に作られた『これ、宣伝する気あるのか?』と言いたくなるような、白紙の球体ページを見つける。


 スクリーントーンが球体型で真ん中に張られており、その下には怪盗予告状みたいな文字で『ダウンロード』と書かれたボタンが付いていた。


 ――マウスカーソルを持っていく……カチカチ……


 ダウンロードが始まり、それなりに長い時間がシンヤに与えられた。やることも特にないので、その間に動画やサイトをあらかた調べて、このゲームについての知識を増やすことにした。


 それから数時間後――「これは無理だわ……確かに無理ゲーだな」――などと口にしている自分。


 適当にオンラインステージを動き続けるゾンビ達、初期装備はハンドガンとナイフからスタートする。


 動画の奴らは、ゾンビ1体を数十名で10分ほどかけて倒し回っていた。オンラインゲームではよくある協力プレイって奴だな。


 しかし、銃声にゾンビが反応するシステムが組まれていたのだろう。右上に付いているミニマップを覆いつくすほどのゾンビに囲まれ、速攻全滅した。


 中には音に気を付けてナイフで突撃する奴もいたが、相当の技術が必須なのだろう、攻撃を一撃食らって死んでしまった。


「ス〇ランカーかよ!? HPゲージ必要なくね……?」


 そして何よりクソゲーだと思ったのは、このゲーム『死んだらデータが消える』所だ。


 正確にはアカウントが消える。もう一度メールアドレスからアカウントを制作しなければならない……めんどくさすぎる!


「データだけ消せばいいだろ!? なんでそんな嫌がらせするんだよ!!」


 やる前からすでに大分やる気が削がれまくっている……しかしタイミング悪くディスプレイ画面には『ダウンロード完了』の文字が表示された。


 冷たい苦笑いが漏れる。


 これ……今からやるの? このクソゲーを?

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