第2話【無理ゲーは始まる前から積んでいる】

 物は試しだ。


 投げやりな考えでゲームを起動させた。


 ホームページの真ん中に張られているスクリーントーンで作られた球体は、ゲームのスタート画面でも表示されている。どういった意味なのかはさっぱり分からないが、何かしらの意味があるように見えた。


 球体の真ん中には、新聞紙で切り取った怪盗予告状のような文字で【オブ・ザ・デット】という作品名が記載されていた。


「このデザインセンス……悪くないな」


 絵やイラストを張り付けまくったタイトルよりも、こういった意味の分からない不気味さが出るタイトル画面の方が、個人的には好きなようだ。


 まぁ、動画で何度も見たタイトル画面だけど。


 そこからはシンプルなキャラクター作成の時間、細かい顔の輪郭までいじれるのだから、やはり美少女を作りたい。ネカマプレイをしたいわけでは無いが、男キャラを作成するとネタキャラに走ってしまう……


 クリアできるとは思っていないが、史上初のクリアキャラがネタキャラって言うのも、どうなんだと考えてしまう。


――悪くないな……


「まぁ、ネタキャラで行くけど」


 それからキャラクターメイキングに3時間は使ったんじゃないだろうか? そこにいるのは紛れもなく美少女だ。


 ディスプレイに映るのは、透明度の高い水色の髪にパッチリとした瞳――ブレザー制服を着た、美の女神アプロディーテ―を彷彿とさせる出来栄えだ。


 知らんけど……


「キャラクターネームは【ロベルト】……っと」


 FPSゲームでも長年お世話になっていた名前だ……ん? 何か忘れているような気がする。


 このゲームの重要な仕様が頭の中でフラッシュバックし、それはシンヤが費やしたこの3時間を無駄にする内容だった。


「これ!! ――死んだらアカウント消えるじゃん!?」


 3時間程かけたシンヤのキャラクターは、この無理ゲーで死んだ瞬間、アカウント事消える。


 ディスプレイ画面の正面で鼻息が荒くなる。目を大きく見開き、目力が強くなる。


「やばい……これは死ねない奴だ。始まって数秒で死んだら俺が死ぬ」


 プルプルと震える手先で、ゲームスタートボタンを押した。


■□■□


 このゲームの設定では、スタート地点はランダムに4箇所――埼玉県・千葉県・山梨県・神奈川県のどこかから始まる様だ。


 そして中央に立つ『巨大な塔』を目指し、そこにいるボスを倒せばクリアだと言われている。と言っても、ネットでの噂だ……誰もクリアした事が無いのだから有力な説を語っているだけに過ぎない。


 その巨大な塔が立っている場所――東京の『新宿区』にたどり着く事がシンヤの目標だ。


 街並みの再現度が高いにも関わらず、その異様な形をした塔だけはこの世界に存在しない。4重の螺旋で出来たその塔の名前は【アヴァロン】


 転送されたシンヤの美少女キャラクターが立っていたのは、建物の中だ。ゾンビゲームだけあって、ひっかき傷だらけの壁や血だらけのカーテン――この場所は学校の教室だ。


「ホラーは苦手だなぁ……まぁ、やるけどさ」


 小学校か? それとも中学校か……高校なのか? 教室にいる状況では、判断が付かない。


 オンラインゲームでは良くあるが、大勢のプレイヤーが同じ位置で重なっている。シンヤが作り出した美少女キャラクターのロベルトが、数分程度の時間しかかけていないであろう『ゴミキャラ』と並ぶのはいい気分ではない。


 俺はその場から移動し、教室から出た瞬間――


 数十体以上のゾンビに囲まれていた。


 左右の道はすでに塞がれており、ゆっくりと教室の中へと帰還する。ゾンビ達はスタートエリアギリギリで透明な壁にあたった様に、動かないまま進み続けていた。


 シンヤは試しにゾンビ達が近づかないエリアから銃口を向けて、初期装備のハンドガンを連射した。銃声のみが響き渡り、ゾンビ達にダメージが入った様には見えない。


「え? 出口は?」


 シンヤは数分ほど教室を探索し、発狂する。


「クソゲーがぁぁああああああ!? 始まる前から詰んでるよ、これ!?」


《コメント:外に出られないんだけどぉ!?》

《コメント:みんなで凸るか!?》

《コメント:うぉぉぉおおおおおおおお!》

《 告知 :ガガルゴン0314が死にました》

《コメント:ガガルゴォォぉぉぉおおおン!!》


 流れるコメントの嵐の中で『みんなで突るか!?』という一言に俺は苦笑いした。ここにいるキャラクター全員で突撃すれば、ワンチャンスあることに気付き、頭を抱える。


「コメントで突る流れ作れるかぁ……?」

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