第2話
僕を連れて彼女は喫茶店に入った。
コーヒーや紅茶は好きなので喫茶店自体は好きなのだが、まだよく知らない彼女と二人でいるという状況が僕を追い詰める。
「ねぇ、空木くんは何飲む?」
平然と聞いてくる彼女。慣れているのだろうか。
彼女はやはり僕のような人見知りとは違う人種だと言うことを実感する。
「えと、ブラックのホットで」
大丈夫。声は出ている。
コーヒーを飲めば少しは落ち着くだろう。
「すいません、ブラックコーヒーのホットとアイスひとつずつ」
店員にはきはきと注文を伝える彼女。
いつもぼそぼそと喋る僕とは大違いだ。
「その、なんで僕を?」
気になっていたことを聞いてみる。
謎が一つでも明らかになれば安心感も増すだろう。
「君、ラウンジ来なかったでしょ。だから代わりにさ」
僕を指さしながら彼女は言う。
律儀だなぁと関心しつつも、面倒だとも思った。
「そ、そんなに律儀にしなくても……」
そう言い出した僕を遮って彼女は言った。
「君さ、私のことちょっと怖がってるでしょ」
正直に答えるならばYESだが、流石に女の子に怖がっていると言えるほど僕の心はタフじゃない。
「そ、そんなことないよ。むしろ知らない人にも話しかけられてすごいなぁって思ってるくらいだよ」
当たり障りのない答えとお世辞を並べておく。
経験上、こうすれば問題はないはずだ。
「すごくなんてないよ。実際、今も私ドキドキしてるもの。君に嫌われないかさ」
本当だろうか。
普段学校での彼女は明るく笑顔を振りまいていて、そんなイメージはなかった。
「私ね、君が私と同類なんじゃないか、って思うの。だから声かけたんだけどさ」
同類?僕と彼女が?嘘をつけ。
僕みたいな臆病者と彼女のような人気者では住む世界から違うのだ。
「私達はさ、人と関わって傷つくのが怖いっていう共通点があると思うんだ」
彼女が人と関わって傷つくのが怖いなんてありえない。
怖いのだとしたらあんなに人と話すことなんてできないはずだ。
「君はどう思う?同類か、同類じゃないか」
突然問うてきた彼女。
でも、答えは決まっている。
「同類なんかじゃない。僕と君とじゃ住む世界が違うんだよ。君みたいな人気者にはわからないだろうけどね」
皮肉を少しだけこめて、冷静に話す。
なぜか滞りなく口から言葉が流れ出た。
「違うよ。住む世界は一緒。私はただ、無謀なだけ。君みたいに頭の中で考えることなんてできないんだもん」
見透かされている?僕が言葉に出していない心を?
底知れない恐怖が僕を襲う。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
こっちに来ないでくれ。
僕の心を覗き込むのはやめてくれ。
「私ね、人の心が読めるんだ。そのせいでいろんな人を傷つけちゃって、それがちょっとトラウマなんだ」
嫌だ。怖い。来るな。見るな。
「だから、君の考えてることもよく分かる。私のこと怖がってるってことも。でも、一つだけ言わせて欲しいの。君はいろんなことをいっぺんに考えられるすごい人だし、君が思うより人のことをよく理解してる。私のこともね」
すごい?人のことを理解してる?そんなことはない。
彼女は僕を過大評価している。
「いいかな、君が思うほど君は強くないし、弱くもない。ただ、私よりは絶対に強いと思う。だって君は私のことを『いやだ』って思えてるじゃない。私は臆病だから人のことを嫌うことなんてできない。人から嫌われることを怖いって思ってるからね」
何を言っているんだ?
僕に強さなんてない。
ただ自分勝手なだけだ。
「私は……」
彼女が話し始めたところで、店員がコーヒーを持ってきた。
良かった。コーヒーを飲んで少し落ち着きたいところだった。
しばらく互いに無言でコーヒーを飲む。
次に先手を切ったのは、僕。
「野々瀬さん。君は僕を過大評価しているし、君自身を過小評価している。君には僕なんかと話すよりもっと有意義なことをおすすめするよ」
そう言い放って、彼女の話も聞かずに飛び出した。
ただ、ひたすらに逃げた。
お代を払い忘れたのに気がついたのは、家についてからだった。
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