第4話 王太子妃の座
国王は年頃の王太子のために、妃を娶らせたいという。そうして、国王はたった一人の愛娘であるミリアムに、王太子妃として相応しいものは誰か、ウォルポール女学校にそう言った貴族令嬢はいないかと問うた。これからの展開から分かる通り、ミリアムはセアラの名前だけを出したのだった。
セアラの実家の公爵家は、公爵家の中でも上位の称号を持つウィリクリフ公爵だった。セアラの父、兄の功績はここ数年の中でも大きなもので、だからこそ国王はウィクリフ公爵令嬢セアラと王太子の婚約をすぐに決めるに至ったそうだ。
国王はミリアムの話だけを聞いたので、セアラが一風変わった女の子であるとは思いもよらなかっただろう。
内密にことは進められた。セアラは知ることとなったが、一方の王太子は未だ知らされていないそうだ。
「素敵でしょ?」
ミリアムは満面の笑みを浮かべて言った。彼女にとってセアラがどんな存在か、セアラは今初めて知った気がした。
「でも、私、王太子殿下とはまだあったことがありません。陛下やミリアム様がどんなに望んでも、当の王太子殿下ご自身が首を縦に振らなければ、意味がありません。こう言った意味で、未来の王妃に相応しい方は他にも多くいらっしゃるでしょう。この国には比較的女が多いようですから」
セアラは言うが、ミリアムは聞く耳を持たなかった。兄は大丈夫であると。
「お兄様は私と同じ性格なのよ。きっとあなたの美点を見つけるわ。私がすぐに気づいたようにね。それにあなたには王妃になる素質があるわ。だから他の令嬢に、なんて言わないで。私はあなたが良いの」
ミリアムの言う『素質』が、一体どのようなものであるかセアラには容易に想像できたが、それは王妃になるための素質とは言えなさそうだった。
「失礼します」
突然背後の扉からノックの音とともに声がした。
「お手紙です」
ミリアムの部屋にやってきたのは、ミリアムがこの学校に五年前に連れてきた世話係の女の子だった。
「国王陛下からのお手紙です」
通常ここにきた貴族令嬢は侍女を伴わないものだが、ミリアムはやはり別格らしい。
世話係が来たのを好機と捉え、セアラは退出しようと、ミリアムに儀礼的な挨拶をするために、背筋を伸ばした。
「もうそろそろ階下に降りなければならないので、お先に失礼致します。朝の貴重な時間をいただき、感謝します」
それから一週間、セアラは事あるごとに、自分は王妃にふさわしくない、王女の義姉になることは栄誉なことだが、王太子妃の座には興味がない、と言い続けた。しかし、やっぱりミリアムには通じず、言えば言うほど彼女の決心は硬くなる一方だった。
セアラは決して諦めに良い女ではない。ましてや、自分のこととなると、諦めることもしない。彼女は王太子妃にならないために何か、策を練る必要があると考えた。
旅人 セアラ 章詩 薫 @kikikaoruko
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