4 死への旅
死への旅
……ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい。
そう言って、彼女は泣いた。ずっと、ずっと泣いていた。
僕は彼女が死んでしまうことがないように、彼女の旅についていくことにした。
僕がそう言うと、彼女はちょっとだけ驚いた顔をしてから、「ありがとう」と僕に言った。(彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。それはまるで雨上がりの雲間から覗く眩しい太陽の光のように見えた)
それから二人は当たり障りのない話をしながら食事を続けた。
すると、二人はだんだんと仲が良くなり、さっきまでよりも少しだけ、お互いの心の中にある、(しっかりと鍵をかけて、箱の中にしまっている)深い話ができるようになった。
「街にはいかないのですか? あるいは、できるだけ人の住んでいる場所の近くで暮らしたほうがこの場所よりも安全ではありませんか?」と(ランのことを本当に心配して)騎士様は言った。
「安全な場所なんでどこにもありません。どこだって同じです。森には闇が、そして、街には人がいます。危険な人たちであふれています。今は……戦争中ですから」と小さく笑ってランはリリィにそう言った。
家の中には二人以外、誰の気配もしない。(家の中には人の気配はない。それが命をかけて戦い続ける騎士であるリリィにはよくわかった)リリィは静かな家の中を少しだけ見渡してみる。
「ご家族はいなのですか?」リリィは言う。
「……はい。みんな死んでしまいました。今、この家には僕一人で住んでいます。ここには、みんながいなくなってしまっても、……みんなの大切な思い出がありますから」
にっこりと笑ってランは言う。
……天涯孤独。世界の中に一人ぼっち。
「……そうですか。なら、ランさんは私と同じですね」とにっこりと笑ってリリィはランにそう言った。
「え?」ランは言う。
ランはそんな騎士様にとっさに言葉を返すことができなかった。リリィは小さく笑っている。それから二人はまた少しだけ無言になった。
「騎士様も、一人ぼっちなんですか?」
勇気を出して、食事が終わる最後のとき、ランはリリィにそう言った。
「はい。私も一人ぼっちです。この広い世界の中に、……一人ぼっち」とにっこりと(まるで聖母のように、あるいは天使のように)笑って、金色の髪をした小柄な女性の騎士様は、ランの目をまっすぐに見てそういった。
「ごちそうさまでした。貴重な食材を使ってのお食事、どうもありがとう」リリィは言った。
ランは二人の食事の後片付けを始めた。
ランが(リリィは手伝うと言ったが、そんなことを命の恩人である騎士様にさせるわけにはいかなかった)食事の後片付けを終えても、雨はランの予想通りに降り続いていた。
天気はずっと大雨だった。
いや、次第に、雨は強くなり続け、家の外はまるで嵐のような世界に変わった。ごろごろとかみなりのなる大きな恐ろしい音も聞こえる。(雨の音もとても激しく、強くなった)
ときどき、ぴかっという光とともに、窓の外が紫色の光に包まれることがあった。その度に、ランはその体を小さくさせて、かすかにぶるぶると震わせた。
……人はかみなりに打たれても、死んでしまう。
ランには嵐の中に光る紫色のかみなりがまるで自分を死者の世界へと連れて行くためにやってきた死神のように思えた。
「かみなりが怖いのですか?」
今は軽装の鎧も脱いで、青色の服の姿になったリリィが、椅子の上で丸くなっている姿勢のまま、じっとかみなりが鳴るたびに怯えているランを見てそう言った。
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