天気は急に大雨になった。

 少し前の景色も見えなくなるくらいの、激しい雨だ。そんな激しい雨の中をランはリリィを案内して、霧の森の中を小走りで走るようにして、移動をしていた。


 朝からずっと曇っていた灰色の空からは、ランとリリィが、ランの暮らしている霧の森の中にある家まで一緒に移動している途中で、天をひっくり返したような激しい土砂降りの雨となった。

 一度降り出した雨は、……もう、当分、止む気配はない。


 ランの家の前には、大きな壁のようになっている、大地が隆起した小高い崖のような場所があった。(雨のために滝のようになっていた)

 そんな危ない場所をランは器用に登っていく。リリィはそんなランのあとに続いた。雨水の流れる小さな崖をランとリリィは縦に並んで一緒に登る。


「どうぞ」先に崖を登りきったところで、後ろを振り返って、リリィに手を伸ばしてランは言う。

「ありがとう」にっこりと笑って土砂降りの雨に濡れているリリィは、ランの伸ばしてくれた手を掴みながらそう言った。


 それから二人は崖を登りきって、ランの家まで無事に到着した。


 二人がランの家の中に入って、ランがドアを閉めると、(雨の音は小さく聞こえるけれど)世界は急に静かになった。


 ランの家は森の中にあった。

 森の出口に比較的に近い場所だ。


 古い木材で作られている、どこにでもあるような小さな小屋だった。ものの少ない家だ。そんなどこにでもあるような、あまり珍しくもない殺風景な風景を、リリはなぜか、とても興味深そうな目で、楽しそうな表情をしながら、きょろきょろと見渡した。

 ランがそんなリリィのことを(いつの間にか、見惚れるようにして)ぼんやりと眺めていると、ふと、ぐー、とお腹のなる音が聞こえた。


 ランがはっとしてリリィの顔を見ると、リリィはその真っ白な顔をほんのりと赤く染めていた。

「……すみません。実は少し前から、なにも食べていないもので」

 とリリィは恥ずかしそうな表情をして、ランにそう言った。


「じゃあ、食事にしましょう。豪華なものはありませんが、食べるものは少しはあります」と雨に濡れているランはにっこりと笑ってリリィに言った。

 するとリリィは「どうもありがとう」と笑顔でランにそう言った。

 ランはその言葉通りに(決して量が多いわけではないけれど)精一杯の食事を命の恩人であるリリィに用意した。

 リリィはその間、ずっとランの家の中を興味深そうな顔のまま見ていた。まるで美術館の絵画でも鑑賞するような目をしていた)

 リリィは大きな剣を下ろして、雨に濡れた紺色のマントを脱いで、軽装な鎧姿になった。リリィはその鎧姿のまま、ランが用意してくれたテーブルの前にある椅子に座った。

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