066.的中

 奇異の視線を集めるという若干の居心地の悪さを感じながらも午後の講義が始まる。入学前から学生代表にされるという物珍しさからすると仕方ないところはあるが。


 始業時間ちょうどに現れた担当講師らしき男が咳払いすると集めていた視線がそちらへと移り、にわかにざわついた。


「このクラスを担当することなったダインだ。まぁ、ひとつよろしく頼む」


 ダイン教官か。


「ナイスミドルなオッサンだな」


「将来の上司かもしれないわよ」


「渋いオジサマだな」


 言い直してもあんま変わらないか?


「有名人か?」


「ええ。クレア隊長やエンコ隊長にもひけをとらない実力者よ。奇襲部隊の部隊長を務めることが多く、周囲からの信頼も厚いわ」


 なるほど、周りがざわつくわけだ。しかしどこから情報を得ているんだ。いや、気にしても無駄か。


「既に一部は自己紹介が済んでるみたいだが」


 ダインがちらりとこちらを見る。


「これから少なくとも半年間はこのクラスでやっていく。互いの顔と名前をよく覚えておくように」


 学生達が頷いたのを確認してダインが続ける。


「じゃあお互いを知ることも含めて、今日は四つのグループに分かれて模擬戦をするぞー。適当に分かれてくれ。今日のところは知り合い同士でもいい」


 学生達が顔を見合わせて少しずつ小さなグループができはじめる。


 そんな様子を近くで眺めていたガウスと目が合う。


「組むか!」


「ああ」


 トントン拍子にまずは一人目だ。クラスは全部で三十人。四つに均等割すると…割り切れはしないが一グループあたり七、八人というところか。少なくともあと五人だな。


 そう考えていると後ろから声が聞こえた。


「今年もこれをやるのね」


「お決まり」


「でも顔ぶれがだいぶ変わってるし、楽しめそうね」


 ハルの言葉にフェリィが頷く。


 どうやら定番の訓練らしい。


「ソーシと戦うのもいいけど、共闘してみるのもいい」


 フェリィがこちらに近づいてくる。


「それもいいわね。この間は一緒に闘ったというにはほど遠かったし、新入生たちに先輩風を吹かすのもいいわね」


 ハルもそんなことを言いながら近づいてくる。


「面白そう。このクラスを牛耳るわけね」


 もともとそばにいたこのカスミ、ノリノリである。


 あっという間に三人が追加された。一応ガウスに確認するが問題ないとのことだ。美少女と言っても過言ではないこの三人が入っても特に浮き足立ったり、態度が変わる様子がない。


 ありがたいことではあるが、ストライクゾーンが広そうなこの三人の誰にも当たらないということはまさかガチホ…いや、深く考えるのはやめておこう。


 何にせよ、これで五人だ。ただこれで知り合いはいなくなったな。


 バランスで言えば、斥候のできるカスミに治癒魔法の得意なハル、一撃の威力なら竜化したフェリィ。おそらく武闘派のガウス。そしてオールマイティを持った自分だ。全体的にバランスがとれているが、自分でも反則気味だと思うオールマイティがさらにそれを助長している。


「強いて言うなら、遠距離、あるいは防御担当タンクあたりがいればさらに万全か。あとは治癒担当が増えてもいいな」


「なら、一人俺の幼なじみを連れてきていいか?」


「おお、いいね」


 付き合いが長いわけではないが、ガウスのツレなら心配はないだろう。少なくともこのクラスに入れている実力者なわけだし。


 ガウスの先導のもと少し歩くと、ぽつんと一人の少年がたっていた。背中には長い荷物を背負っている。まだグループを作っていないようだ。


 青年と言わずに少年と表現したのは、その容貌と小柄な体格も相まって幼く見えたからである。フェリィと同じぐらいに見える。


「よぉー、アタル!」


「……ガウス」


 その反応はそこまで好意的に見えなかったが、幼なじみということを考えれば気安い仲というふうにも見える。


「紹介するぜ、ソウ。こいつが幼なじみの生意気ボッチ、アタルだ」


「うるさい」

 

「なっ、生意気だろ?」


 まぁ、いきなり生意気と紹介されたら怒る気もするが、二人にとってはいつものやりとりなのだろう。邪気は感じない。かえって仲の良さが引き立っていると言ってもいい。


「ソウシだ。ソウと呼んでくれても構わない。よろしく頼む」


 握手しようと手を差し出すが、すぐには握り返してこない。警戒されてるのだろうか。アタルはじっとこちらを見据える。そして自分の後ろにも視線を配らせると、ため息をついた。


「はぁ……なんだってこんなリア充の目立つグループに……」


 アタルが呟く。確かにそれが正常な反応かもしれない。


「後ろのそいつは……ライフルか?」


「……!よく知ってるね」


 そんなに珍しいのだろうか。確かに魔法があるがゆえ、銃自体はあまり浸透してないのかもしれないが。


「遠距離ができるメンバーは大歓迎だ」


「そうそう。アタルの弾は当たるって昔からよく言われてるんだ」


「いいかげん、もういいよそれ」


 なるほど、鉄板な名前ネタではあるが、ずっとまわりに言われ続けてきたのだろう。


「よかったな。実は狙撃が下手だったよかずっとマシだ。もっとも、そう言われないように努力した結果なのかもしれないが」


 そう言うと、アタルは少し珍しいものを見たような顔になった。そして、下を向いてもう一度ため息をつくと、差し出していた手を握り返してきた。


「まぁ、他にグループのあてがあるわけでもないし、今日のところはね」


「ああ。よろしく頼む」


 今後、長い付き合いになることになる狙撃手との出会いだった。

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