065.開講
さて、翌日のことである。
早速、今期のプログラムが始まったが初週ということもあって初回はプログラムの目的や目標といった内容の説明がほとんどだった。学生達も初回の内容によって、今後も受講を継続するか決めるスタンスで、言ってみれば元の世界の大学と似たようなシステムである。
午前中に三つのプログラムの説明を受けたところで、昼休みとなっていた。
「どう?気になるものはあった?」
クールな雰囲気でハルが聞いてくる。一応説明しておくと、ハルは呼び名で正しくはミハル。今はなき同郷の二つ年下の女の子で、この世界に転生してから初めてできた友人でもある。ハルの両親にもいろいろと世話になった。
幼い頃は笑顔の似合う少女であったが、しばらく会わないうちに士官学校ではクーデレとでも言うべきキャラになっていて冷徹無比なんて呼ばれていたりもした。
詳しくは回想してもらうとして、発端である父親は既に全快し、ハル自身は持ち前の笑顔を取り戻しつつあるのだが、士官学校で確立したキャラは急には変えられないということらしく、時と場合によって猫をかぶる、いや、狼をかぶるといった方が正確か。既に雰囲気が柔らかくなったという声が出ていて、周囲にも本来の性格が知られつつあるのだが。
「そうだな。さっきの中じゃ魔法薬精製かな。ティタに教わるつもりなんだが基礎くらいは理解しといたほうがいいだろうし」
「作ることが好きなら明日にある魔道具作製もおすすめ」
ボソッと抑揚の少ない声で反応してくれたのはフェリィである。士官学校最年少入学を果たした小柄な天才少女は珍しい竜人という種族であった。竜化すると理性が失われるため滅多には変身できないが人の姿でも基礎的な身体能力は天才と呼ばれる所以を説明するほどには高いし、年齢の割に聡明でもある。あとは逆に年相応の負けず嫌いな面もあったかな。
「それは面白そうだ」
ちなみに、今は隊長と隊員という立場がなくなったため、フェリィにもフランクな言葉遣いでやりとりするようになっている。
話を戻して魔道具とはなかなか興味を唆られるワードである。寮にある昇降機の類だろう。異世界に早すぎる文明開花をもたらすのは定番ではあるが、定番だからこそいい。そもそも定番とは皆が求めるからの帰結なのである。
……と、和気藹々と会話に花が咲くのはいいとして。
なせハルとフェリィがいるかというと、昼休みになると二人とも待ち伏せていたかのようにやってきて一緒に飯を食べることになったのである。
さて、この状況を客観的に見るとこうなる。
ガリオン士官学校の三姫と呼ばれるハルとフェリィ。そして残りの一人であるリリアが卒業して軍にいったことで、不在となった一枠の最有力候補になりそうなカスミと一人の男子学生が楽しそうに会話しながら食卓を囲んでいるのである。
周囲からの注目は尋常ではなく、特に男子学生からは親の仇のような視線を感じる。ハルとフェリィは自覚が無いのか、注目を集め慣れているのか意に介した様子もない。
「ソウも学生代表なんだから釣り合いはとれているわよ。もう少し顔が売れてくればね」
男女の人数比的な釣り合いも欲しいところなのだが。
こちらの心境を理解しているらしいカスミの一言にため息で返すのだった。
午後からは実技をまじえた必修の訓練だ。
事前の実力から既にいくつかのクラスに振り分けられていて、カスミ、ハル、フェリィと同じクラスだった。そもそも、一緒に昼食を囲むことになったのも次の必修訓練が同じだったからなのもあった。二人が揃っていると言うことは間違いなく一番実力のあるクラスと思われる。周囲を見るとこのクラスに配属になって喜ぶものもいれば、特待生だろうか、当然とばかりにすました顔のものもいる。
「よっ!学生代表!同じクラスだな」
そんななか、見知った顔から声をかけられた。ガウスだ。相変わらず声がでかいし、身体もでかい。このクラスに配属になったと言うことは、聞いていた通り、かつ見た目にそぐわぬ実力者ということか。そんなガウスが体をかがめて少し顔を近づける。
「ところで、流石にこのクラスには本物の学生代表がいると思うんだがどいつか知ってるか?」
少しボリュームを抑えて何を言い出すかと思えば。そういえば名乗りづらい雰囲気だったから自己紹介もしてなかったか。
「貴方の目の前にいるのがソウシ。本物の学生代表よ」
以前のやりとりを思い出してる間にそばにいたカスミがさらっと答えた。
「なっ!お前が学生代表っ!?」
はい、驚きとともに今日一番の大きい声を頂きました。
一気に周囲からの注目を集める。さっきまですました顔をしてた学生からも興味ありそうな視線をもらった。一方で敵意のような視線も感じた。
「よかったわね。顔が売れたわよ」
悪戯っ子のように笑うカスミを見てため息をつくのだった。
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