061.同期


 入学式が終わり、午後からはカリキュラムの説明会となった。ガリオン士官学校のシステムは言ってみれば、期限のない大学のようなものだ。


 半年を区切りとして開講される講義(プログラム)を学生は自由に選択して受講し、好きな知識を身につけていく。そこに学年の垣根はない。幾つかのプログラムは必須となっていて、軍に入隊したときに困らないような基礎知識を身につけたりする。


 また、同じ必須プログラムとして週に二回程度の実技訓練が組み込まれている。戦闘に関する訓練であり一定レベルに達した学生は学外での魔物との実践訓練に移行していく仕組みだ。


 基本的に定年での卒業という概念はなく、学外での実践訓練をある程度こなしているぶんには魔物討伐に貢献しているとして給金が発生する。贅沢しなければ一人分くらいの生活費は賄える額になる。


 といったような内容だった。


 今後の学生生活を送るうえでもう一つ朗報があった。敷地内には学生寮があるのだ。しかも一階は食堂になっているらしい。家賃も食費もリーズナブルで衣食住のうち食住には困らないというわけだ。さらには部屋の家具も揃っていておまけにビジター利用も可能となっている。言ってみればちょっとしたホテルである。通学の時間を気にせずに鍛錬に没頭できるという点ではこれ以上の環境はないだろう。当然ながら自分もカスミもすぐに入寮を決めた。


 寮は基本的に一人部屋である。これまでなし崩し的に宿の同じ部屋に泊まっており今さら気を使うこともなくなってきたが、やはり一人部屋の方が落ち着くだろうし、年頃の若い男女が同部屋で生活というのも外聞はよくないだろう。いや、ほんとに今さらではあるが。


「同じ部屋になれなくて残念ね」


「いや、別に…?」


「えっ!?」


「えっ?」


「いつもあんなに激しく求めてきたのに?」


「…俺の知る事実と反しているんだが」


「私のツッコミを」


「紛らわしいわ!」


 話し相手としてかよ!ってか、それもそこまで求めていたつもりはないし、どちらかと言えばツッコミを入れるのは自分の方が多いはずだ。


「あと、私の持ってくる情報を」


 いや、それは激しく求めたい。


「まぁ、部屋の往来は禁止されてないようだし、別に部屋に行けばいいんだけどね」


「不純異性交遊は重罰だからな?」


「私の想いは清純よ?」


 そういう問題?



 説明会が終わると本日は終了となった。なお、入寮を希望する者はこのまま寮に向かって手続きということで学生の波は二つに割れる。入寮希望者はざっと半分くらいか。


 寮に向かうとそこには少し年上に見える一人の女性と数人の学生――おそらく先輩たちが待っていた。


 「皆さん、ようこそガリオン士官学校へ。私はこの寮の管理を任されているソフィです。これから宜しくお願いします」


 ソフィと名乗る優しそうな顔立ちをした年上の女性がそう挨拶して頭を下げる。近くにきて見ると、その特に一部分のグラマラスなボディに驚く。おそらく大抵の男子なら一番に目がいってしまうのはやむを得ないだろう。


 昔の偉い人は言いました。


 理想の体型はボンキュッボンだ、と。


 完全に死語だな。それに可愛いサイズの胸をステータスとする一部の女性達からのバッシングを受けることは間違いない。


 隣から冷ややかな視線を感じはじめたので軽く咳払いした。


「男性はこちら、女性はこちらで手続きしてください」


 ソフィが後ろに控えていた先輩達の方へと促す。机と椅子が用意されていて必要事項を記入していく事務的な手続きだ。カスミと別れて列に並ぶ。


「なあ、知ってるか?」


 並んでいると急に後ろから声をかけられた。振り向くと、自分よりもひと回り背が高く体格のいい男が話しかけてきた。


「何をだ?」


「今年の新入生に、いきなり学生代表になったやつがいるらしいぞ!なんか入学試験で獅子奮迅の大活躍だったそうで竜騎士とも呼ばれている!」


 ついでに声もでかい。


「あ、あぁ。……よく知ってる」


 何となく自分ですとカミングアウトしづらい空気にそれとない返事をする。


「そうかー!こんなことなら自分も入学試験を受ければよかったぜー!」


 その口ぶりからするに試験を受けてないらしい。少なくとも自分が会った受験者の中にもいなかったな。


「試験を受けてないのか?」


「ああ。推薦ってやつさ!俺だけじゃなくてそれなりにいるはずだぜ?」


 なんと。そんなパスがあったのか。それならクレアが口をきいてくれてもよかったのに、と思わなくもないが、流石に推薦にたる実績がなさすぎて無理か。


「なるほど。推薦組の方が優秀なのか?」


 少なくとも目の前にいる男は、先日見てきた受験者達とは違ってできるオーラが漂っている。


 男はニカっと笑う。


「そのケースが多いとは聞いてるぞ!ただ今年は話が変わっているかもしれん!なんせ学生代表になるレベルの受験者がいたらしいからな!他の推薦組のやつらも内心穏やかではないはずだ!」


 なるほど。ますます白状しにくくなったな。あと声がでかい。ちょっと他から視線を感じるぞ。


「まぁ、そのうち会えるだろう。これから同じ学生になるんだし」


「それもそうだな!いいこと言う!」


 いや、いいこと言ったつもりはないし、実際言ってないからな?


 若干のオツムの弱さ、いや、細かいことを気にしない大らかさを感じていると、自分の番が回ってきた。


「順番がきたな。それじゃあまたどこかで」


「おお!俺はガウス。よろしくな」


 名前のオツムは半端ないな。


「ああ。俺は……将来の学生代表だ」


「噂の学生代表に勝つということだな!その意気やよし!」


 それとなく伝えたつもりだが、無駄に熱く解釈されたようだ。うん、まぁなんでもいいや。


 若干の注目を浴びつつ、事務手続きを終えるのだった。

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