第二部

060.入学


 世界五大都市の一つ、ガリオン。


 そのなかにあるガリオン士官学校は、その名の通りガリオンが保有する軍への登用が期待される将来有望な若者が集まる学校である。


 魔王軍からの侵攻が続く昨今では世界的に軍部の強化に注力している。当然ながら士官学校が注目を浴びないはずはなく、目立った実力を見せていれば他国から厚遇でヘッドハンティングされるなんて事例もある。


 さて、改めて自己紹介しておこう。俺は沖田総司(オキタソウシ)。両親が新選組のファンで…ってこのくだりはもういいな。この地に来て八年。もともとは三十歳。今は十八歳。さて、俺は何歳でしょう?


 と、自分でもよくわからない精神(年齢)状態ではあるが、そんなところに、さらに訳のわからない肩書きが舞い込んできた。そう、ガリオン士官学校学生代表である。ちなみにまだ入学予定の身分である。


「正直なところ、すぐにでも軍に登用したかったのですが。まだ入学前ということで押し通せませんでした。最低半年間は士官学校に通ってから、という暗黙の了解になってまして…申し訳ございません」


 とは、後から軍の特殊部隊隊長であるクレアに聞いた話である。


 いや、まったくもって謝られる必要はないのだけれど。


 そもそも軍に積極的に入りたいとは思っていない。こちとら日の本からやってきた全力で平和ボケしている一般市民なのだ。特に軍隊への憧れもないし目指してはいないのだ。


 しかしながら、そうも言ってられない事件があった。ガリオンにSランクの魔物の襲撃があったところを撃退したのだ。その成り行きで竜騎士なんていう肩書きまで頂戴したのである。実際はなんちゃって竜騎士と言った方が正確なのだが。


 詳しい経緯は振り返ってもらうとして、とにかく自分のスキルオールマイティがスペシャル過ぎて悪目立ちしてしまったのだ。いや、別に悪行で目立ったわけではなく、むしろ逆ではあるが。まぁちょっとした時の人になっていると言ってもいい。


 そんなわけで、見返りは期待してなかったのに並々ならぬ期待が寄せられているのである。個人的にはそんな責任のありそうなポジションは御免被りたく、遅れて登場して正義の味方ぶるぐらいでちょうどいいのだが。自叙伝ができたらタイトルにでもつけておいてほしい。


「何ぶつぶつ言ってんのよ」


 独白をぶった斬ってきたのはカスミだ。彼女はエスパースパイである。


 相変わらず語呂が悪いな。これも気になるなら振り返ってもらうことにしよう。


 彼女との関係性は師匠の娘。あるいは兄弟弟子とでも言ってもいいかもしれない。腕っぷしも確かではあるが、とにかく何かと油断ならない一つ年上の少女である。


「素直に今一番気になる人って言えば良いのに」


 ほら、こういうとこね。当然のように人の独白に合いの手をうってくる。


「そんなことより、始まるわね」


 すると、一人の女性が壇上に上がった。腰まで伸びた黒髪。ハリウッド映画の主演女優にいそうな整った容貌は力強さと知性を感じさせる。醸し出す雰囲気も、女帝というか女傑というか、格上の存在感を感じさせる。


「諸君、入学おめでとう。私はガリオン軍の総司令官を務めるアテナという。以後見知りおき願おう」


 総司令官というと軍のトップということだろうか?クレアやエンコの上司ってところか。


「今年の新入生は中々面白い人材が揃っていると報告があがっている。なかには新入生からいきなり学生代表を任された者もいるときく」


 一瞬、目があった気がした。偶然…、いや、風貌ぐらいは伝わっているかもしれないか。


「昨今の状況は変わらずだ。人類は魔王軍に対して苦戦を強いられている。そのなかで諸君ら、若人の成長は光明と言えよう。ぜひこの士官学校で心身を鍛え、技を磨き、逞しく成長して欲しい」


 総司令からの直々の激励はその場にいる入学生の心を打った。


 どこからかさざ波のように拍手が沸き起こり、入学生を歓迎する形となった。


 会場が拍手に包まれるなか、隣の少女はいつもと変わらない。


「ふうん、あれが総司令」


「何か情報があるのか?」


「………ないわ」


 カスミが不敵に笑う。


「そのいかにも何かありそうな間と意味がありそうな顔はやめてくれ」


 本当に何もないのか、あえて黙って面白がっているのか区別がつかない。


 拍手が収まるかというところでアテナが付け加えた。



「諸君らの最初の見せ場となるのは五帝戦だろう」


 五帝戦?


「世界五大都市のそれぞれの士官学校による対抗戦ね。まぁ人によってとる意味合いは違うわ。一見すると単なるお祭りだけど、自国の将来性の誇示する場であったり、有望な他国の若者のスカウトの場であったり」


 タイミングよくカスミが説明を付け加える。


「……なるほど」


 すると、もう一度アテナと目が合った気がした。いや、別に自意識過剰になっている思春期の男子ではないからな。


 …ないよね?


「……諸君らの活躍を期待している」


 そう言ってアテナが話を締めると、もう一度拍手が起こった。


「五帝戦か……」


 それって学生代表の仕事が多いんじゃ…。


 早くも面倒な予感を覚えながらも、ガリオン士官学校の学生生活が幕を開けるのだった。

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