054.挟撃
「なるほど」
いくらか攻撃を交わしたところでルウラが口を開いた。
「さすが、けしかけたSランクの配下を倒しただけのことはありますね」
「あれもお前の仕業か」
「いえいえ、ちょっと山の上から降りていってもらっただけですよ」
「お前の仕業じゃねぇか…よっ!」
ムクヒメ憑依の攻撃を仕掛けるが再び鉄扇で防がれる。
堅い。何合かやり合って実感したことだった。正直なところルウラの攻撃は大したことはなかった、が防御に関しては鉄壁といってよかった。
「ソウシさん!後ろですっ!」
不意の呼び声と、嫌な感覚から反射的に身体を横に投げ出した。
すると、さっきまで自分がいたところに
「おや、残念」
ルウラはそう言って嗤った。なるほど自分の攻撃力はこうやって補うってわけか。
高い防御力に、手駒を作って追加できる攻撃力。しかも手駒は消耗品扱いだ。敵ながらバランスがとれていると言わざるを得ない。
いったんクレア、エンコと合流する。
「すみません、そちらに攻撃を通してしまいました」
「いえ、あの出足の速い雷魔法を完全に封じるのは難しいでしょう」
全く、厄介なやつが敵側についたものである。もっとも本人の意思はないが。
さてどうする。ガライを戦闘不能にしたところでまた操られてしまうのだろうか?いっそ完全に消滅させるしかないのか。
「どうでしょう、クレア隊長。ガライを完全に凍結するような魔法は可能で……っ!?」
そうクレアに尋ねようとしたところで、いきなりエンコがクレアを殴り飛ばした。
「なっ?!」
思わず身構えた。
クレアも気になるがエンコから注意を背けるわけにはいかない。よく見るとエンコの身体が小刻みに震えていた。
「な、なんだこれ、身体が勝手に……っ?!」
殴ったエンコの方が驚きを口にした。
「まさか…!?」
ルウラの方へ振り返ると相変わらず憎たらしい笑みがあった。
「死人しか操作できない、と言ったつもりはありませんでしたが?」
「ちっ!」
すぐに飛び掛かってきたエンコの攻撃をいなす。
「このっ!」
エンコに向かってアイスランスを投げつけるが、エンコは常人離れした動きで躱された。獣人にしても動きが速すぎる。
ふとエンコの様子をうかがうと苦しそうな表情で息が上がっていた。
「どうです?本人の限界を超えた動きは?」
「どうですも何も、悪趣味としか思えねえよっ!」
ルウラにそう言い返したところでエンコの拳に巨大な炎が纏った。直感的に危険を感じて咄嗟に防御の体勢をとって防いだが、あまりの衝撃に身体ごと吹き飛ばされて地面を転がった。
「グッ!」
体中に痛みが走る。
防御の上からなのに凄まじい一撃だった。
「くっ…」
地面に片足をついて起き上がろうとしたところで、今度は別の方向から魔力を感じた。
前転の要領でとにかくその場から転がるように逃げると、自分のいた場所に吹雪のような冷気が通り過ぎていった。
「おいおい、嘘だろ…」
そこにはこちらに向けて手をかざすクレアの姿があった。さっきのエンコの一撃でダメージを負ったところをルウラにのっとられたか。これなんてハードモード?
「ソーシさん……逃げてください…」
クレアが残る意識で発する言葉とは裏腹に、その手からは得意の氷魔法が次々と飛んでくる。
『まずいの』
「ああ、まずいな」
ムクヒメの声に相槌をうつ。
できれば攻撃せずに何とかしたいがそう簡単にはいかない。仮にエンコやクレアを戦闘不能にしたところで再び操られて襲って来る可能性があるし、彼女達はまだ意識があって操られているだけだ。跡形もないほどに再起不能にするわけにもいかない。
「やはり元凶を叩くしかないか」
ルウラの方を見る。
エンコを操り始めてからこちらの攻撃に参加する様子はなかった。もともと自分の攻撃力が高くないからかもしれないが、流石に意識のある人間を操作しながら闘うほどの余裕はないのかもしれない。
そう判断するや否や、クレアとエンコを置き去りにしてルウラに向かって突進していく。
「ムクヒメ!」
『うむ!』
再び右腕に力を込めてルウラを殴りとばそうとした。
「まぁ、そうきますよね」
しかし、その拳は一本の剣によって止められた。ガライだった。
そしてその剣が光を帯びだした。反射的に後ろに下がる。
「サンダーウェーブ!」
剣から繰り出された雷が向かってくる。
「くっ!」
大きく地面を蹴って、上空に躱した。
「終わりです」
ルウラがそう呟いたときには、両側から膨大な魔力が今にも放たれようとしていた。
「逃げろ(てください)!」
エンコとクレアの声が響いた。左に巨大な炎、右に巨大な氷だ。
「しまっ――」
た、と思ったところで、その二つの魔法は放たれることなくその場に消えていった。
何事もなく着地するとエンコとクレアは糸が切れたようにその場に倒れた。
なんだ?何が起こった?
わけが分からず、ルウラの方へ振り向いた。
「借りは返すわよ?」
そこには、ルウラの背後から小太刀を突き刺すカスミの姿があった。
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