053.幹部
「カスミィィ!!!」
声を上げてカスミに駆け寄っていた。
「くそっ!」
出血の量がまずい。致命傷だ。
「わ、私がっ!」
同じく駆け寄ってきたハルが治癒魔法をかけ始める。
自分も一緒になって治癒したいところだったが、それをゆっくりと見守ってくれる相手ではなさそうだった。幸いにもハルは治癒魔法が得意だ。ここはハルに頼るしかない。
「リリア、ハルとカスミを頼む」
そう言ってガライと謎の男の方へと向かった。
近くによって見るとガライの意識に違和感があった。雷鳴隊の連中たちと同じように人間らしさが消えている。ついでに言えば胸の辺りに穴が空いていて血の跡がある。おそらくカスミに仕留められた痕跡だろう。つまりこの状態で動いていること自体がそもそもおかしい。人間離れしているというどころか、もはや確実に人間ではない。魔物…、いや、魔人といったほうが正しいかもしれない。
ほどなくしてエンコとクレアがやってきた。どうやら紅蓮隊との戦闘にカタがついてすぐに追ってきたようだ。同じようにガライの様子に眉を潜めた。
「何をした?…いや、何者だ。お前は」
ガライの横にいるスーツ姿の男に問う。中性的な顔立ちで細身の長身。見た目は人間そのものだが、状況からして只者であるはずがなかった。
「クックック。初めまして、人間諸君。私は魔王軍四天王の一人。名はルウラ」
「……魔王軍四天王!!」
突然の大物の登場にエンコとクレアがすぐに臨戦態勢となる。魔物としか戦ってなかったから実感はなかったが、やはり裏では魔王軍の存在があったらしい。しかも、四天王とくればかなり上位の存在のはずだ。
「ウチの隊員に何かしやがったのもお前か!」
エンコが怒鳴る。
「ええ。もっとも、貴方の隊はこのガライ達によって既に全滅状態でしたがねぇ。私はただ、その後の使えなくなった兵を少し借りただけのこと」
ルウラは愉快そうに笑う。
「…さしずめ
さっきの雷鳴隊の様子を見るに全員が致命傷というわけではなかった。おそらく気を失っているレベルでも操ることが可能なのだろう。
「ふふふ。名推理ですね。もっとも正解を教えてあげる義理はありませんが」
「力づくで聞いてやるさ」
そう言って自分も構えをとった。
「いいでしょう。やれるものならどうぞ」
そう言ってルウラが手を前に差し出すと、ガライが一歩前にでた。
「では…お遊びの時間……ですっ!」
その言葉を皮切りにガライが飛び出してきた。カスミに投げつけたのとは異なる予備の剣を振るう。
バックステップでそれを躱すと、すかさずクレアが氷魔法を放つ。しかしガライは雷魔法で応戦した。
「くっ」
相性が悪いのか氷の上を這うように進む雷魔法にたまらずクレアは魔法を中断し、今度は防がれにくいガライの足元に向かって氷魔法をとばす。
ガライがクレアの攻撃を躱したところで、今度はエンコが飛び掛かった。
「くらえっ!」
炎を纏った拳を放つ。ガライは剣で受けると、そのままエンコに蹴りで反撃すると、エンコは衝撃を受け流すように後ろに跳んだ。
隊長二人対一人でもガライはひけをとっていない。
「ここまで人間離れした強さではなかったと思いますが…」
「はっ、文字通り人間じゃなくなっただけのことだ。心置きなく仇がうてるってもんだぜっ!」
再びエンコがガライに飛びかかる。
「おら!今のうちに、やってこい!」
エンコがこちらに向かって言った。確かに今はチャンスだ。流石のガライも隊長二人が相手で余裕があるわけではなかった。
「
少し離れた位置に下がっていたルウラに向かって走り始めた。当然ながらルウラも接近には気づいてた。だがこれならどうだ。
「ムクヒメ!」
走りながらそう叫ぶと右腕に
シッ!
正面から攻撃すると見せかけて一瞬で後ろに回りこんだ。ヒエイが挨拶代わりでよく使う技の一つだった。
そして右腕を振り下ろす。一連の流れはまさに一瞬の出来事で、素人であれば何が起こったのかわからないまま、気づいたときにはやられていただろう。
ただ、目の前の四天王の一人は伊達ではなかった。
懐から何かを取り出すと、後ろを見ないまま正確に鉤爪の軌跡に合わせて攻撃を防いできた。
「鉄扇っ?!」
防がれた瞬間にそれを捉えることができた。
そのまま一旦、間合いを取り直した。どうやら操るしか能がないわけではなさそうだ。
『奴……なかなかできるぞ』
ムクヒメがそんな感想をもらした。
『くふっ!ワクワクするの』
……頼もしいことで。
『ほれ、ゆくぞ!』
「ああ!」
そして再びルウラに攻撃を仕掛けるのだった。
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