048.連携


 カスミとガライが攻防を繰り広げるなか、ミハルはエンコに駆け寄ると治癒魔法をかけ始めた。


「大丈夫ですか?!すぐに治癒を…」


「悪いな……」


 ミハルが手をかざすと温かい光がエンコの腹部に集っていく。


「おぉ……やっぱユニークスキルだと違うな」


 その効果はすぐに表れ始めた。応急処置で自分がかけた治癒魔法に比べると痛みの和らぎかたが格段に違い、傷の塞がり方もきれいだった。これならもう少しマシに動けそうだ。治癒されながらエンコは状況を眺める。


「しかし……何者だ?カスミは。ソーシのツレだから強いだろうとは思っていたが…」


「ええ…私も驚いています」


 エンコの視界にはガライと同等以上の攻防を繰り広げるカスミの姿があった。カスミの動きは速く無駄がない。攻撃の手数が多く、相手のバランスを崩すような嫌がらせのような攻撃の連続だった。


 お互いどこまで本気を出しているのかはわからないが、少なくとも今のところはカスミが後れをとっているようには見えない。むしろ押しているようにすら見える。自分が万全だったとしてカスミに勝てるかと聞かれると、当たり前だと答える自信はない。それぐらいガライに対して健闘している。


 言ったそばから、カスミの放った回し蹴りがガライの胸を捉え、ガライは体ごと後ろに飛ばされて仰向けになって地面に倒れた。



「…ふぅ」


 カスミは追撃せずにその場で息を吐き出した。



「ククク…ククククッ、アーハッハッハッハ!」



 仰向けに倒れたままガライが笑う。そしてゆっくりと立ち上がった。


 無傷ではないが、特にダメージを負った様子はない。


 ガライは苦悶のどころか逆に喜んでいるような表情を見せていた。



「……久しぶりの感覚だ。戦いはこうでなくては…」


「蹴り飛ばされて喜ぶなんて、とんだマゾヒストね」


「フン。すぐに立場を逆転させてやろう」


「…!」



 そう言って、地を蹴ったガライのスピードは先ほどよりも速くなっていた。カスミもすぐにギアを上げて反応するが、さっきまでより確実にガライの攻撃を捌く余裕が減っていた。



「……まずいな。やはりパワー不足か」


 ガライの重い一撃ごとに体勢を揺さぶられるカスミを見ながらエンコが呟くと、同じタイミングでミハルの治療の光が次第におさまってった。


「私の治癒魔法ではこれが限界です」


「十分だ。これならちっとはマシな戦いができるさ」


「ええ。正々堂々一対一で戦う必要はありません。カスミに加勢しましょう」


 ミハルが立ち上がった。


「ハッ、顔に似合わず言うじゃねぇか」


 エンコも立ち上がってミハルに並ぶ。


「私が重力魔法で脚を止めます。その間にお願いします」


「わかった」


 そう言うと、エンコはガライの方へと走り出し、ミハルはその場に残って両手を前に伸ばした。



「オラァ!!」



 カスミとガライの攻防の最中、横から割り込むようにしてエンコが拳を奮った。


 カスミに攻撃を仕掛けようとしたガライは攻撃を中断して防御に切り替えた。エンコの攻撃を防ぐと、バックステップで少し間合いをおいた。


「こっからは二対一だ」


「ふん、獣が一匹増えようが関係ない」



「ほざけっ!」



 エンコが炎を左手に纏わせてガライに攻め込む。


 ガライは腕に装着した盾で拳を受け流すように攻撃を逸らすが、すかさず身体が開いたところを狙ったカスミの小太刀がガライを襲った。特にエンコと事前に連携をとったわけでもないが、タイミングは完璧だった。


「くっ」


 しかし、ガライはカスミの攻撃を右手の剣で防ぎ、力任せに押し返した。


 その間にエンコは体勢を立て直していた。



「今だ!」


「グラビティ!!」



 エンコの合図と同時にミハルの重力魔法がガライを襲った。



「くらぇぇ!!」


「ぬぉぉおお!」


 ガライの動きが止まったタイミングを逃さず、エンコの力を込めた右腕の一撃がガライの懐に入り、ガライはそのまま吹き飛んだ。


「……」


「……」


 一瞬の沈黙が降りたが、再びガライが身体を起こした。


「結構きれいに決まったつもりだったんだが…」


「……タフね。でも効いてはいるみたい」


 カスミが呟いた。


 ガライの表情から少し余裕が消えていた。


「そうみたいだな。なら…もう一発……?!」

 

 気合を入れ直したところで、いきなり雷魔法がとんできた。カスミとそれぞれ別方向に跳んでギリギリ避けることができた。


「くっ……、そう簡単にはやらせてくれないか」


「……速いわね」


「フン。そう言いいながら初見で避けるあたりはさすがだな」


 ガライがカスミを褒める。


「だが、あっちはどうかな?」


 そう言うとガライはある方向を指差した。


「…っ!」


「しまっ…!?」


 カスミとエンコは同時にその意味に気づくも、時は既に遅かった。



「ライトニング」



 放たれた雷は真っ直ぐミハルへと向かっていった。



 ガライに指を差されて間もなく、自分の方へと向かってくる光はスローモーションのように見えていた。身体が動かないが脳は動いている、という不思議な感覚だった。ただ避けられそうにないことは分かった。別に油断したつもりはなかった。ただ向こうの攻撃が速すぎただけだ。一瞬で決まってしまった。あっけない幕切れだ。



「しまったなぁ……」



 光は徐々に近づいてきていた。そして段々と目の前が光りに包まれていった。



「ソウちゃんに……ちゃんとお父さんのお礼言っとけば良かった」



 ミハルは声にならない声でそう呟くと、悲しい笑みを浮かべて自らの目を閉じた。



「「ミハルッ!!!」」


 

 カスミとエンコの呼びかけもむなしくガライの放った雷はミハルに到達し、激しい爆音とともに周囲に衝撃と煙を巻き起こした。



「フハハハ。まずは一人目」



 高らかに笑うガライ。



 しかし、それはすぐに止むことになった。 




「残念ながら、そうはさせません」



 代わりに凛とした声が響き渡った。

 

 

「我が校の生徒を傷つけさせるわけにはいきません。学生代表として」



 そこには、風の防御壁を展開する美しいエルフと、その防御壁に囲まれたミハルの姿があった。


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