034.偏重


 遠視スキルで確認できたのは四十匹ほどのフレアウルフの群れだった。またお前らか。


 こちらはざっと二百人。五人で一匹計算。正直、受験者の実力を測るどころか準備運動にもなりはしないレベルだ。


 しかし、そんな考えは甘かったとすぐに知ることになる。


 先頭のフレアウルフがビースターズのある一つの小隊まで到達すると、戦いの火蓋が切られた。


 小隊十人のうちの二人が前に出てフレアウルフと対峙する。本来なら一人でも倒せるぐらいだろうが、二人だともっと簡単かつ安全に先頭を終えられるだろう。


 そう思っていた時期が自分にもありました。


 しばらく戦闘を見守っているとなかなか決着がつかない。


 ふむ。素晴らしい。


 フレアウルフの奮戦が。


 そうこうしているうちに、他の小隊でも交戦が始まるが、これがまた似たような状況になっている。どこも小隊のうち二人、三人ぐらいがフレアウルフと近接戦闘を繰り広げ、残りが後衛として回復魔法を唱えている。


 ただ、おかしい。小隊は十人だ。


 流石に五人くらいで囲めば一気に押し通せるはずだ。


「フェリィ隊長。これはどういうことですか?」


「ん。見ての通り。今回の一次試験は治癒魔法で合格したのが七割」


 治癒士ヒーラー率高くないっ?!


「ど、どうしてこんなに偏っているのでしょうか」


 フェリィは首を傾げる。


「んー、有望なのがいないからって不合格を出しすぎていたら、二次試験の人数が足りなくなりそうになったから途中から調整し始めったって聞いたけど」


 確か、エンコ隊長が。と続けた。


 わかりやすく膝から崩れ落ちそうになった。


 そう言われて昨日の一次試験を思い出す。確かに不合格を連発していたな。そう言えば治癒を得意とするものは負傷者を治すところを試験するとも言っていた。よく見てなかったが、そちらを多く通過させることで帳尻を合わせたのか。


「それにレベル的には去年と大差ない。強い人はとことん強いけど、平均するとあれぐらい。今回で言えば、突出していたのはソーシとカスミって聞いている」


 そうだ。そもそもオールマイティが反則すぎるだけだし、ヒエイに鍛え抜かれたカスミといることが普通だったから少し感覚が狂っているのかもしれない。


 例えユニークスキルで非戦闘系だったからと言って強くなることを諦める必要はない。


 戦士や魔法使いを目指していい。



 ざわっ。


 

 存分に夢を追い続けていいのだ。未来は僕らの手の中!


 やれば…できるっ!



 なにか豪速球でも投げれそうな気がしてきたところでフェリィ隊長から指示を受けた。

 

「じゃあソーシは遊撃で。危なくなった受験者のフォローね。私も行くわ」


 盛り上がってきたところでフェリィ隊長から指示を受けた。


「わかりましたっ!!」


 とても良い返事で返した。


 フェリィが最も遠い位置にいる小隊の方へ向かっていったところで、思い出した。




 そういえば、俺も受験者なんだけど…?

 


 扱いに疑問を覚えながらも危なそうな小隊を探してはフォローに入るのだった。




 十五分ほどかけてフレアウルフの群れは全て撃退した。


「ふぅ…つかれた」


 魔法を使えば簡単に一掃できたが、他の受験者の見せ場を奪うのも気が引けたため、攻撃の方法やタイミングを指示することに徹していたらいつもの倍はつかれた。


 途中からはソーシ先生と呼ばれる始末だ。


 確かに同じ受験者から副隊長、と呼ばれるのは違和感あるが、先生もどうかと思う。


「上手いね。教えるの」


 フェリィからもお褒めの言葉を貰ったが、こう見えて中身は三十八です、なんて言うわけにもいかないので苦笑いで誤魔化した。


 幸いにも治癒士ヒーラーは多かったため、回復を済ませるのに長くはかからず、ビースターズは再びモンアヴェールを目指すのだった。






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