033.傲嬌
「ちょっと」
フェリィ率いるビースターズが出発し始め、最後尾で隊が進んで行くのを見守っていたところで声をかけられた。
「ぉお、おぉ。ハル」
いきなり話しかけてくるとは思わなかったから変に動揺してどもってしまった。
「どういうこと?」
「…なにが?」
ちょっと喧嘩腰というか、不服そうというか、機嫌が悪そうだった。まだ怒ってるのかな? 怒ってるか。
「…お父さんが昨日目を覚ましたんだけど」
「……!!」
よかった。昨日のあれがちゃんと効いたのかもしれない。
「その顔!やっぱり何かしたのねっ?!お母さんに聞いたんだから。家に来てたって!」
「いや、えーと、顔を見せに行っただけです?」
何故か敬語になってしまった。冷酷と言われるほど厳しい学校生活を送ってきたことで大人びたミハルの迫力と三年前に黙って出ていった後ろめたさとが合わさって自覚がなく本能的に出たのかもしれない。
「懐かしんでくれたのかな?ほら、昔は息子みたいに面倒見てくれていたし」
「私が一年ずっと毎日話かけても起きなかったのよ?」
「もしかしたら俺の美声が……冗談です」
ふざけようとしたらムスッと睨まれた。
いや、真面目に説明しようとするとちょっと
「何にせよ、良かったじゃないか」
昔の偉い人は言いました。
終わりよければ全てよし、と。
ちなみにこれはかの有名なシェイクスピアの戯曲らしい。これマメね。
「しかも、カスミさんって女の人も連れてきたんだってね。カスミさんって今日わたしの隊に入っている人だよね?帰ってきたらどういうことか詳しく教えてもらうから」
正確にはカスミに連れられて行ったのだが、もちろん火に油は注がない。というか、ミナツさん、もう少し説明してくれてもいいのに…と思ったがそう言えばカスミと嫁がどうのこうと意気投合していたな。
全然期待はできなかった。
兎にも角にも、終わりどころか帰ったら尋問が始まってしまうらしい。
昔の偉い人は言いました。
始めよければ終わりよし、と。
なんてこった。始め良ければ全て(どうでも)よいらしい。なんて三段論法をキメてる場合ではない。とりあえず試験中に何かうまい言い訳を考えなければ。
そうこうしているうちにビースターズの後方は既に動き始めており、そろそろ自分も行かないと置いていかれてしまう頃合いとなっていた。
ミハルもそろそろ指示を出すためか、自分の隊へ戻ろうと踵を返す。が、すぐに立ち止まった。
「とりあえず、……おかえり。ソウちゃん」
「……おう」
こちらに背を向けたまま顔も合わせずにそう言うと、そのまま自分の隊へと戻っていった。
これはいわゆる、あれか?
久しぶりに会った幼馴染はツンデレだった?!
ラノベタイトルにありそう。
さて、ビースターズが士官学校を出発してから特になにも起こることなく進み、モンアヴェールへ向かう道中の半分ほど来たところで一度小休憩をとっていた。
「ミハルとは話せたの?」
話しかけてきたのはフェリィだった。
「ええ。まあ」
「そう」
今は隊長だ。幼く見えるが丁寧に対応する。
「ミハルと仲良いんですか?」
「別に」
「そ、そうですか…」
別に仲が良いわけではないけど気にかけてくれたのか。興味本位か同じ三姫のよしみか、はたまたただの雑談か。まだ人となりがわからず考え方が読めない。そう言えば実際いくつなのだろうか。
「ところで、フェリィ隊長はおいくつなんですか?」
「ん?十三」
「えっ?!」
十三と言えばユニークスキルすらまだわかっていない年齢ではないか。それでも士官学校に入学ということはよほど特別な何かがあるのだろうか。獣人族でエンコ隊長クラスの身体能力とか?そう言えば、以前も思ったがフェリィには獣人の特徴である獣の部分の特徴が見えない。
「そう言えばフェリィ隊長って……?!」
種族を聞いてみようとしたころで何か集団が迫ってくる気配を感じた。タイミングを同じくしてフェリィも気づいたようだ。
「全員、戦闘準備」
まだ気づいていない隊員に向かってフェリィが指示を出すと、休憩していた受験生は慌てて迎撃体勢をとりはじめるのだった。
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