032.副長


 二次試験当日の朝がきた。


 魔力切れ寸前になったのは久しぶりだったが、運動した後のような適度な疲労感で昨夜は快眠だった。


 ここは寝心地もよく良い宿だ。が、流石にずっと泊まるわけにもいかない。単純にお金の問題もあるし、仮に試験に受かって士官学校に通いはじめたときにカスミと同じ部屋から登校というとあらぬ誤解を受けそうだ。近いうちに拠点を探す必要があるな。


 既に半分合格した気になっていた。昨日の受験者のレベルからすればまぁ落ちることはないだろう。


「これは慢心ではない!自信なのだ!」


「勝手に人に台詞を合わせるんじゃない」


 カスミが笑う。


 今日も平和である。


「あたしは、べつにあらぬ誤解を受けてもいいけど」


「ん?」


「さっきの話」


 いや、俺は声に出したつもりはなかったんだがな。


「一度聞いておきたかったが、どこまで本気なんだ?その…後継者のあたりとか…」


「んー…」


 カスミはこっちを見てニヤリと笑う。


「気になる?」


「……気にならなくはない」


「教えてあげなくもない」


「言ってほしくなくもない」


「実は……本気と書いてウソと読む」


「どっちだ?!」


 埒が明かない。というよりも、きっと今のところハッキリさせるつもりはないのだろう。


「そんなとこね」


 だからぁ…。地の文に答えるんじゃない。


「さっ、行きましょ?」


 奔放なかすみに翻弄されながら集合場所に向かうのだった。



 士官学校に入ってすぐ。昨日と同じ場所である。


 違っているのは昨日より受験者が少なくなったことと、三つの隊に分散されることだ。既にリリア、ミハル、フェリィが離れて立っており、集合場所に着いた受験生から昨日の振り分けに従ってそれぞれの隊長のもとに集まっていく。


「じゃ、また後でね」


 カスミがそう言って手を振るとミハルの方へと歩いていったので、自分もフェリィの元へと向かった。


 人だかりのなか、暫し待つとフェリィが声をあげた。


「ん。集合時間になったから始めるよ」


 フェリィが時間を確認して咳払いした。


 改めてフェリィを見る。最年少入学というだけあって見た目は受験者よりも一回り幼い。それもあってか何となく応援したくなるような可愛さがあるとも言える。実際、一部の受験生はフェリィの一挙手一投足に釘付けだ。実力のほどは定かではないが、天才と言われているぐらいだからおそらく有能なのだろうな。


「これより我々の隊はビースターズとする。ちなみにリリアの隊はエルフショット、ミハルの隊はモノクローム。覚えておくように」


 名付けセンスがあるのかないのか悩むラインだな。上手くはまってそうで気の所為。でも聞いていると慣れてきそうで絶妙に微妙だ。


「我々はモンアヴェールの左側から魔物を掃討していくことになった」


 昨日の話からするとモンアヴェールは山の名前だろう。


「各自、近くの者と十人一組の小隊を作って五分で顔と名前を覚えて」


「げっ」


 これは、ひょっとしてよくある孤立するパターンかもしれない。早めにどこか適当なグループを見つけなければ。と思ったところでフェリィから声がかかった。


「あっ、ソーシはこっちにきて」


 いきなり名指しで呼ばれ、周囲から注目を浴びる。


「ソーシは副隊長ね。小隊に入らなくていいから。基本的に私のそばにいて」


 周囲の目が好奇の目から、嫉妬、あるいは羨望の目に変わった気がした。


 不可抗力だからな?


 ちょうど五分が経ったところでフェリィが声をあげた。


「みんな覚えた?基本的には小隊で固まって行動してね。現地に着くまではソーシは最後尾で」


 フェリィが先頭に立って手を挙げる。


「じゃ、行くよ。ビースターズ。しゅっぱーつ」


 どことなくゆるい緊張感のなか二次試験が開始した。


 


 

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