035.膳立
モンアヴェール山道の入り口に辿り着くと、そこにはクレア率いる吹雪隊が待っていた。
フェリィがクレアのもとへ行き、二言、三言会話するとすぐにビースターズに戻ってくる。
「じゃあここからが本格的な二次試験ね。山の中腹あたりまで登りながら魔物狩りをしていくよ。魔物にどう対処するかは基本的に各小隊で判断して」
小隊がしばしどよめく。さきほどのフレアウルフの対応からしてもまだ実戦に慣れていないものが多いのだろう。
フェリィがそんな不安を払拭するように続ける。
「今回は吹雪隊が先に魔物の数を減らしているから大丈夫だとは思うけど、もし危険だと判断した場合はすぐに私か近くで見守っている吹雪隊に助けを求めること。相手の力量を見極めるのも大事なことだからね。それと、あまり道を外れた方向には行かないように」
吹雪隊が近くにいると聞いて安堵の空気が広がる。
「じゃ、張り切っていってみよう」
フェリィの合図で二次試験が開始された。
小隊が一つ、また一つと山道へと入っていき、吹雪隊の隊員も分散しながら入っていく。危険な場合のフォローと、おそらく受験者の採点もあるのだろう。
小隊に入っておらず最後尾にいた自分は一人取り残された形となった。
「俺は…?」
「ソーシは後ろからさっきと同じように皆のサポートに回って。私は先頭グループの周辺で早めに中腹につくように一足先に行くから」
「了解」
とは返事したけれど、もう受験者というより保護者な感が否めないな。
「じゃ、よろしくね、ソーシ先生」
フェリィはそう言うと軽く手を振って山道に入っていった。
「その、先生と言うのは?」
同じく最後まで残っていたのはクレアだった。
「いえ、大したことではないですよ。受験者に少し戦い方のヒントを教えていたらそう呼ばれただけで」
クレアがクスッと微笑む。
「なるほど。それはそれは。私も教えてほしいものですね」
「御冗談を」
「……」
冗談だよね?
割と本気そうな顔に見えたが、見えなかったことにした。
「ところで、この辺りで出る魔物はBランクぐらいでしょうか?」
「ええ。中腹までだとメインはCランク、ときどきBランクぐらいですね。中腹を超えるとBランクの魔物が普通になり稀にAランクと遭遇することもあります」
ちなみにBランクはフレアウルフ相当、Cランクでブラックベア相当であるが、BランクとCランクの脅威度はそこまで変わらない。ちなみにAランクになると(一般的には)そこそこ手応えがあって、Sランクは別格らしい。Sランクとはまだ出会っていないんだよな。
いずれにしても受験者が戦うとすればBランクやCランクだ、さっきフレアウルフと闘ったことが自信となってくれていれば良いんだけど。
「一足先にきてだいぶ魔物の数も間引きましたからね。魔物に囲まれることもないでしょう」
なるほど。こう言ってはなんだが順調にフラグを立てている気がする。
この戦いから帰っても結婚しないぞ。
「そう言えば、えっと、エルフショットとモノクロームは?」
慣れないな。この部隊名。
「彼女らの隊も別の方向から中腹を目指すようになっています。同じように雷鳴隊、紅蓮隊がサポートに入っていますよ」
「そうですか」
ガリオンの誇る三大隊長とその隊員が全面的にサポートで至れり尽くせりだ。それにハルの部隊にはカスミもいるし、流石にそれだけ強者が揃っていれば、たとえ何か起こったとしても対処できるだろう。
そうこうしているうちに結構話し込んでしまっていた。既に体裁が変わってしまっている気もするが、一応受験者だ。参戦しないのもよくないだろう。
「では、そろそろ自分も行きます」
「はい。頑張ってくださいね」
クレアに見送られ山道へと入っていった。
しかし山道に入って暫く歩いてもなかなか小隊と出会わなかった。ちょっとクレアと話し込みすぎただろうか。それとも結構速いペースで進んでいるのかもしれない。
そんな独り言をつぶやきながら、少しペースをあげて進んでいくとようやく最初の一組が見えた。どうやら戦闘中のようだ。
「…ん?」
どうも様子がおかしい。
「……囲まれているな」
それだけではなかった。
小隊の近くには吹雪隊の隊員が血を流して倒れていた。
おいおいおいおい、どうなっている?!
囲んでいる魔物はエイプの群れだが、よく観察すると群れの中に周囲より一回り大きく一際凶暴な目つきの猿が仕切っていた。
「あれは…まさかエイプキング…?」
周りのエイプ達こそCランクだが、そこにエイプキングがいれば話は変わる。エイプキングは単体ではBランク程度の強さであるものの、知能が高く、数多くのエイプを率いることができる、言わばエイプたちのブレインだ。そのため脅威度は一段上がってAランクに指定されている。流石に受験生では荷が重い相手だ。
吹雪隊が間引いたんじゃなかったのか?一体どうなっている?
その原因を知る由もなく小隊に加勢すべく急ぎ駆け出した。
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