027.三合

 

 エンコと対峙する。


 先ほどの衝撃的なやり取りを見せたカスミのせいか、注目を浴びているようで周囲から少し視線を感じた。だが今は気にしている場合ではない。


「へぇ、隙がないね」


「……どうも」


 エンコとの間合いをはかる。


 なるほど、さすがに隊長クラスとなるとAランクの魔物と闘ったときよりもはるかにプレッシャーがあるな。しかし、ヒエイほどではないか。まぁ格下相手の試験だから本気のところはわからないが。


「さぁ、こないのか?」


 エンコが挑発してくる。合格する程度には実力を見せつつ、目立ち過ぎないぐらいか。うん、難しいな。


「こないのなら、こっちからいくぞっ!」


 エンコが一足飛びに間合いを詰めて拳を繰り出してきた。


 試験用に手加減されたそれは肉弾戦を苦手とする魔法使いにとっては厳しい一撃だろうが、自分にとってはスパイ村のこどもとの遊びレベルだ。


 最低限の動きで躱すと同時にその腕を掴むとそのまま反対側に投げ飛ばした。


「ハッ、イイねっ!」


 空中に投げ出されたエンコは驚く様子もなく、そのまま宙で回転して着地すると同時に再び接近してくる。


 流石にこれぐらいじゃ合格はでないか…?


 実際のところは初撃を防いだ時点で一次試験としては合格レベルだったのだが、このタイミングで合格がでなかったのが、ほとんど一撃で不合格を連発していたエンコのフラストレーションが溜まっていたせいだということは知る由もなかった。


 エンコから繰り出される膝蹴りをいなして、空いた右脇腹を目掛けて右フックを放つ。


 しかしエンコの左肘で弾かれすぐさま反撃の右肘が迫る。しかし、そこは左手で受け止めた。


 そうしてしばらく続いた一連の攻防は、側から見れば組み手の型のお手本を見せられているような錯覚に陥いるほどだった。


 そろそろいいんじゃないか?


 一合どころか三合ぐらいはやり合っている。我ながら合格するぐらいの攻防は見せたと思う。

 

 しかし、エンコの攻撃が止むことはなかった。


 試験ってことを忘れられていないだろうか…。


 一抹の不安が漂ったところでエンコの攻撃に変化があった。


「これならどうだっ!」


 掛け声とともに赤い光がエンコの拳を覆う。


 手に炎っ!


 心のなかで叫ぶと咄嗟に右手に氷魔法を発動した。


「くっ!」


「何っ?!」


 エンコの拳から放たれた炎を受け止めるようにアイスシールドを展開する。


 燃え盛るエンコの炎の拳はアイスシールドをゆっくりと液体に変えていくが、全てが溶け切る前に炎が消え、そこでエンコの攻撃が止んだ。


「あーっはっはっは!いいね!いいねぇ!まさか氷魔法まで使えてコイツまで止められるたあ!」


 そう言って拳を握る。


「あの嬢ちゃんのツレってことで期待したが、やっぱ普通じゃなかったか!」


 嬢ちゃんとはおそらくカスミのことで試験をしながらも先ほどのガライとの攻防を見ていたのだろう。


そして、なんとなく褒められている気がしない。


 それにしても、さっきまでは不合格と合格ぐらいしか聞いていなかったが、喋り方も含めてなかなか豪快な性格のようだ。姉御肌という言葉が似合いそうなイメージである。


「聞くまでもないだろうが、合格だ」


「ありがとうございました」


「本気でヤり合うときを楽しみにしているぜ」


 ぜひ遠慮したい!


 ということで精一杯の苦笑いを返し、次の入学希望者に順番を譲ると後ろに下がった。


「おつかれさま」


「ああ」


「目立ってたわよ」


「不本意ながら…な。半分はカスミのせいな気もするが」


「感謝してもいいのよ?」


 頼んでないけどね!と本人に言っても暖簾に腕押しだ。


 ため息をついて試験が終わるのを待った。



 暫くして全員の一次試験が終了すると、再びクレアが登場した。


「ご苦労だった!残念ながら不合格だった諸君は自分を磨いてまた来年の入学試験に挑戦してほしい。そして合格者の諸君、ひとまずおめでとう。だが試験はまだ終わっていない。次の試験の説明をするからこの場に残ってくれ」


 クレアがそう告げると不合格だった入学希望者は順番に正門の方へと去っていった。


 ちょうど後方にいたので全体感が把握できたが、残ったのは約六百人ってところだ。前半は不合格者が多かった気がしたが後半に盛り返したのか意外と残ったようだ。例年通りだとここからさらに三分の一に絞られる。


 不合格者が全員去ったところを見計らって再びクレアが説明を始める。


「では、諸君。これから二次試験について説明するが、その前に二次試験に参加してもらう三人を紹介しよう」



 ドクンッ。



 クレアが合図すると、奥の校舎の方から三人の少女が近づいてきた。


「士官学校における三人の成績優秀者たちだ。皆には三姫と言ったほうが馴染みがあるかもしれないな」


「今回の二次試験では……」


 クレアの声が徐々に遠くなっていき、気づけば三人の少女のうちの一人に釘付けになっていた。



「………ハル……」



 前方には大きく成長しながらも昔の面影が残る美しい少女が立っていた。


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