026.通過

 

 エンコ隊長と試合する列に並んで様子を窺う。


「不合格!不合格!不合格!」


 予想通りエンコ隊長はその身体能力を活かしたスタイルで次々と入学希望者を打ちのめしていく。


「…合格!不合格!不合格!」


 腰に鞭のようなものをつけているが武器を使うことなく素手だけで対応していた。


「不合格!不合格!不合格!」


 それにしても不合格が多くないか? 一次試験でどれだけ減らす気だ? 


 虫の居所でも悪いのだろうか。それとも本当に有望な入学希望者が少ないのだろうか。


 そんなことを考えていると、先にカスミの試験が始まりそうだった。最強と呼ばれるガライに並ぶ入学希望者が少なかったためだろう。


 ガライはロングソードを手にしていた。ガタイのいい体には質の良さそうな鎧が身につけられており、屈強な騎士というイメージをそのまま体現したようだった。これで雷の使い手か。ちょっと神様はサービスし過ぎじゃないだろうか。お前が言うなという声はおそらく空耳だ。


 と、ガライを観察してたところでカスミの番になった。


 カスミの外見が目を引くこともあってか、周囲の入学希望者たちからも注目を集めている。


 心のなかで頑張れ、と応援すると、カスミがこっちを向いて親指を立てた。


 なんなのその特技。距離があっても心の中が読めるの?


 偶然だと信じて戦いを見守ることにする。


 カスミが両手に小太刀を持って構えるとその場の空気が変わった。周囲も息を呑んで静まり返る。


 するとガライは今までない雰囲気を感じとったのか剣を握り直した。


 そのまま数秒、睨み合ったところで状況は動いた。


「ふぅ……っ!」


 カスミが呼吸を止めた刹那、一方の小太刀を投擲すると同時にガライに向かって駆け出した。


「ぬっ!」


 ガライは正確な投擲とその後ろから接近するカスミの速さに一瞬面食らったように静止したが、素早く判断するとロングソードを片手に持ち替え、自由になった片方の籠手を使って払うように飛んできた小太刀を弾いた。


「シッ!」


 投擲した小太刀が当たらないことは予想済で、ほぼ同時にもう一本の小太刀で攻撃を仕掛けるカスミ。だが、籠手で弾いたことで体勢を崩さなかったガライは温存したロングソードでカスミの小太刀を防ぐ。


 一連の動きの速さはこれまでの入学希望者と一線を画しており、この時点で合格は堅いと誰もが思うところだった。


 しかし、カスミの攻撃はまだ終わらなかった。ガライのロングソードの勢いで弾かれた反動を利用して後ろに跳び、体勢を立て直すと同時に脚を大きく振りあげると、仕込んでいたクナイがガライに向かって飛び出した。


 意表をつかれたガライにクナイが当たったかと思った瞬間、ガライの体が黄色く光った。クナイはガライに当たることなく地面に落ちた。


「ふぅん、それがガライ隊長のスキルか」


 カスミは驚くこともなく、片方の小太刀を腰に戻した。


 鍔鳴りが鳴ったのを合図に、静まり返っていた周囲が歓声をあげた。


『うぉぉぉぉ!何だ今のっ!』


『速えぇぇ!』


『美しい!!』


『可愛い!!!!!』


 賞賛の声が多く上がる。なんか最後のだけやけに力入っているが。


「ふははははっ!合格だ」


 ここにきて初めてガライが笑った。弾いた小太刀を拾いカスミに差し出す。


「面白い。お前、名前は?」


「カスミ」


「覚えておこう」


「光栄ね」


 そう言って小太刀を受け取ったカスミは、もう一本も腰に戻しながらまっすぐこちらに歩いてきた。


 いやいやいや、そのタイミングで来られると余計な注目を浴びるんだが。


 案の定、周りからは誰だあいつ、みたいな囁きが聞こえる。


「通ったわよ」


「ああ、見てた。おめでとう。攻撃は当たらなかったけどな」


「ガリオンの代表ならあれぐらい防いでくれないと、逆に心配ね」


「それもそうか。ところでスパイってそんなに目立っていいのか?」


「なかなか美貌が隠れてくれなくて困ってるわ」


「……」


「……なんか言いなさないよ」


 まぁ否定はしないけれど。


「……おっと、次は俺の番かな」


 カスミの自画自賛を放置して、エンコとの戦いに気持ちを切り替える。


「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃい。頑張ってね」


 お、おぉ。


 なんだこの新婚みたいなこそばゆいやりとりは…。って考えすぎか?


「エンコ隊長をオトせるように」


「台無しだよ!」


 訂正。いつもどおりだった。


 気が抜けたまま一次試験に挑むのだった。

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