025.一次


『おい、クレア隊長だぜ』


 クレアが登場したことで周囲がにわかにざわつく。


『おい、見ろ!クレア隊長だけじゃないぞ、ガライ隊長とエンコ隊長までいるぞ!』


 クレアの隣にいた一人は体格の良い大柄の男だ。金色の髪は逆立っていて目つきも鋭い。外見からして気性が荒そうに見える。


 もう一人はクレアと同じ年齢ぐらいの女性である。赤褐色の腰ほどまであるロングヘア。露出の多い服から見える肌には強靭な筋肉が浮き出ている。また、細長い尻尾と特徴的な耳が目立っていた。


 身体に獣の部分多く出ているのは獣人族の中でも獣の血が濃いことを示すものであり、高い身体能力の裏付けともとれる。


 軍を代表する三人の隊長が揃うことは珍しいのか周囲がざわめき立っていたところで再び声が響いた。


「諸君、聞いてくれ!」


 クレアの声に次第にざわめきが止む。


「本年の試験だが見て分かるように入学希望者が想定よりも多い」


 一同は声を出さずに頷く。


「そこで、本年の試験は二部制とする!」


 再び少し声があがったが、次のクレアの言葉を待つかのようにすぐにざわめきがひいた。


「一次試験は我々との一騎打ちとする!各人、己の得意とする武術や魔法を見せてほしい!我々の独断で見込みのあるものは二次試験へ進めることとする!」


『おぉぉぉ!!』


 今日一番の盛り上がりの声が上がった。


 隊長クラスと手合わせできる喜びのものか、あるいは試験内容への不満の声か、単に空気にあてられたのかは定かではないが。


「勝負は一合。最初から全力でかかってきてほしい。治癒系を得意とするものは少し後からきてくれ。試験するのにちょうどいい負傷者が多く出るだろうからな」


 入学希望者を煽るように挑発な笑みを見せる。この間、お茶したときとは別人のようだが流石は軍の隊長、仕事モードといったところだろうか。


「面白くなってきたわね」


 横にいたカスミが笑う。


「…そうだな?」


 疑問符がつくのは、正直加減がわからないからだ。本当に全力でやっていいのだろうか。


「それでは試験を開始する!好きな隊長に挑んでくれていい」


 クレアの合図で、ガライ、クレア、エンコの三人が距離をとって三箇所に分かれる。自然と入学希望者も三箇所に分かれて並ぶような形になり始めている。


 百人組手みたいだな。人数的には二千人だから隊長三人で割っても七百人近く相手にすることになるが。だとすれば、最初に並ぶのは損だろうか。疲れたところを狙うのがセオリーな気もするが。


「どうかしら。勇気があると思われて評価されるかもしれないわよ?」


 声に出してなかったがそんなに俺の考えは顔に出やすいのだろうか、とも思うがいつものカスミのことだからあえて突っ込まない。


「確かにな。誰と戦うかも駆け引きか?例えば身体能力の高そうなエンコ隊長に、魔法で挑むのか、あえて武術で挑むのか」


「そうね。相手の得意分野で一泡吹かせられれば間違いなく試験通過すると思うけど……」


 カスミの視線の先には次々と吹き飛ばされていく入学希望者たちが見えた。


「不合格っ!不合格っ!不合格っ!不合格っ!」


「不合格!……合格!不合格!」


「不合格。不合格。不合格。…まあいいだろう。合格。」


 それぞれの隊長から合否の声があがる。


 合格しているのはすぐに反撃できないような攻撃を繰り出したものや、なんとか隊長の一撃から逃げ延びれたものだった。


「ガリオンを代表する三人に一泡吹かせるなんて考えが甘すぎるわね。精々、吹き飛ばされずに一撃に耐えるのが関の山ってところかしら。普通なら」


「そうだな。あの様子だと疲労も期待できないだろう」


 試験の順番による優位性はなさそうだ。


「どこに並ぶ?」


「あたしはガライ隊長かな。一番強いって聞くし、お手並み拝見」


 カスミはどこか楽しげだ。まぁカスミは普通じゃないからな。


「そうか。俺は…エンコ隊長にするか」


「このスケベ」


 心外すぎる。他意はないぞ。ないよな?


「クレア隊長が贔屓するとは思えないが、一応顔見知りになったからな」


「無駄に公明ね」


「ま、情報は多いほうがいいだろう」


 逆にエンコとは初対面だ。今を逃すと手合わせできるきっかけはゼロだ。


 少し顔を覚えてもらうぐらいは悪くない。


 昔の偉い人は言いました。


 いつの世も持つべきものは人脈だ、と。


 標語?


「さて、目立ち過ぎない程度にやってみるか」


 カスミと分かれて一次試験の列に並ぶのだった。


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