022.落着
何だって!? ガリオンに自分以外の転生者の子どもがいるだって!?
んんー、微妙。
確かに転生者である母親から色々と伝え聞いているかも知れない。
ただ、その子どもは日本だか他の世界だかに行ったわけでもないし、転生者である母親自身とは前世でも現世でも知り合いでもなんでもない、となればどう話に花を咲かせたらいいのかも思いつくはずもない。
一瞬テンションが上りかけたが、冷静になってみると自分が一般人ではないことを明かさないわけにもいかない、そもそも元の世界に帰る方法を探しているわけでもなければ驚きはあっても特に喜びはない。
さて何回ないを重ねたかな。
「会う機会があったら話してみるのもいいかもしれないな」
ティタにその子供の情報を聞くことはせず、社交辞令的に無難に答えて店を後にしたのだった。
店を出ると日が傾き始めていた。
思ったより時間が経っていたな。リリアと出会ったり魔法薬を精製したりと色々していたから不思議ではないか。
そろそろカスミの調査も終わっているかもしれないので、とりあえず一旦宿に向かってみることにする。
途中からガリオン士官学校らしき大きな建物が見えたこともあって宿までの道に迷うことはなかった。周囲は比較的見晴らしよく建物が整列しており、メインとなる広い通りにはリリアと同じ学生服をきた若者をちらほらと見かける。
士官学校近くの宿と言えば多分ここだよな。
そのなかで頭ひとつ飛び抜けた四階建て木造の大きな建物があり看板にINNとあった。
入ってみると一階は広いロビーとなっていた。正面右奥には受付、左手は特に仕切りのない開けた客席で食事がとれるようになっている。
机や椅子は木製で揃えられていて、その柔らかな風合いが良質の雰囲気を醸し出している。近くのメニューを見ると昼は軽食だが夜は
しかし、一階がそんなに煩くて寝られるのか、この宿?
実際に騒がしくなるかは定かではないが防音性能が良いことに期待したい。
なんて妄想を掻き立てられていると、一足早く飲み始めている集団がいた。
『お、姉ちゃん、イケる口だな』
「強いよ?勝負する?」
『面白ぇ!一番強い酒持ってこいっ!』
ご想像通りだと思うがカスミだった。
一緒に飲んでるオジさん達も若い子と飲めるとあって浮ついている感じがある。会話の雰囲気だと、無理やり絡まれたりしている感じではなくむしろカスミの方から混ざりにいっている様子で心配はなさそうだ。
それにしても、なんとなくキャバクラ感あるな。
と遠目に見ていると会話が耳に入ってきた。
「そう言えばこの街って初めて来たんだけど、すごい外壁だね」
『そりゃそうだ。なんたってここはガリオンだからな。ちょっとやそっとの魔物じゃ返り討ちさ』
一人の男が誇らしげに言う。
『それになんと言ってもガリオンには防衛軍があるからな』
「吹雪隊のクレアって人なら見たわ」
『おぉ、いきなり会えるなんて運がいいな。クレアと言えば防衛軍でも三本の指に入る強さだ』
「へぇ~?一番強いのは誰?」
『一番というと、ガライだろうな』
「ガライ?」
『あぁ。世にも珍しい雷使いさ』
なるほど。こうやって情報を入手してるんだな。
感心しているとカスミが一瞬こっちを見たので頷いて返した。
ここはカスミに任せることにしてそのまま受付の方へと向かった。受付は若い…といっても今の自分よりは年上だが、見目の良い女性だった。
「ソウシだ。宿を借りたいんだが」
「はい。カスミ様のお連れ様ですね。お部屋は三階になります」
事前に言っていたとおり話を通しておいてくれたようでスムーズに案内された。
階段を登って部屋に入る。
新しくはないが清潔に保たれていてゆっくり休めそうだ。
近くにあった椅子に腰掛けてしばらくすると、部屋がノックされカスミが入ってきた。
座る場所を探してベッドの方へ歩いていく途中で仄かなアルコールの香りが漂った。
「やけに早かったな」
「まあね。強いお酒がきたら一発で倒れちゃったわ」
同じ物を飲んでいるはずのカスミは涼しい顔だ。
スパイなだけあって酒は水と同然だ。幼い頃から少しずつ毒や薬物に耐性をつけてきたらしい。ほんと、どちらかと言えば忍者だな。
おつかれさま、と言って話を変える。
「それにしても、いい部屋だな。高かったんじゃないか?」
「まぁね。でも一部屋だけだし」
「ん?」
今日という日はまだ終わらないのだった。
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