023.逆転

「こういうときって普通部屋を別にしないか?」


「いいじゃん。今更だし」


 一応断っておくが、カスミと男女の仲になったという事実はない。


「襲おうと思えばこれまでだってできたでしょ?」


「いや、それはそうなんだが」


 確かにこれまでの道中、カスミとは寝食をともにしてきた。主に野外ではあるが。


「野宿とは状況が違くないか?」


「むしろこれまでの方が危険でしょ。大声出しても誰も助けてくれないんだから」


 なるほど、一理ある。


「ちなみに、襲う気?」


「いや、そんなつもりは毛頭ないが」


「ならいいじゃない」


「うぐぅ」


 ぐうの音もでないとはこのことだが、あえて出してやった。


 というか男が別室を要求して、女が同室を要求するって立場逆転していないだろうか。


「いいじゃない。お金も節約できるし、ね」


 確かにお金は節約したいところだ。


「それに別に襲われてもいいし」


「えっ」


「逃げるから」


「俺のドキッを返せ」


 あははは、とカスミが笑う。


 こう見えてもカスミは一流のスパイだ。逃げ切る自信があるのだろうし、実際カスミが本気で逃げに徹したら捕まえるのは至難の業だろう。


「ん~、でも流石にソウからは逃げ切れないかなぁ」


「だから俺の心の声に反応するのはやめろ」


 やれやれ、とため息をついて反論をあきらめた。そして、なぜか無性に鯛焼きが食べたくなった。理由は察してくれ。



「じゃあ、本題に入ろっか」


 部屋の話も本題だったんだがな。


「魔法薬は手に入った?」


「あぁ。偶然にもリリアって学生に出会ってな」


「リリアって三姫の一人のエルフ?」


 カスミが少し驚いたように合いの手をいれる。


「そうだ。色々あって魔法薬の店に同行できることになったんだ」


「色々ねぇ……」


 ジト目で見られる。


「こいつまた何かやらかしたな、みたいな目はやめてくれ」


「やらかさなかったら同行するなんて話にならないと思うけどねぇ…」


 追求を躱すように話を続けることにする。


「それで魔法薬の店に行くとティタっていう情報通のマダムがいてな。話が弾んで精製のコツまで教えてもらったんだ。そしたら、なんと魔法薬が作れてさ。偶然ビギナーズラックってやつかな」


 そう言って赤い小瓶を見せる。


「言っとくけど偶然ビギナーズラックでハイエーテルなんて出来ないからね。マダムキラーさん」


 この赤いのがハイエーテルだと知っていたのか。それにしても人聞きの悪い。


「まぁ、いまさらソウが魔法薬を精製できたって驚かないけどね」


 カスミがハイハイとでも言わんばかりに手を左右に振る。


「まっ、そんなとこだ」


「オッケー。私の方は三姫の続報かな。あとさっきの聞こえてたかもしれないけど、軍の戦力について」


「ガライってやつのことか?」


「そう。雷鳴隊のガライ、吹雪隊のクレア、紅蓮隊のエンコっていう三人の隊長からなる特殊部隊が編成されていて、軍の中心戦力となっているらしいわ」


「隊の名前からして雷、氷、火の専門家エキスパートってとこだろうな」


「ええ。その通りらしいわ。軍に関しては、まだそれぐらいね」


「わかった」


「次は三姫ね。一人目がエルフのリリア。士官学校主席。才色兼備の風魔法使い。もう会ったからいいわね?」


「ああ」


「二人目がフェリィ。獣人族で高い身体能力をもった最年少入学の天才少女らしいわ」


 獣人族はさらにその中で種族が細分化されるが、種族によって鼻が利いたり跳躍力が高かったりと身体能力に特徴がでる。何の種族か気になるところではあるが本命は次だ。


「そして三人目、ミハル。ムクの街から避難してきて昨年の試験でトップ合格」


「!!」


 思わず立ち上がった。


 やっぱりミハルだ。よかった。無事生きててくれたのか。


「とりあえず、よかったわね」


「ああ。ありがとう。一先ず安心だ」


「安心…ねぇ…?」


 カスミがどこか引っかかるような物言いをする。


「どういう意味だ?」


「ん~、本人を見たわけじゃないから、まだ確実ではないんだけど」


 カスミにしては端切れが悪い。


「あまり評判は良くないのよね。ついたあだ名が冷酷無比のスプリングフェアリー。皮肉が効いているわね」


「ハルが……冷酷無比……?」


 思い出の中とはかけ離れた噂に愕然とするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます