021.肯定
不意打ちだった。
心臓が脈打つ音と振動が相手にも聴こえているんじゃないかと錯覚するほどうるさく感じる。
何と答える?どう答えたら何が起こる?
まったく予想しなかった展開に何も言えないでいる。
沈黙は肯定。否定も肯定。
転生者ってなに? そう答えることこそが、唯一の模範解答だった。
ただその解答には時間制限があって、ものの数秒過ぎたことで使えないものへと変わってしまったのだった。
遅すぎる返事の代わりに知らぬ間に止めていた息を吐き出した。
「驚いた、としか言いようがないな」
この地に降りたってから八年も経つ。元いた日本を思い出し、ときにその技術を使うこともあるが、流石に今さら話題に出すことがあるなんて思いもしなかった。
「驚いたのはこっちも同じさ。まさかとは思ったがねぇ」
「この世界に転生という概念があるのか?」
「あるかないかで言ったらあるが、ほぼないのと同じさ。転生者について知っているのなんて嘘か本当かわからないような内容の古代書を読み尽くすほどの変人か、奇跡的にも隣人に転生者がいたか、ぐらいさ」
そうか。流石に転生者でありふれた世界というわけではなかったか。何故かわからないが安堵した。いや、ありふれていても何も問題はないはずなのだけれど。ところでティタはどっちのケースだろう。
「そんな滅多にいやしない転生者と思った理由を聞いても?」
「…まあいいだろう。これも何かの縁さね。鑑定のスキルだよ」
鑑定……そうか、店に入ってきたときに感じたあれか。
「鑑定は鑑定でもユニークスキルの鑑定さ。対象の質に関しては大抵のことがわかってしまうのさ」
鑑定のユニークスキル!
元の世界だとそれだけで話が一本書けそうなぐらいレアなスキルだ。それがあれば自分の作った魔法薬がちゃんと出来ているかもわかるし何かと便利そうだ。
「だがそのスキルをもってしてもお前さんの本質が見えなかった。まるでベールに覆われたようにね」
なるほど。まさにベールで覆うようなイメージをしただけだったがうまく機能していたのか。だがそれがかえって特殊性を際立たせてしまったわけだ。
「もちろん、高位の防護スキルをもった魔法使いだったら似たようなことをできる者もいるかもしれないがね。流石にお前さんの歳でそこまで習熟してるなんて考えづらいし、仮にお前さんが防護のユニークスキル持ちで出来たとしても、今度は精製がそこまで上手くできる理由が説明できないんだよ」
普通にしていたつもりで色々としくじってしまったようだ。でも、普通じゃなかったことと転生者を結びつけるのは少し飛躍しすぎな気もするが…、という考えを読んでいたかのようにティタが続けた。
「若い頃、同じように鑑定できない女性がいてね」
ティタはどこか昔を懐かしむように虚空を見つめる。
「その人から教わったのさ。こことは別の世界からやってきたってことを」
後者のケースだったのか。
「お前さんが鑑定できなかったから、ちょっとその人のことを思い出してね。軽く聞いてみただけだったんだけどねぇ」
偶然が重なってしまったわけか。まぁティタに知られたことで害があるとは思えないし、逆に転生者がいたという事実はある意味、収穫とも言える。別の世界というのが…日本なのか、外国なのか、はたまた違う世界なのかはわからないが。
「その人は今…?」
「亡くなったよ。残念なことにね」
「…そうか」
八年も経てば元の世界に未練もないが、同郷かもしれない人がいるとなれば少し興味はあったのだが。
「ただ…」
ただ?
「子供がいるよ。このガリオンにね」
ティタは再び、驚きの事実を告げるのだった。
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