020.精製
「それで、お前さんは何を探しに来たんだい?」
「魔法薬がどんなものか見に来たんだ。手が届くものなら緊急用に持っておいてもいいかと考えている」
「なるほどねぇ」
ティタはゆっくりと頷く。
「魔法薬自体はさっきリリアに渡したものさ。値段はそうだね、一つで一週間分の宿代ぐらいかね」
やっぱり結構なお値段するんだな…。
「ちなみに魔法薬の精製は難しいと聞くが、やはり素人には無理か?」
「そうさね。まぁちょっとしたコツがいる」
ティタはそう言って空の試験管を二つ取り出すと、棚から幾つかの材料をとっては試験管に入れていく。
「よっぽど珍しい薬を作るのでなければ素材自体を集めることは難しくないがね」
一通りの材料をいれると、最後に少しの水を入れた。
「大事なのはここからだ」
ティタのもつ試験管から魔力を感じたかと思うと、試験管が淡い光を放ち出したと同時に、中身がかき混ぜられ、細かく粉砕され、熱せられ、最後に冷やされるというような工程を経て色を変えていく。
「ま、こんなとこだね」
光が収まるとティタの持っていた試験管は先ほどリリアに渡していたような緑色の液体で満たされていた。
「これがエーテルの作り方さ」
「こちらとしては有り難いことだが、精製方法を見せても良かったのか?」
「薬の精製にはバカでかい魔力は要らない。ただその代わりに、風、土、火、水の全ての要素が必要なのさ。例え精製方法を知っていたってセンスのない者にはできないさね」
なるほど。ユニークスキルがなくても魔法を使うことは自体は可能だ。だが四属性をあの小さな試験管の中で正確に操るとなると確かににハードルは高いかも知れない。普通なら。
「さ、やってみな」
そう言ってもう一つ用意していた試験管を差し出された。こっちは俺のためだったのか。
「混ぜて、粉砕して、熱して、冷やす、だな」
「そうさ。魔力は触媒みたいなもの。素材の力を最大限に引き出すように扱うのがコツさ」
「魔力は触媒……」
復唱しながらティタが行ったような手順を踏む。
かき混ぜる…砕く…熱する…冷やす…。ティタが行った一連の工程を丁寧にかつ高速に魔力を染み込ませるようなイメージとともに進めていく。
すると試験管はさきほどティタが放ったよりも一際明るい光を放ち、そして光が止む頃には液体は鈍い赤色をしていた。
「ありゃ、失敗か…?」
苦笑いし、素材を無駄にしたことを謝罪しようとティタに視線を戻すとティタの表情は驚きに満ちていた。
「なんてことだい。まさかいきなりハイエーテルを作ってしまうなんてね」
「ハイエーテル? もしかしてさっきの…?」
「そうさ、リリアに数本もたせた赤い方だ。名前の通り効き目が強く、エーテルの数倍の効力がある」
「そうか。素材を無駄にしなくて安心した」
そう言って試験管を返そうとするが、ティタは受け取る様子を見せない。
「これを受け取るとむしろこっちがお金を払わないといけないぐらいだねぇ」
「とはいっても、素材はこの店のものだからな」
ティタは少し考える仕草をしたが、すぐに心は決まったようだ。
「いいよ。それは持っておいき。
「……わかった。そういうことであれば遠慮なく。また何か入用のときはこの店を使うことを約束しよう」
「ああ、そうしておくれ」
幸運なことに労せずして魔法薬を手に入れてしまった。
ツイてるなぁ、なんて若干浮かれていたからだろうか。
次のティタの一言に、頭を横からいきなりハンマーで殴られたかのような衝撃をうけたのだった。
「ところでお前さん、『転生者』かい?」
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