017.寄道

 明日のことが決まったのはよしとしよう。


「これからどうする?」


「入学試験の手続きは必要ないけれど武器が必要な人は各自調達、ということになっているわ。まぁ、徒手空拳で戦えるソウには関係ないかしらね。強いて言うなら魔法薬でも買っとく?ガリオンにならあるわよ、きっと」


 魔法薬とはその名の通り魔力を回復する薬で、精製には高度なスキルが必要とされる。決して安い買い物ではないが万が一の時を考えると命より高いものはない。


「そこまでお金に余裕はないんだが、どんなものがあるかぐらいは確認してもいいかもしれないな」


「あたしはちょっと別行動するわ。もう少し調べたいこともあるし…」


「わかった。宿はどうする?」


「士官学校の近くにあるらしいから、ソウのぶんまで話をしておくわ」


「助かる」


 情報もくれて、手配もしてくれる。まるで超有能な秘書だな。


 これなんてカスミコンシェルジュ? 頭が上がらなくなりそうだ。


「それじゃあ、後でね~」


 手を振りながら、颯爽と去っていく。


 残されたのは空になった丼椀が二つ。


「なるほど、ここは俺に払っとけってことか」


 安い昼食代じょうほうりょうを払って店を後にした。



「しまった、大体の場所ぐらいは聞いとけばよかったかな」


 大衆食堂を出て途方に暮れる。


 とりあえず士官学校の方に向かっていけば途中で何かあるだろうか。


「確かあっちだな」


 ゆっくりと歩みを進めることにする。


 ものの数分歩いた頃だ。


『いいじゃん~ちょっと相手してよ』


 広い通りの大きな建物の間。影で少し暗がりになった小道の方から声がした。


 気になって少し覗いてみると一人の少女が二人の男に絡まれている。


「すみません、私ちょっと急いでますので」


 そういって少女は立ち去ろうとするが、男の一人が行く手を阻むように位置どった。角度がかわってちょうど少女の様子がよく見えるようになった。あれは…学生かな。


『ちょっとぐらいいじゃん。そんなに勉強ばっかりしなくてもよぉ、なぁ士官学生さん?』


 なるほど、あの制服は士官学校のものか。それにしてもなんてテンプレな展開だろうか。


 だけど、この状況で見て見ぬ振りをできる勇気は逆にない。これが数ある主人公が同じような行動をとる所以か。


『ほらほら、ちょっとだけだからさぁ…』


 そんなことを考えているうちに男の方が手を伸ばし始めた。そろそろ割り込んだ方がいいだろう。


 いいね。断っておくが決してフラグを立てようとしているわけではないんだよ。


 単にそう、正義の味方というほどのものではなくて、一般的な良心に基づいているだけなのだ。


 あとそうだな、助ける方法も二通りあるな。


 知り合いを装ってさり気なく逃げるパターン、もう一つは単純に絡んでいる男の方を倒してしまうパターンだ。


 さすがに前者ベタだろうから、やっぱり後者かな。


 そんなしょうもないことを考えながら、頭をかきながらそっと近づいてく。


「あー、すみません、その辺りにしといたほうが…」


 なるべく悪意のない表情で止めようとしたところ、


「しつこい方たちですね。ーーー風よ!」


 少女がそう言葉を唱えた瞬間、激しい突風が発生し男二人の体が宙に浮く。


『なっ!』

『ひえっ!』


 そしてその二人はそのまま自分の方へと飛んでくる。


「はっ?」


 予想外の状況に反応が遅れた。


 いや、正確に言えばまだ避けれた。が、このまま男たちが大怪我した場合、報復として少女が面倒なことになるんじゃないかという考えが一瞬頭をよぎってしまったのだ。


 結果的にそのまま男たちの勢いを殺す形で自分も一緒に吹き飛ばされた。


 受け身をとったので自分にダメージはなかったが、男たち二人は腰や尻をうったようですぐには動けない。


 少女はこちらを見やり、去り際一瞬目が合ったが何も言わずにそのまま歩いていった。



 少女が見えなくなった頃、痛みが引いてきた男たちはゆっくりと立ち上がり舌打ちした。


『ちっ、士官学生か。ただの頭でっかちじゃないってことか』


『それが良いんじゃねぇか』


『モノ好きだな。とにかく、もう行こうぜ。はっ、アンタもついてなかったな』


 下敷きになっていたこちらに礼を言うこともなく、お前も狙ってたんだろ?と言わんばかりだ。こいつら全然反省していないな。少し痛い目見てもらったほうが良かったか?


 男たちはそう言い捨てるとヘラへラしながら去っていった。


 男たちがいなくなり、ため息をついて立ち上がったところで一筋の影が指した。


 その影の持ち主は、さっき立ち去ったはずの少女だった。


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