018.代表

 

 改めて少女を眺める。何より特徴的なのは耳だ。長い。クレアも長かったが、目の前の少女はさらに尖っている。間違いなく彼女はエルフだ。元々美形の多い種族だが、なるほど整った顔をしていて男たちが言い寄って来る理由は理解できる。長命な種族だからよくわからないが、一応士官学校の学生ということだし歳は同じぐらいだろうか。


「忘れものか?」


「ええ、あなたに感謝を伝えるのを」


 喋り方も丁寧だ。どこかクレアに似たものを感じるな。


「感謝?謝罪ではなく?」


「はい」


 目の前の少女は先ほどは見せることのなかった笑顔を見せた。


「初め、助けに入ろうとしてくれましたね?」


「必要なかったみたいだけどな」


「もう一つ、あなた、わざと魔法に巻き込まれましたね?あの男たちをかばって」


 よく見てらっしゃる。


「結果的にたまたまそうなっただけだ。気まぐれと言ってもいい」


「まあ、ご謙遜を。押し付けがましく私に恩をたたき売ってもいいところですよ?」


「…そう言われて、実行できる図太いやつがいたら見てみたいね」 


 少女はクスっと笑う。


「とりあえず、感謝は受けとった。どこか先を急いでいたんじゃないのか?」


「ええ、少し買い物がありまして」


 それなのにわざわざ戻ってきてお礼を言いにきたのか。律儀なことだ。


「買い物で思い出した。この辺りで魔法薬を売っている店を知らないか?」


「それは奇遇ですね。私もちょうど魔法薬を調達するところだったのです。よければ案内しましょうか?」


「そいつは助かる。よろしく」


 飛ばされた甲斐があった。幸運にも店までは辿り着けそうだ。


 少女に先導されて魔法薬の店を目指すことになった。



「私はリリアといいます。この制服からわかるかもしれませんがガリオン士官学校の学生です」


「総司だ。ガリオンには今日きたばかりだ」


「ソウシ…さん。あれ?どこかで聞いたような……」


 思い出せないことが珍しいのかリリアが不思議そうに顎に手をあて首をかしげる。何とも様になる仕草である。


「買い出し、ということは明日の入学試験の関連か?」


 リリアは思い出すのを諦めて答えてくれる。


「今日着たばかりでよくご存知ですね。ええそうです、まぁ、もしものときの保険みたいなものなのですが」


「実は明日その入学試験を受けようかと思っているんだ」


「そうなのですね!それは楽しみです」


楽しみになる要素あったか?


「試験内容は聞いてもいいのか?」


「年によって変わりますが、基本的に実技試験と簡単な面接ですよ。面接は人間性に問題ないか見るだけですから、ほとんどは実技試験で決まります」


 なるほど、それは分かりやすくていいな。


「毎年、張り切りすぎちゃって魔力を暴走させ、重度の魔力切れを起こされる方が出てしまうのです。なので念のため魔法薬を買いに来たというわけです」


「そういうことか。いち学生が準備しないといけないのか?」


「学生は学生でも、こう見えて学生代表という立場にありまして。責任者みたいなことをやっているのです」


「なるほど、首席というわけだ。もしかして三姫と呼ばれている…?」


 リリアは少し照れたように顔を赤くする。


「そのようなことまでご存知なのですね。お恥ずかしいのですが一部の方からはそう呼ばれています」


 まぁ、この美貌で強さも兼ね備えているとなると、人気が出るのも無理はないだろう。ファンクラブとかありそう。


「魔法薬の店はこちらになります」


 他の二姫――ミハルのことも尋ねようとしたところで、タイミングが悪く店についてしまったようだ。まぁ、後で聞けばいいか。


「ああ。ありがとう」


 たどり着いたのは周囲の建物より一回り大きな店だった。士官学校の御用達というところからも信頼のある店なのだろう。


 二人は揃って店の中に入った。



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