016.判明

「デートはどうだった?」


 喫茶店を出てしばらく歩いてると、見計ったかのようなタイミングでカスミが声をかけてきた。


「こんなバカでかい都市でよく見つけられたな」


「へっへー」


 返事がわりに笑うだけだ。そういう無邪気なとこあるよね。ある意味ちょっと怖いところなんだけど。この世界の技術力からして、少なくともそこらへんに転がっているレベルでGPSは普及してないはずだ。逆にこの世界にはスキルと魔法がある。探知系のスキルでも持っているのだろうか。


 ちなみにカスミのスキルについては教えてもらったことはないし、こちらもこれまでオールマイティを持っていることを教えたことはない。カスミの場合は本業からしても手の内を晒すなんてことはしたくないはずだし、むしろ嘘を織り交ぜて混乱させてくるまである。


「それで?」


「ああ。軍への勧誘だったんだが、結果的に士官学校を勧められたよ」


「ふむふむ、確かソウの探してる子ってミハルって名前だったわよね?」


「そうだ」


「同一人物かまではわかってないけど、士官学校で三姫って呼ばれてる三人の天才だか秀才だかがいるんだけど、その中の一人にミハルって子がいるらしいのよね」


 褒めていいよ?と言わんばかりのドヤ顔だったが、極めて華麗にスルーした。


「確かめる価値はある、か」


 しかし、この短時間でそこまで当たりをつけるか。


 改めてカスミの情報収集力の高さに舌を巻くのだった。



 レストラン、というよりは庶民的な食堂といったほうが相応しそうな飯処に場所を移し、昼食をとりながらカスミの調査結果を聞いていた。

 

「それでね、丁度タイミングがいいというか、近々その士官学校の入学試験があるらしいわ」


 うどん、と呼ぶのかは定かではない太めの麺を啜る。


「ほう。いつだ?」


「明日よ」


 ブフッ!


 麺が暴れて鼻の奥を刺激した。ついでに涙腺もだ。


「それなら最初からそう言えよ…。また凄いタイミングに着いたものだな。カスミは士官学校に入る気はあるのか?」


「うーん、仮にそのミハルが同一人物だった場合、ソウはガリオンに留まるのよね?」


「そうだな。しばらくはそうなるだろう」


「なら、士官学校の選択肢は悪くないのよね」


 カスミ曰く、士官学校は実践訓練で魔物を狩ることも多いらしく、討伐した際には手当が支給される。ベテランが同行するので危険が少ないとは言え、命の危険がゼロではないということから少なくない報酬が貰えるのだ。見習い兵のような扱いといってもいいだろう。そしてその額は自分一人分の生活費は賄えるぐらいになる。


 これが士官学校が人気となるもう一つの理由らしい。強くなれてお金も貰えるとなれば、確かに入学希望者は増えるだろう。軍にとっても、人気が出ることでより有望な若者を囲い込める、まさにwin-winの関係と言える。


「ただ、仮に俺の知っているミハルじゃなかった場合、そのまま士官学校に通うのも変な話だ」


「そうね、じゃあこうするのはどう?」


 カスミはあっさりしたスープを一口飲んで食べ終えた。


「とりあえず、明日の入学試験だけ受けとくの。それで結果が出るまでにミハルに接触して本人かどうか確かめる」


 特に異論はなく、首肯して応える。


「それだな。入学試験のタイミングなら構内をウロウロしてても変ではないだろうし」


「決まりね」


「一応聞いておくが、入学試験には何か手続きがいるのか?」


「いえ、決められた時間に行けばいいらしいわ」


「門戸は広くか。ありがたい」


 もちろんミハルの安否は気になるが名前が広まっているからには本人であれば無事なのだろう。少なくとも明日にははっきりするはずだ。


 それにしても、近所の子供が集まった青空教室的なものはムクの街でもあったが、本格的な学校となるとこの世界では初めてか。日本の大学生活は自由で良かったなぁと思い出しながら少しワクワクするのだった。

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