015.勧誘

「軍に…?」


「はい。ご存知のように魔物の軍勢が勢力を増しています。今は一人でも強い兵が欲しいのです」


 なるほど。フレアウルフ一匹ぐらいでお礼なんておかしいと思っていたけれど。


「お礼だと言って連れてきてこのような話をして気を悪くされたならすみません」


 クレアが申し訳なさそうに目を伏せる。


「いえいえ、一目おいて頂けたという点では喜ぶべきだと思います。それで、年齢を聞いたこととは何か関係が?」


 予想外の反応だったのか、クレアは少し驚いた様子だったが、すぐに平静を取り戻した。


「え、ええ。実は軍の規定で基本的に軍に加入できるのは二十歳からなのです」


「なるほど、それで」


「ただ例外があります。士官学校で優秀な成績を修めていればその限りではありません。飛び級や推薦といった形ですね」


 士官学校…か。おそらくその名の通り軍に入るための学校だとは思うが。


「すみません。実は出身はムクの街なのですが、しばらく旅に出ていて世間には疎いのです。その、士官学校というのは?」


 クレアは面倒がらずに丁寧に教えてくれる。


「はい。知らなくても無理もないかもしれません。実は士官学校ができたのはつい最近のことです。近年、魔物の勢力が増していることに危機感を覚えた各国は軍を強化するために養成所を設立する動きが増えています。十五歳~二十歳程度の若者を対象としていて、成績の優秀な者を良い待遇で軍に迎えます」


 一口珈琲を飲むとクレアが続ける。


「もちろん士官学校に入ったからといって軍への加入は必須ではありません。実力をつけておけば例え軍に入らなかったとしても自衛できるぐらいには強くなれるはずです。結果的には防衛力の強化にはつながるでしょう」


「悪くない仕組みですね」


「ええ、このご時世ですから若者からも人気があり、毎年多くの志願者が士官学校に集まります。流石に全員を入学させるわけにもいかないので簡単な入学試験を実施している現状です。もしかすると」


 そこで一旦切ってクレアがちらりとこちらを見た。


「友人の方も士官学校に通われているかもしれません。避難されてきたソーシさんぐらいの子が士官学校を目指すのは珍しくありませんから」


「なるほど。同年代が集まるという点ではその可能性はありますし、仮に本人がいなかったとしても同年代の情報は集まりやすいかもしれませんね」


 ただ、なんとなく、なんとなくだが、上手く誘導されているような。


 ちらりと、様子を伺うとそこには変わらず微笑む美人の顔があった。確信犯か。


 ため息を一つつくと珈琲を飲み干した。


「情報ありがとうございました。検討します」


 そう言って席を立つ。


「ごちそうさまでした」


「またお会いしましょう」


 クレアは微笑んで小さく手を振った。


 店員にも軽く会釈してそのまま店を出る。



 カラーン!


 

 やれやれ、どうしたものか。とりあえずカスミと合流して情報を共有するべく街の奥へと歩みを進めた。




 総司が去った後、クレアは店で残った珈琲を飲んでいた。


「フラれたの?」


「いえ、まだまだこれからですよ」


 そう言って珈琲を飲み干すと懐から代金をテーブルにおいた。


「ありがとうございました」


 クレアが同じように店から立ち去る。

 

「ふーん」


 店内に残された店員は一人呟いた。

 

「あの青年。あんな真っ黒な飲み物を全く疑いもせずに飲んだわね」


 残された珈琲カップをみて不敵に嗤うのだった。

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