014.喫茶

 

 フレアウルフが撃退されたため検問を再開し、特に何事もなく通過することができた。オールマイティについて何も聞かれなかったことからするに、おそらくスキルまでは見られなかったのだろう。


「もし、そこのあなた。少しお時間を頂けませんか?」


 門を通過してすぐの所で声をかけられた。見覚えがある金髪碧眼の美女だ。さっき防壁の上から感じていた視線の主だろう。エルフだろうか?近くで見ると耳が少し長い。


「吹雪隊の方ですね?何か御用でしょうか」


 ひとまず丁寧に対応することにする。


「お気づきでしたか。私はクレアと申します。先ほどのお礼をしたいのですが。もちろんお連れの方もご一緒に」


 そう言ってカスミの方にも笑顔を向ける。


「あたしはちょっと色々と見て回りたいからソウだけどうぞ」


 カスミは笑顔で返し、返事も聞かずに足早に去っていった。


「迷惑だったでしょうか?」

 

「いえ、お気になさらず」


 諜報活動せずにいられないのは職業病だろう。あらゆる不確定要素を取り除きできるだけの情報源コネクションを作っておく。スパイの性ってやつだろう。


「では近くに知り合いのお店があるので、そこに」


 クレアに導かれるまま暫く歩くと、そのまま雰囲気の良いお店にたどり着いた。



 カラーン。



 ドアについた鐘の音が鳴る。 


「あら、こんな時間に、それに男性を連れてくるなんて珍しいわね」 


 店に入ると店員さんが親しげにクレアに話しかけてきた。


「ええ、少し。奥の席よろしいでしょうか」


「どうぞ、ご注文は?」


「…珈琲を二つ」


「はいはい、少々お待ちを~」


 この世界って珈琲があったのか、なんて考えていると奥の席を勧められたので座る。うん。椅子もなかなか。


「改めまして、吹雪隊の隊長をしているクレアと申します」


「あ、はい。自分は総司といいます」


「ソーシさんですね。先程はありがとうございました。見事な腕前でした」


「いえいえ、自分がやらなくてもクレアさんが仕留めていたとは思いますが」


 実際、フレアウルフが接近するまではまだ距離があった。クレアの様子からしても十分に間に合っただろう。


「ええ、もちろん。皆さんを危険に晒すことはないと思ってました。しかし貴方の魔法は必要最低限の魔力量で最良の結果を出す、という点で完璧でした」


「あ、ありがとうございます」


 美人に褒められるのは悪くないどころか嬉しいはずなのだが少し気恥ずかしい。


 ちょうどさっきの店員が珈琲をもってきたので、いただきますと一言ことわって喉を潤すと少し落ち着いた。店員から帰り際にウインクされた意味はよくわからなかったが。とりあえず会話を振ってみることにする。


「良い雰囲気ですね。行きつけのお店ですか?」


「はい。特にこの奥の席は他のテーブルの様子が見えないので内密な話をするにも向いています」


 なるほど。ガリオンは全体的に近代的なつくりではあるが流石に防犯カメラまではない。


「もちろん、聞き耳のスキルには注意が必要ですが」


 そう言ってクレアが微笑む。美人の笑顔はなかなかに破壊力抜群である。中身が三十八になるおっさんでなければ超浮かれていいたかもしれないが、そこは大人の落ち着きを見せて微笑み返し、珈琲を飲み進める。


「差し支えなければ、ガリオンに来た理由を教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「ええ。問題ありません。実はムクという街からガリオンに避難してきた友人を探しているのです。何かご存知ないですか」


「ムクの街に限らず、ここ最近は周囲の様々な街から避難民が流れ込んできています」


 どこも魔物の侵攻が進んでいるのは聞いていた通りか。


「どこに誰がいるかまでは把握しておりませんが、今のところ避難民は全て受け入れています」


「ありがとうございます。ということはガリオンのどこかにはいる可能性が高いですね。それがわかっただけでも有り難いです」


「もう一つお聞きしたいのですが、ソーシさんは今おいくつでしょうか」


「…?、十八ですが…」


 そう答えると、クレアは少し残念そうな顔になった。


「そうですか、大人びていたのでもう少し上かとおもいました」


「…年齢が何か?」


「いえ、実はあなたを軍に勧誘したいと思っていたのです」


 突然の展開に思わず飲んでいた珈琲を吹き出しかけた。

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