012.意外

 

 ムクの街を出てさらに十日ほど移動を続けた。


 途中で立ち寄った街や村も多かれ少なかれ魔物の侵攻に苦慮しており、ときには滞在中に現れた魔物の討伐を手伝うことさえあった。Aランク程度の魔物だったから特に苦戦することもなかったが、街の人から称賛の眼差しを受けたことに少し戸惑った。


 確かに三年前を考えるとAランクは絶望的な脅威だったかもしれない。


 ただ、昔の偉い人は言いました。

 

 世の中、上には上がいる、と。


 Aランクの魔物と言えどスパイ村の長であるヒエイとの訓練に比べるとまだまだ可愛げがあった。ヒエイときたら問答無用に、間髪いれずに一番嫌なところを攻めてくる。あれが実戦だったらと思うと戦慄ものだ。しかもそれがスキルに頼ったものではなく純粋な体術というから驚きだ。


 少なくともこれまでの人生で会った人の中では最強、出会ってない人を含めても実際に人類最強ではないかと思っている。おかげで様で強くなることはできたけれど。


 昔の偉い人は言いました。

 

 慣れって怖い、と。


 もはや偉人(?)の名言シリーズのクオリティが爆下げで怖い。


 さておき、そんな強者との戦いに慣れたこともあってAランクの脅威は既に低い。しかし、本当にヤバいのはSランク以上だ。AからSにかけて討伐難易度は桁違いに上がると言っていい。


 と、分かったような口をきいてみたが実際に相対したことはない。あくまでよく聞く一般論だが、先人たちの言葉であるからここは敬意を持って心に留めておくのがいいだろう。


 そう言えば道中、面白いものが一つ見れた。


 ーーーとある日、そろそろ昼飯にしようか、という頃のことだ。


「今日は何食べる?」


「そろそろ山菜も飽きたてきたわね」


「獣肉もな」


 側から聞けば夫婦と思えなくもない会話をしていた頃である。



 バサァッ!

 


 上空を大型の鳥が羽ばたいていった。


「おお、でかいな」


「あれはロックバードね」


 久しぶりに鶏肉なんてどうだろう。

 

「でも、あれはちょっと難しいわね。厚い毛で覆われているからクナイじゃ少し厳しいわ。近くに足場でもあれば別だけど」


 残念ながら背の高い木がないわ、と隣でカスミがため息をつくなか、久しぶりに手に魔力を込めて手刀の要領で空を切るように振り下ろす。



「ウインドカッター!」


「はっ?」



 手から放たれた淡い光の刃となってロックバードに向かっていき、そのまま片方の羽を奪い取った。バランスを崩したロックバードはそのまま地面へと急降下する。


「おぉ、久しぶりに使ったけど良い感じだな」


 身体能力が上がったからだろうか、以前より速く鋭いウインドカッターだった。


 隣ではカスミが開いた口が塞がらないといった様子で珍しい顔をしていた。初めて見る年相応の女の子の心底驚いたような顔だ。そう言えば攻撃魔法をカスミに見せるのは初めてだったかもしれない。


「…そんな威力の魔法が使えるなんて聞いてないんだけど?」


「あぁ、村では体術を鍛えようと思ってたから攻撃魔法は使わないようにしていたんだ」


(村長と体術で互角に戦っていたし…てっきり格闘系のスキル持ちかと…、それともダブルスキル?)


「それって村長は知っているの?」


「魔法が使えることか?一度だけ最初の手合わせで見せたことがあったかな」


「ちなみに得意なのは風魔法だけ?」


「んー、どれも同じぐらいかな」


(あのレベルの魔法を全属性で…?村長はこのことを知って目をかけていたのかしら)


「非常識ね」


 カスミがため息を一つつくとそのままロックバードの方へ歩みを進めた。


「それ…褒め言葉か…?」


 若干の疑問を残しカスミの後に続いた。




 そんなこともありながら移動を続けたところ、


「見え始めたわね」


「確かにでかい…というかデカすぎない?」


 前方の広い範囲に巨大な構造物が見えてきた。


「あれが世界五大都市の一つ、ガリオン」

 

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