011.行方
『今日も魔物が現れたそうだ。ここ最近は頻繁になってきていて、毎回お祭り騒ぎをすることもなくなってきた。衛兵たちも疲弊し負傷することも増えてきたそうだ。見習い治癒士として頑張らないと』
『今日の魔物の侵攻によって街の入り口付近の建物が破壊されたらしい。衛兵の中から死者もでた。ミハルちゃんの活躍で何とか撃退したが、いよいよ危なくなってきた。同い年の彼女も頑張っているんだ。彼女に認められるように自分ももっともっと頑張らないと』
どうやらこの日記を書いたのはミハルの同級生のようだ。一緒に遊んだ記憶は残っていないが、確かに近くにそれぐらいの歳の子が住んでいた気がする。ついでに言えばミハルに淡い恋心を抱いてるようだ。
勝手にプライベートに踏み込んで若干の申し訳ない気持ちになるが手掛かりを得るためには仕方ない。続きを読み進めていく。
『今日はここ最近の魔物の侵攻が魔王の復活によるものだという見解が街の代表から示された。どうやらこの街だけでなく、各地で似たような状況が起こっているようだ。代表からは街を放棄する案が出た。当然、家や故郷を捨てることに反対する声も多く上がったが、一方でこのままではジリ貧なことも理解している。一部の人達は既に都市ガリオンへの移動を開始したとも聞く。この先どうなっていくのだろう』
……都市ガリオン。行ったことはないが街を出る前に聞いたことがある。世界五大都市の一つで、五つの中では最も近い。当然ながら防衛能力は格段に高いだろう。
『今日も魔物の侵攻があった。最後はミハルちゃんの活躍によって何とか凌いだものの、既に街の半分は機能していない。建物が壊され、街から人が減っていることもある。治安も悪くなってきた』
『今日の魔物の侵攻でミハルちゃんが負傷したらしい。彼女自身が得意とする治癒スキルで幸い大事には至らなかったが、同い年の彼女が最前線に立って死と隣り合わせで戦っているのに自分が治療でしか役に立てないのが歯痒い。この街はもはや彼女なしではもたないだろう。実質彼女が街を出るタイミングがこの街を放棄する日となるだろう』
『明日をもってこの街を放棄することが決まった。残っている人達はまとまってガリオンに向かう。むしろ今日までもったことの方が驚くべきことかもしれない。我々の希望の星だったミハルちゃん。彼女が最後まで残ってくれたことでここまでもった。故郷であるこの街を守りたかったのか、それとも何か他の理由があったのかは分からない。しかし、今日の魔物たちの侵攻で彼女の父親が彼女の治癒魔法でも治せないレベルの重傷を負ってしまい心が折れてしまったようだ。彼女は立ち直れるだろうか。ガリオンに着いたら軍隊学校に入ろう。そして彼女の父親を治せる治療師になって彼女を支えたい』
そんな決意を書き綴って日記は終わっていた。
「行くの?ガリオンに」
いつの間にか近くまで来ていたカスミに尋ねられる。
相変わらずの神出鬼没と情報通でもう驚くのも億劫なほどだ。
「…そうだな」
少なくとも一年前の時点ではミハルは無事でガリオンに向かったはずだ。
他に手がかりもないし、行かない選択肢はないだろう。
「まだついてくるのか?」
「不服ならソウをおいて先に行くわ」
実際のところムクの街までたどり着けたのはカスミのおかげに他ない。
自分が方向音痴というつもりはないが、そもそもこの世界について知らなさすぎるのが問題だ。
さしあって自分がすべきことは一つである。
「…ついて行かせてください」
そうして丁寧にガリオンまでの道案内を頼むのだった。
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