006.決意
「わぁ!見てみて。おっきいね!」
「ああ。そうだな」
広場ではワイルドボアの肉が豪快に焼かれていた。その周囲では飲めや食えや歌えやで大盛り上がりだ。
他にも数多くの出店が並んでいてどこも商売繁盛。
「街の人ってこんなにいたんだな」
と思わず声に出てしまうほどの人だかりだった。
「あ、ソウちゃん、あれやろうよ」
そういってハルが指差したのは射的だった。縁日でよくある景品を落とすやつだ。
「よし、任しとけ。どれを狙う?」
「えっとね、猫!」
ハルが陳列した景品の中から木掘りの猫を指差す。
ポンッ!
しっかりと狙うこともなく撃った弾はまっすぐに猫へと向かっていき景品に命中した。おそらく倒しただけで景品はもらえそうだが、興がのってそのまま連続で引き金を弾く。
ポンッ!ポンッ!
連続で放った弾は倒れた猫を押していき棚から落ちた。
「えぇぇぇ!?ソウちゃんすごい!!」
思いもしなかった離れ業に思わずハルが叫ぶ。
「ソウちゃんってそんなに射撃得意だったの?」
「まぁ、そんなとこかな」
答えは簡単、オールマイティのおかげだ。
銃を持って感じた重さからおおよその弾の威力が想像され一発目を発射。発射した一発目の弾の軌道から微修正して二発目、三発目を撃った。まぁ一発目が当たったのは半分偶然だけれど。言うは易しだが、実際にそれをやってのけるのは容易ではないだろう。普通なら。
しかし、感覚的に、無意識的に、それができてしまっていた。長年修行して体に刻み込んだ所作の如く。まるで体が覚えていたかのようだった。
その後、ハルと祭りを見て回りながらもどこか心あらずになっていた。
今回の事件とでも言うべき
昔の偉い人は言いました。備えあれば憂い無しと。
そんなことを考えながら飲んで、食べて、遊んで、一通り祭りを見て回り、ほどよく疲れたところで家路についていた。
「ありがとうな、ハル」
「ん?何が?」
何の脈絡もなかったが、つい口をついてでた。いや、これから自分がしようとしていることについて考えていたからかもしれない。が、今ここでそれを告げるつもりはなかった。
「いや、日頃からのお礼かな。今日も看病してくれたし」
「変なのー。頭打ってないよね?」
「ははっ!ひどいな」
笑って返す。いや、気絶したときに打たなかったとも言い切れないが。戦闘民族の赤ん坊も頭を打って性格が大人しくなったというし。
そんなやりとりをしているうちにミハルの家の前まで帰ってきていた。
「じゃあな。ハル」
ミハルに軽く手を振ると目と鼻の先にある自宅へと向かう。いつもと変わらない日々の別れのはずだが、このときミハルはなにか違いを感じていた。
「なんか、ソウちゃんがいなくなっちゃうみたい。そんなわけ、ないよね…?」
総司の歩いていく後ろ姿に呟いたミハルの声が届くことはなかった。
家に帰ると総司は机に向かって紙に文字を綴っていた
「…これでよし」
あくる早朝、いつもの時間にミハルが起こしにくるがベッドに総司の姿はなく、一通の手紙が残されていただけだった。
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