005.気絶

 いきなりボスのブラックベアを倒しましたとさ、めでたし、めでたし。


 で、話を終えるわけにはいかなかった。悪い状況は続いている。後方でボスが倒れたのに気づかない前衛のワイルドボアは街への前進をやめない。


 迎え撃つ防衛ラインはというと少し頼りない。ここはもう一発、今度は広い範囲攻撃がほしいところだろう。


 そう考えると、ワイルドボアと防衛ラインの中間ぐらいの位置を見据えるて目を瞑った。


 なんとなく集中しやすいからだ。


 想像するのは地割れ。大地を割ってそこにワイルドボアたちを落とす。


 そんなイメージを働かせながら目標地点に向かって片手を前に差し出した。


 すると、さっきまでノイズのように聞こえてた声が一瞬クリアになって聞こえてきた。


 『いまのおぬしにゃあ、ちと足らんが…。まあええじゃろ』


 声が聞こえたのと同時に体に淡い光が全身を纏ったかと思った瞬間、激しい地鳴りとともに大地が裂けはじめ、その割れ目がワイルドボアの集団を飲みこんでいく。


「いまの声は…?」


 という疑問が浮かぶころには急激に体から力が抜けていくのを感じ、次第に立っているのも辛くなって息切れと目眩が襲った。


「くっ、これが魔力切れってやつか…?」

 

 どれも魔力切れを起こしたときによく聞く症状だ。思わず膝をつきながら状況を確認する。先頭のいくらかのワイルドボアは地割れに巻き込まれずに走り切ったようだが大半は地割れに落ちて身動きが取れなくなっている。あれぐらいなら街の衛兵たちでも大丈夫だろうと少し安心したところでそのまま意識を手放した。


 思いもよらず好転した状況に沸き立ち士気の上がった衛兵たちによって生き残ったワイルドボア達は討伐された。


 街はことなきを得たが、それが一人の少年によって引き起こされたことを知るのは随分あとになってのことだった。



 気を失ってどれぐらい経ったのだろうか。

 

 喧騒とともにゆっくりと意識が戻ってくる。


 知らない天井…ではなく普通に自分の家だった。ゆっくりと体を起こす。


「ソウちゃん?!」


 すぐ近くにいたのはハルだった。


「大丈夫?どこも痛くない?」


 そう言われて手や足を動かすがなんとも無い。それもそのはず、傷も負ったわけではないのだから。


「あぁ。どこも痛くないみたいだ」


「もう。ソウちゃんったら、なんか街の入口近くの屋根の上で見つかったみたいだよ。高い所に避難したんだろうってパパが言ってたけど」


 なるほど、どうやらあのまま気絶してしまったところを無事救助されたようだ。まぁ避難したわけではないけれど特段目立ちたい願望もないのであえて訂正することもない。


「街はどうなった?」


 そう言うと、どこかそわそわしたようなハルは近くの窓のカーテンを開けた。


 そこには夜の闇に負けじと、通りを歩く明々とした人の声と街の明かりが見えた。


「これは…」


「お祭りだよ!お祭り!モンスター撃退のお祝いだって!」


 なるほど。道理でさっきからハルがうずうずしていたわけだ。行きたいのを我慢して看病してくれたのだろう。


「そうか悪いな。付き添っててくれて」


「ううん、ソウちゃんと見てまわった方が楽しいし」


 中身的にはかなり年上なのにハルの言葉にちょっとキュンときた。ピュアな子どもって怖い。


 天然の勘違いやろう生産機か何かかな?


 男たらしにならないことを祈りつつベッドを降りる。


「よし、じゃあいくか」


「うん!」


 花が咲いたように笑うハルとともに街に繰り出すのだった。

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