第2話 2月22日に灰ネコをひろう

 彼女は漫画家だ。

読み切りが初掲載されてから4年か、5年か、少女漫画雑誌に連載を持っていて、ファッション雑誌にも連載でエッセイを持っていたはずだ。

 そちらの業界に関して私は疎い、連載を持つ事がどれだけ凄い事なのか、デビューして4〜5年はまだ新人の域なのか そうでは無いのか、そう言った事はまるで分からない。

 

 ただ彼女、狩野 舞生子の事は多少は知っていた。

彼女は連載が始まった当時、美少女漫画家として一部のSNS上で騒がれたのだ。今も美人なので、美しい点において過去形ではないが…

 

 漫画家は普通あまり世間に顔をさらさないと思う、さらすとしてもある程度 名が売れてからだ。連載を持ったばかりの彼女がなぜ美少女漫画家として騒がれたのか?

 軽くネットを漁ってみると、どうやらこう言う経緯らしい。

 

 ある雑誌で読み切りの評判が良かった新人女子3人の連載を 同時に開始させ、面白さをアンケートで競うと言う内容の企画が発表された。

 企画を雑誌上で告知する時に連載を開始する3人の女の子の顔写真も掲載された。それほど大きくない写真だったが、どこぞの目敏い読者が、『可愛い漫画家発見!!本人の方がキャラより可愛い⁈』 そんな見出しをつけてSNS上に投稿した。


 あちらの業界はに飢えているらしい。民たちは血に飢えた獣のように彼女の可愛いに群がり、良くも悪くも彼女を祭り上げた。

 彼女は瞬く間に一部の界隈では有名になり、この頃のと呼ばれる現象が、こう言った事に疎い私の耳にも彼女の名前を届けたのだろう。


 実際 私もこの頃に知り合いの誰かが見ている動画を脇から覗いて、彼女が話している姿を見た事があった。


(わたし、一生懸命頑張ってます)


 そんな如何にもな感じが、鼻についたのを薄っすらと覚えている。

 

 企画は素人目に見ると上手くいったように見えた。

 2本はアニメ化され、今も連載は続いている。残りの1本が彼女の漫画だ。連載は終わり、いま抱えている連載は新たに始まった物だ。

 

 彼女を有名にした、『本人の方がキャラより可愛い⁈』 この言葉は諸刃の剣で、今も彼女を苦しめているらしい。漫画そのものより彼女の容姿を先行させてしまったからだ。ネットの評判では一緒に連載を開始した3人の中で、彼女が一番画力が低いとの評判である。

 私から見れば確かに少し古くさい感じもするが、個性があってくせになるタイプの絵柄で、画力が低いとは感じない。しかし、そこら辺は素人には分からない奥深い世界があるのだろう。


 しばらくして当時ほどの騒ぎでは無くなったが、それでもその容姿のために彼女は漫画以外の部分で需要がある。

 先にも言った通り、漫画家としてはかなり本人の露出の多い方だ。

 地方局だがTVや 動画のチャンネルで笑顔を振りまいている姿がアーカイブに残っていて、その数は他の2人より圧倒的に多い。

 ただ、漫画以外の仕事のせいで 本業の漫画が疎かになる事があり、毎月の連載なのに飛ばしてしまったり、掲載してもページ数が異様に少なく、話しの続きを待っていたファンを満足させる事が出来なかったりして、

 –––– 漫画を描かずに容姿でばかり仕事をして!モデル気取りか!––––

 などと叩かれてしまっている事もあるようだ。


 今では、それもだいぶ下火になったようだが、実は燻りは残っているのかも知れない。

 そう言った事に疎い私はそこら辺の事情も良く分かっていない。

 

 そう、彼女に逢いに行くにも関わらず、私は彼女のことをしか知らない。曖昧にしか知らないのだ。

 一部界隈で騒がれた事と、ネットで漁った浅い知識しか持ち合わせていない。

 私は彼女を有名人として認識しているが、世間がどれくらい彼女を認知しているかも分からない。

 

 彼女の連載している作品についてはチラッと絵を見た程度だ。読んだ事は無い。それまで興味が無かったので読んでこなかった。

 少女漫画だ、4〜5年若返ってもオッサンの私が興味を持って無くても仕方があるまい。

 

 私がイベントに行こうと思ったのは彼女が来るからだ。しかし、それまで彼女に興味は無かった。

 興味を持ったのは…心を奪われたと言ってもいい。私の心を奪い、救ってくれた。彼女の楽しそうに喋る姿は、いったい、いつ何処で見たのか?


 そこら辺の所をもう少し詳しく説明したいと思う。

 ネコはまだ出てこない、もうしばらく我慢して欲しい。

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