第26話 魔犬来襲。よみがえった心の傷に、メアリーは立ちすくむのです。

私とブラッドの会話を、にこやかに聞いていたお母様が、眉を顰め顔をあげた。

みるみるうちに表情が険しくなり、その目が屋敷の裏側、庭園の方に向けられる。


「力づくで門が破られた様ね。殺気をまき散らす三匹の獣・・・・・・と、たぶん人間が一人。門番さん達がいない夜で良かった。詰めていたら殺されていたでしょう」


万が一の夜襲にそなえ、我が家のお手伝いの皆様には、通いの勤務をお願いしていた。


「正解だ。なんでわかったの」


ぴたりと襲撃者の詳細を言い当てられ、驚きに目を見張るブラッドに、お母様は微笑んだ。


「気配を探るのは、あなたの専売特許ではないわ。あなたは心も身体も強いから、なんでも自分一人で背負いこもうとする。でも少しは大人を頼りなさい。いえ・・・・」


お母様とメアリーは顔を見合わせ、笑った。


「「大人にも、いい格好をさせてください」」


息ぴったりで、言葉もまったく一緒だった。

それが可笑しかったのか、お互い額を寄せ合うようにして、くすくす笑う。

女子高生ですか、あなた達は・・・・・・・


お母様とメアリーは仲がよい。

二人きりだと結構はっちゃけるみたいで、私があほのブラッドの相手をしてやって不在のときは、お母様の私室から、きゃあきゃあ盛り上がる声が聞こえてくる。あれ、絶対恋バナしてるんだよ。私も早く大きくなって素敵な恋がしたい・・・・

今の私に寄ってくるのは、あほのブラッドか野良猫ぐらいだもの。


野良猫はミルクの匂いに釣られてやってくるみたい。

私の※威厳溢れる優雅な仕草を見ると、尻尾を巻いて退散するけどね。

やっぱり女王の風格は、赤子の身でも隠せないのものね。

(作者注※手足をばたつかせ絶叫する命懸けの示威行動のこと)


「スカーレットを守りたいと思っているのは、ブラッド、あなただけではありませんよ」

と言いながら、お母様はメアリーから私を抱きとり、頬に優しくキスをした。

「娘を守るのは母親の務め。気持ちで、あなたに遅れを取るわけにはいかないのです」


「私も、お嬢様が大好きです。私だって、いざとなれば盾の役目ぐらい果たしてみせます」

メアリーが再び私を受けとり、こちらは愛おしげに頬ずりする。


ブラッドが、仕方ないというふうに、ふうっと息をついた。

わざとらしく両手をあげて降参のポーズをとる。

だが、その口元には笑みが浮かんでいた。


「二人の母親が相手かい。分が悪いな。まあ、オレも母上には頭あがんないし、この勝負、潔く負けを認めるよ。まったく、女の人にはかなわないな。でも、スカーレットを守ると約束した以上、行動で二人を唸らせてみせるさ。それが男のプライドってもんだろ」


ふふっ、と無理に陰のある表情をつくって呟く。


なにが、潔く負けを認めるよ、だか。

あんた、いいこと言ってるようで、実はいかした台詞はいてみたかっただけでしょ。

ちらちら私のほう横目で見て、得意げな顔してるから丸わかりなの!


私は白けたという表情をつくり、思いっきりジト目をブラッドに叩きつけてやった。

いくらハードボイルドに決めようとしても、そのメイド姿で全部台無しなんだからね!!


「それでこそ「治外の民」の長の息子。期待しています」

「お二人に及ばすとも、私も頑張ります!!」


感銘を受けたかのように、お母様とメアリーが頷き合う。


ええっ!?二人とも、なんでよ!!

ブラッドのあほは、適当に思わせぶりな言葉並べただけだよ。

恰好つけたいって理由で。


「いいんだよ。おまえはごちゃごちゃ考えず、素直に守られてりゃ」


ブラッドが、ぽんっと私の頭に手を置いた。


「ここにいるみんなが、おまえを守りたいと思ってる。それを自分の役目と思ってる。だったら、おまえの役目は、オレ達を信じて守られることだ。どんな敵が相手でも、オレ達は必ずおまえを守ってやる。オレ達は決して、おまえの期待を裏切らない」 


あれ、ひょっとして今までの、私の緊張を和らげるための演技?


おのれ、ブラッドの分際で、ちょっぴりだけいい台詞を。

三人の優しいまなざしに、胸が詰まる。不覚にも涙がこぼれそうになった。

無償で私を守ってくれる人達に囲まれることが、こんなに嬉しいことだなんて。


私、ひょっとしてモテ期到来・・・・・・・・・!!

私、モテすぎて取り合いが起きるのでは。大岡裁きが必要かも。

照れ臭さと嬉しさで、私は身悶えした。


もう、私ったら人気者!!

取り合いが起きないよう、整理券配っちゃおうかしら。

はい!みなさん、押さないで!

私、幼いので、一度に押し寄せると、足元で踏みつぶされちゃうんで。

私の手足は二本づつしかありませんので、譲り合って、仲良く引っ張ってね。

お一人さま一本までですよー。順番ちゃんと守ってね。二度並びは厳禁!!

ブラッドには特別におむつの端っこを握らせてあげます。

さあ、よい子のみんな、楽しいスカーレットとのふれあい広場は、こっちですよー。

そこっ、列に割り込まない!!


「なんですぐ変な小芝居はじめるかな。ひょっとして照れ隠しか?」


一人芝居を熱演していると、ブラッドが苦笑した。

しまった!こいつ、私のアーウー語が理解出来るんだった。

それどころか内心まで・・・・・・!

ちょっと!武士の情けで見逃してよね!

照れ隠しとか、ほんとの事ばらさないでよ!!

本気で恥ずかしくなるじゃない!!


ふう、だめだ、落ち着かなきゃ・・・・・

今は感情を揺さぶられるときじゃない。

ただでさえ乳児で足を引っ張るしか出来ないんだ。

これ以上冷静さを失ってどうするの。


ブレイク。ブレイク。

ロープ。ロープ。

タイム。タイム。ティータイム。

あっ、マスター。私、ホットミルクでお願します。温度は人肌で。

ふうっ、ひと息ついてと・・・・・・・


そうよ。自分が何者か、思い出しなさい。

私はただの新生児じゃない。

108回の悪役令嬢人生を生き抜いた、クールビューティーな元女王陛下。

根性一番。愛嬌二番、三、四が謀略、五に美貌。

窮地もピンチも日常茶飯事。不幸も困難も笑い飛ばしてきた。

ハイドランジアに赤くきらめくルビー。魔性の紅い宝石とは私のことよ。

そんな私が、幼子みたいに感情に振り回されるなんて、ちゃんちゃら可笑しいよ。

よしっ、調子出てきたよ!さあ、ここで決めの高笑いをば・・・・・


おーほっほっほっ。

「アーッアッアッアッアッ・・・・・・」


「大変!!まだげっぷが残ってたのかしら」

メアリーに三度めの背中ぽんぽんをされ、私はせつなくのけぞった。


アシカリターンズ!!

「アウッ!アウッ!アオオーッ!」


だから違うって、メアリー!

こら、ブラッド!!にやにやしてないで止めてよ!

あんた全部気づいてるんでしょうが!!


「おまえがリラックスしてるってのは、よーくわかったよ」


そうそう私にとっては死地なんて日常茶飯事。今さら気がついたの?

窮地においてこそ、冴え渡るこの高笑い。


「アーアッアッアッアッ・・・・・」


「気を使わせて・・・・・ごめんな・・・・」


だーかーら!余計なとこまで気づくんじゃない!!


「・・・・・・ブラッド、援護は私にまかせなさい」

お母様が静かに語る。


おうっ!?また私の高笑い途中退場!!あっさりスルー!

私の悪役令嬢のあかしなんて、今これくらいしかないのに!

異世界恋愛に、悪役令嬢のアイデンティティまでも揺らいでは、もはや立つ瀬がありません!!

お母様は、ブラットと違って、私の赤ちゃん言語理解出来ないから、アーウー言ってるようにしか聞こえないから、仕方ないんですけどね。

まあ、そもそも私は新生児なので立つ瀬どころか寝転がるしか出来ないんですけど。

だって膝のお皿がまだないんですもの。

いちま~い、にま~い、じゅうはちま~い。

はいっ、二回分数えたので、明日はお休みします!!


「もし危ないと判断したら、無理せず撤退すること。あなた達が退避する時間は、メルヴィル家の弓にかけても、私が必ず作ってみせます。たとえ、千の兵士が相手だとしても」


私の入魂のパントマイムに気づかず、お母様は涼やかに宣言する。

ちょっと哀しい・・・・・・

虚勢ではなく、必ずやり遂げられるという、自負と確信に満ちた言葉は力強かった。

聞く者に勇気を与えた。

数少ない見せ場は中断されたが、私は満足した。

そこには「赤の貴族」達の苛めで心がへし折れ、対人恐怖症にまで追い込まれた女性の面影など微塵も見当たらなかった。頼りがいのある年長者の背中しかない。

メアリーも私を抱いたまま器用に腕まくりして,ふんすと鼻息荒く気勢をあげる。

二人とも頼もしい!!


「ああ、二人に背中は預けるよ。オレは確かに気負い過ぎてた。オレはオレらしく全力を尽くさなきゃな。頼りにしてるよ、コーネリアさん。メアリーさん。それに・・・・スカーレットもな」


ブラッドは私のおでこを軽く小突くと、にかっと笑った。

三人を羨ましく思い、自分の無力さに引け目を感じた私に、さり気なく心配りした。

打算ない気持ちが心にしみわたる。

おまけみたいな扱いだったけど、好意は素直に受け取っておくよ。

陽だまりの匂いのする「男の子」の優しさに、私はお姉さん気分になって目を細めた。

善き哉。善き哉。

・・・・・・ま、メイドの格好してるのが玉に疵だけど。


あのね。成人すればあんたは世界最強になるの。この私が保証したげる。

ううっ、十七回もあんたに殺されたこの身をもって体験学習済みです。

自信を持ちなさい。

敵にまわすと恐ろしいけど、味方にするとこれほど頼もしい人間はない。

だから、リラックスして、もてる力を発揮して!

あ、緊張するようなら、手のひらに三回人って書いて飲み込むといいらしいよ。


「アアアウー!!オウアアアー!!オウッ」


私はお姉さんキャラらしく、ブラッドに導きの言葉をかけ、叱咤激励した。

優しくかつ凛とした懇切丁寧な指導に、ブラッドもさぞ感謝したことだろう。

いいよ、お礼なんか。魅力的な年上の女性は、常に心の余裕を忘れないものなの。


「おまえ、なにバカ言ってんの?十七回、おまえを殺したとか、オレ身に覚えがないし。だいたいオムツしたお姉さんキャラとか、ありえないだろうに」


なにおうっ!!!パンツなら喜ぶくせに!!パンツもオムツもおんなじよ!!

差別反対!!オムツの社会的地位の向上を要求する!!

だいたい、身に覚えがないだって!?

そっちになくても、こっちは大ありなの!!

さんざん刺したり、心臓止めたり、私のこと殺しまくったくせに!

そこになおれ!!!意趣返しで手討ちにしてくれるわ!!!

私の怒りは海よりも深いのだ。

あ、リボンもう一本くれるなら許してやってもいいけど。

今度はピンクがいいかなあ。


「ずいぶん浅い海だなあ。それに成人した俺が最強って、なんで生まれたばっかのスカーレットがそんなことわかるんだよ。まあ、気休めとして受け取っとくよ。ありがとうな」


苦笑するブラッド。

嘘じゃないのに。

成人ブラッドは「治外の民」の奥義中の奥義、「血の贖

あがな

い」だって使いこなす。

あんたは本当の天才よ。あほだけど。どんな化物相手にだって負けるはずがない。


「オアアアッ、アオオオウッ」私の激励にブラッドは目を丸くする。

「「血の贖

あがな

い」のことまで知ってるのか。ほんと、つくづく何者だよ。おまえは。まあ、そこまでオレを評価してくれるのは光栄だよ」


「血の贖い」を会得したものは、「治外の民」の長い歴史の中でも、数えるほどしかいない。

ブラッドは訝しがりながらも、それを私からブラッドへのエールと受け取ったようだった。


「どんな相手でも負ける気はないさ。チビスケの作戦、早速使わせてもらう。この頭おかしくなるようなイカれた気配は、ぜったい化け物の類だ。屋敷ごとぶっ潰す覚悟でやらなきゃ、たぶん殺される」


えっ、あのトラップ本気で使うの?

過剰防衛突き抜けた代物なんですけど。

相手が人間だったら、私達、殺人罪でブタ箱送り決定よ。

次回から、スカーレット脱獄編がスタートになっちゃうよ?


「私もブラッドの意見に賛成です。生き残るために、この屋敷を犠牲にします。残念ですが・・・・・」


お母様もブラッドに同調する。

悔しげに・・・・・あれ、ちっとも悔しそうじゃない?


「そう、これは非常時の緊急措置。他に手段はないの。決して私怨ではないのです。この家が、建主のお義父さまとお義母さまに見えて、思いっきりぶっ壊してさしあげたいなんて、ふふ、そんなことは微塵も考えていません」


お、お母様、途中から、心の声が、だだ漏れです。どす黒いオーラもです。

そして、なんて晴れ晴れしたお顔を・・・・・・・


「火矢は、いつでも使えるようにしてあるわ。誘い込んだ後は・・・・・・・段取り通りに、すぐに離脱してね。一歩逃げ遅れると、罠に巻き込まれて、一巻の終わりですよ」


お母様の警告に、私達は気を引き締め、うなずきあった。


「さてと!化け物の面を拝みにいこうか」


ブラッドを先頭に私達は、身を屈めるようにして、サルーンを縦断した。もちろん、点在するテーブルの陰に隠れながらだ。

お母様は周囲を警戒し、メアリーは私の運搬係。

そして私は、運ばれ役だッ・・・・・!

非力な我が身が哀しい・・・・・!


メアリーの右手には抱かれた私、左手には布団入りのベビーバスケット。日除けつきです。

かさばる荷物で、すみません、マイハウスが御迷惑おかけします。


「・・・・・いた。あそこだ」


テーブル下に身をひそめ、ブラッドが親指でくいっと外を指し示す。


サルーンの突き当たりの窓は、庭園も装飾の一部になるよう計算されている。庭園の見どころが、なるべく多く見渡せるように作られているのだ。

月明かりに照らされ、小高い丘の上から、四つの影がこちらを見下ろしている。

まるで影絵芝居のようだった。それもとびきり性質の悪い悪夢系だ。


「アオオッ!?」見覚えのある巨大なシルエットに、私の心臓が縮みあがった。

影のうち一つは、せむしの小男だった。

だが、人間よりはるか大きい残り三つの影は・・・・!

ぴんっと尖った耳、長い口吻、でかい脚、ふさふさした尾・・・・・!!


おばあさんの耳はどうして、そんな大きいの。

おまえの声がよく聞こえるようにさ。

おばあさんの手はどうして、そんな大きいの。

おまえを、しっかり抱すくめられるようにさ。

おばあさんの口はどうして、そんな大きいの。

それはね、おまえを・・・・・


ジャジャジャーン!!


一口で、噛み殺してしまえるようにさ!!


「ホギュアアア!!」私は恐怖で絶叫した。

「・・・・声がでかい!」

あわててブラッドが私の口をふさぐ


魔狼ラルフ!!!


忘れられるわけがない!!

よみがえったトラウマに、私の全身は震えあがった。

ラルフは、「108回」の人生で、私を殺した5人の勇士の一人、貴公子ルディのパートナーとして、何度も私の命を脅かした狼だ。

騎士ごと騎馬を地面に叩きつけるパワーを持ち、密集した兵士達の「上」を地面のように走り、あるいは絶壁をジグザグに駆け登るという離れ業で、私めがけて執拗に奇襲を繰り返した。しかも、でかい図体して音もなく背後に忍び寄るし、弓矢は軽々かわすしの、ほんと悪夢の三三七拍子揃い踏みの敵だった!!

その人智を超えたとんでも狼っぷりは、「魔狼」来襲の報せが走ると、歴戦の戦士達でさえ浮足だち右往左往したほどだった。私も、何度夜襲を受け、喉笛を噛みちぎられそうになったことか。どれだけストレスと睡眠不足に追い込まれたことか。

思い出すのもおそろしい相手だった。

あいつ、ほんとに美容の大敵だよ・・・・・!!


「アオオオオオッ。アオオオーン・・・・・・」

みんなあっ、狼だ!!狼がきたよっ!!

私は必死にみんなに呼び掛けた。

あんなでかい狼がそうそういるはずがない。

あれは間違いなく魔狼だ。

必死に伝えようとするあまり、少し遠吠えっぽくなってしまった。


「犬の遠吠えの真似かな。それも吠え損なったやつ」

「アオアオオーッ・・・・・アオッ・・・・アオ・・・・」


違うよ!!気を使って声量しぼってるから、こうなったの!!

オ・オ・カ・ミ。

狼だ!!狼がきたよっ!!

みんな信じて!!あんな化け物狼と戦ったら、ただでは済まない!!

あれ、でも、この狼少年的な警告だと、かえって信憑性を疑われるんでは・・・・?


不適切な発言内容かと首をひねっていると、ブラッドが

「・・・・・ありゃ、狼じゃない。犬だ」

「犬ね」

お母様も間髪入れず否定した。

ブラッドとお母様には、遠目でも区別がつくらしい。


わ、私だって・・・と必死に目をこらしたが、まったく見分けがつかず、私は頭を抱えた。

だって、丘の上のあいつら、ぜんぜんイヌイヌした可愛らしさ皆無だし!!

私は「108回」の悪役令嬢時代の、キュートな飼い犬たちを思い返し、うめいた。クッキー、キャンディー、プラム・・・・・・私の愛らしいパートナーたち・・・・

私にとって犬とは、尻尾をちぎれんばかりに振って、足元にまとわりつく可愛い生き物なのだ。

あいつらじゃ、ちぎるのは獲物の肉で、まとわりつくのは犠牲者にだよ。

あんな、お手をさせたら、こちらの肩を砕きそうな生物は、ワンちゃんじゃない!!

躾する前に、ワンチャンもなく、飼い主が噛み殺されちゃうよ!!


「頭蓋が直線じゃないし、胸幅と前脚のつきかたが狼と違う。オレ、里の近くでよく狼と遊んだから、知ってるんだ」


ブラッドがしれっと口にし、私は呆れ果て、開いた口がふさがらなかった。

おのれ、ブラッド!!この人外魔境の住人が!

「治外の里」はサファリパークかなんかですか!?

このケダモノフレンズどもめ!!


「常識よね」


お母様の発言が、私にとどめをさした。

わあああん!!私の知識チートが!!看板メニューが!!

だって、犬と狼の違いなんて、意識したことなかったもの!!

悪役令嬢百人にアンケートとって聞いてみてよ!

そんな特徴しらないって、きっと大半は答えてくれるはずよ!!

おのれ、今にみてらっしゃい。

今回の人生では研鑽を積み、動物博士の異名を天下にとどろかせてくれようぞ。

この地に動物たちの王道楽土、スカーレット動物帝国を打ち立てるのだ。

そして私は初代帝王となる・・・・・・!


ね、メアリー。メアリーもなにか言ってあげて!!

私は屈辱と怒りに身を震わせ、メアリーに訴えた。

「アウウウアーッ!!アオオッ!!」

聞け、乙女の悲憤の雄たけびを!!


メアリーは無言だった。

様子がおかしい。瞳孔が開きっぱなしで、顔面蒼白だった。

丘の上の人影を凝視したまま、まばたきをしていない。

がたがたと身を震わせはじめ、抱きしめられている私も、掘削工事中の路面のように振動した。


「ヴオヴヴヴアアアー・・・・!?」

私の声にビブラートがかかった。

カラオケ加点は、ばっちりね。


スカーレットただいま工事中です。

近隣の皆さまには大変ご迷惑おかけいたします。


・・・・・って、メ、メアリーどうしたの!?

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