第18話 お母様は悩みます。それでも私達は一歩づつ前に進むのです。生き残るために。

「ああっ! それにしても! まさか言葉を理解されてるなんて! お嬢様は天才です! 私も鼻が高いです! 」


感極まったメアリーは、私を天高く差し上げるようにし、くるくるとその場で回りだした。

頬は紅潮し、目が輝いている。


まあ、私個人の能力っていうか、108回分の人生の記憶のせいなんだろうけどね。

ちょっと罪悪感・・・・・・・


「アーウーウー・・・・・・」


あのお、ところでメアリーさんや。

私、首がまだ据わってないんですけど・・・・・

激しい運動は差し控えたいんですが・・・・・


「お嬢様はきっと神様の申し子です! 神様からの贈り物です!」

「アーオーオー~」


筋力不足で首ががくがくするぅ~

メアリー、落ちついて、落ちついて・・・・・・

私の首が落ちそうだから・・・・・・

このままじゃ、神様のところにすぐに返品されちゃうよ。


私は、どうどう、と両掌を下に押し出し、メアリーをなだめるゼスチャーをした。


「ご、ごめんなさい! 私、つい興奮してしまって・・・・・!」


気づいたメアリーがあわてて中断し、私を抱き寄せながら謝罪する。


・・・・・・ふうっ、着地成功! 我、無事帰還二成功セリ。


「驚いた。ほんとうに言葉がわかるのね・・・・・」


お母様が躊躇いがちに話しかけてきた。


「奥様!! ごめんなさい! 私ったら奥様を差し置いて・・・・・! 申し訳ございません!! 」


はっとなったメアリーが飛び上がるようにし、青くなって平謝りに謝る。


「・・・・・いいのよ。いつも、この子の面倒をみてくれているのは、メアリー、あなただもの」


お母様は哀しげだった。声に覇気がない。

さきほどまで弓矢を振り絞っていたときの溌剌とした雰囲気が、しゅうんと翳ってしまっていた。


「あの! 奥様! 差し出がましいようですが、貴族のお母様方は・・・・・」


あわてるメアリー。口を出さずにはいられなかったのだ。

それくらいお母様の落ち込みようは尋常ではなかった。


「わかっているわ。貴族の子育てが乳母まかせということくらい・・・・・でも、私の家は、メルヴィル家はそうじゃなかったの。お母様は私を自分の手で育ててくださったわ。お母様の手は温かかった。それが私には嬉しかった。自分が愛されてるって思えたから。だから、私は、自分も子供を授かったら、きっとそんなふうに愛してあげよう、ずっとそう思ってたの・・・・・・なのに、私は・・・・・・・」


お母様の手から、弓が力なく滑り落ちた。

こんっと地面ではねて、ぱたりと横たわってしまう。


「私は・・・・・この子を、殺そうと・・・・・・!」


「奥様・・・・・・」


メアリーもかける言葉を失っていた。


「あのときのことも、この子は、きっと理解していたのでしょうね・・・・・」


俯いたまま、お母様は肩を震わせた。泣いていた。


「この子がもう少し大きくなったら、たくさん愛情を注いで、あのときの事を償おうと思ってた。一生かけても償えばいいって思ってた。でも、違ってた。今、この子が言葉がわかっているって聞いて、私は怖かった! だって、こんなことした母親を許してくれるわけないもの!! 忘れてなんてくれるわけないもの!! 」


・・・・・お母様。

あの、ごめんなさい、すっかり忘れてました・・・・・・


だって私、108回も殺された経験者ですよ。

未遂も含めたら、それこそ四桁ものですもの。

昼に殺されかけて、夜に晩餐会なんてざらでしたし・・・・・

再犯の恐れがあるならともかく、いちいち細かいこと気にしませんって。


それにお母様の場合、シャイロック商会に麻薬漬けにされてらしたじゃないですか。

バイゴッドおじい夫婦にはいびられて、そのうえ妾のアンブロシーヌまでいらんこと言ってくるんですもの。お父様も妾宅に入りびたりで帰還せずだし、むしろ正気を保つほうが難しいですって。


あれは事故です! そう! 不幸な事故! お母様も被害者ですよ!


「アーアー、ウー、ウーアー、アーアー!」


私は力説した。神様、届けて! この思い!


「ほら、この子も許さないって叫んでるわ・・・・私がこの子を殺そうとしたとき、必死に泣き叫んでいたのと同じ声・・・・・私が何度も夢に見て飛び起きた声・・・・・・!」


あれえええ!? 古傷のほうに思いが届いちゃった!?

どうも私が天にお願いすると、不本意な結果が返ってくるような・・・・・

悪逆女王の報いだろうか・・・・・


誤解ですよ、お母様!

そもそも私がお母様に殺されそうになったときだって、

〝この試練に打ち勝って、ぐーたらライフを手に入れるんだ!!〟

って気合を入れてたんだし・・・・・悲鳴というか雄叫び・・・・・


「こんな母親でごめんなさい・・・・・・」


「アーウー・・・・・・」


お母様・・・・・・


私はお母様をなだめようとして声をかけたが、お母様は唇を真一文字に引き結んだまま、顔を強張らせ、じっと前を睨んだまま、黙りこくってしまった。


完全に心を閉ざしてしまった。欝モードだ。

私にはよくわかる。こうなると、どんな説得も届かない。

だって、私がそうなったときと同じ表情してるもの。

ああ、私のあの表情は、お母様譲りだったのか・・・・・


私とメアリーは途方に暮れて顔を見合わせた。


どうしよう・・・・・・


「めんどくさいなぁ」


気まずい沈黙を破ったのはブラッドだった。


「オアアッ!?」


出し抜けに私の身体が、ひょいっと持ち上げられた。

ブラッドはメアリーの腕から私を奪い去ると、


「はい、どうぞ」


「ギュムッ!?」


とお母様の胸に私を押し付けた。

軽い感じだったが、稲妻のように素早く隙がなかった。

虚をつかれたお母様、メアリー、それに私は呆然として成されるがままだった。


こ、こらあっ!ブラッド!!あんた、私を片手で引っつかんだでしょ!

このハイドランジアの至宝と呼ばれた私を、子猫か荷物みたいに!!


「抱っこしてあげて」


「え・・・・・」


目をぱちくりしているお母様に、さらに、ぐいっと私をつきつける。


「いいから!!」


まだ躊躇うお母様に、語気を強めて、さらに私を押しつけるブラッド。


むぎゅっ!! こら! ブラッド!! 私はぬいぐるみか何かか!?

新生児をもっと労らんかあっ!!


「奥様!! お嬢様を抱いてあげてください!!」


メアリーも強く訴えかける。

な、なんだ。この流れは・・・・・!


メアリーとブラッドが期待に満ちた目で私を見つめる。


な、なによ・・・・・・その目つきは・・・・

わかったよ! わかりましたよ! やればいいんでしょ!

私は観念した。息を吸うと気合を入れた。腹を括る。


「・・・・・・ア、アウアウアー!!」


両手を広げてえっ、お母様、大好きっ!

甘えさせてアピールっ!!


さあ、どうぞ!!

私なんかでよければ、煮るなり焼くなり、好きにしてください!!

抱っこ、プリーズぅぅ!!


うう、は、恥ずかしいよぅ・・・・・耳から火が出るよ・・・・

意識があるってばれてるのに、こんなの拷問じゃないのよのさ・・・・


28歳の私が、「お母様抱っこー!!」とべたべた甘えている感覚といえば、おわかりいただけるだろうか。

しかも屋外で人目にさらされながらだ!


108回の前の人生で、私は生きているお母様に出会ったことはない。

当然、お母様に抱っこされる経験もはじめてだ。

ごくっ・・・・

き、緊張する。唾がわく。背筋がぞわぞわするよ。

お母様の手がまだ迷って空を泳いでいる。

デコピンを直前でストップされてるみたいだ。

は、早く・・・・・焦らさないで・・・・・!


皆にうながされ、漸くおそるおそるというふうに、私の背中に手をまわし、引寄せるお母様。

ぎこちない。腫れ物に触れるかのように、おっかなビックリだ。


「だいじょうぶだって!! もっと手荒く扱っても、壊れやしないって!!」

「奥様!! そこです!! 思いっきって!! こわがらないで!!」


なんだ、この二人の声援は。

メアリーなんか鼻息荒くして大興奮だよ。変なスイッチ入っちゃったよ。

そして、なんか私、危険物扱いなんですけど・・・・・・

遺憾です・・・・・・


二人の勢いに後押しされるように、お母様が私を胸に抱きしめた。

今まで運動で汗を流していたはずなのに、ほとんど汗臭さは感じなかった。

体臭そのものがほとんどないのだろう。

メアリーの甘い匂いとは違う、懐かしい森林のような香り。

て、照れる・・・・・・

でも、どさくさに紛れて思いっきり嗅いじゃお。

いいよね、そのくらい・・・・・ばれてない、ばれてない・・・・

フンフンフン・・・・・・


「で、どうよ? 」


「オアアッ!?」


ひいっ!!早速ブラッドにばれた!?

またいつもの血液の流れですか!?

ごめんなさい!! ほんの出来心なんです!!

どうか見逃してください!!


「・・・・・かわいいと思うかい」


ブラッドがにやりとする。

ああ、私の破廉恥行為がばれたわけじゃないのか・・・・・ってブラッド!?

どうせ猿みたいなのにとか言いたいんでしょ!

嘘でも女の子の容姿は褒めるのが礼儀でしょうが!!

さあ、褒め称えなさい!


「・・・・・可愛いわ」


「アオ・・・・・」


あのお、お母様。世辞だとわかってると、ちょっと胸にズンとくるんですが・・・・


「あの人と同じ、紅い瞳と紅い髪ですもの。可愛くないわけない・・・・! あの人と私の子供・・・・・でも、私は母親として許されないことを・・・・・・私に母親の資格なんて・・・・・」


え、え、本当に可愛いって思ってくれてるの!?

ちょっと、どうしよう。顔にやけちゃう。

あれ、私って、結構マザコン派?

お母様が悩んでるから、悪いって思うのに、とめられないよ。


「あのさあ、資格資格ってさ。コーネリアさん。母親ってもんを理想化しすぎてない?」


苦悩するお母様を見て、ブラッドがため息をつく。

私のことはガン無視かい。

それにお母様が、おばさんからコーネリアさんに格上げになってるし!

それなのに私は猿とかアホ扱いかい!! 断固として待遇改善を要求する!


「アアウー!!アウアウアー!!」


拳を突き上げて闘争宣言をする私を無視し、ブラッドが話を続ける。


「オレの母上がさ。言ってたんだ。子供なんて、うるさくて、言う事きかなくて、思い通りになんてなった例

ためし

がないって。赤ん坊なんて意思疎通ができない怪獣みたいなもんだって。こいつ、ぶん殴ってやるって何度か思ったらしい。自分は母親に向いてないんだって、悩まされてばっかりだったって。ははっ、ひでぇよな」


「アアウアアー!?」


おおい!!ブラッドお!? 

なんで自分の母親ディスりだしてんの!?

そういうことは言っちゃ駄目でしょうがっ。


「でも、ほら、俺もこうして無事に大きくなってるだろ」


うん!!ちょっとリボンつけてスカートはいて、エプロンひっかけてるけどな!

親が見たら絶対泣くと思う。


「ブラッド、あなたのお母様はどうやって、その悩みを乗り越えたの・・・・?」


おおおい!! お母様!? なんで食いついてんの!?


「どうもお。無理して気張るのやめたんだって。コーネリアさんならわかるでしょ。狩りをするとき大事なのは、獲物のこと、山や森のことをよく知ること、準備を怠らないこと、それともうひとつ・・・・・」


か、狩りぃ!?


「自分の出来ること、出来ないことを把握して、無理をしないこと? 」


「そう。うちの母上もさ。コーネリアさんと同じで狩りをするからかな。どっか似てるんだよな。あのさ、コーネリアさんだって、はじめから狩りが得意だったわけじゃないだろ」


ブラッドは嬉しそうだった。

え、こいつ、もしかして自分のお母様と私のお母様を重ねてたの?

・・・・・私が心配って理由だけで、ここに残ってくれてたわけじゃないんだ。

ふーん、へー、ほー、まっ、べつにいいけどね・・・・・


「最初からの狩人なんていやしない。狩りが狩人を育ててくれる。子育ても同じだって。子供とのつきあいが母親をつくるんだ。最初からの母親の資格なんてないよ。はじめから、子供がかわいくて仕方ないなんて思えるコーネリアさんなんて、まだマシなほうさ」


なんだあっ!? その超理論は!?

いいこと言ってるみたいだけど、それじゃあ、私が狩りの対象かなにかみたいじゃない!?


「あなたのお母様にお会いしてみたい・・・・・教えを乞いたい・・・・」


「アアウアー!? 」


お母様あっ!?

なに熱っぽいまなざしで、爆弾発言かましてるんですか!?

ブラッドは「治外の民」の頭領の息子ですよ!

つまりは、こいつのお母様といったら、その連れ合い!!

そんな人と誼

よしみ

を通じるなんて、「治外の民」と思いっきり関わるってことじゃないですか!

それこそ頭までどっぷり浸かる、どぶ浸けレベルで!!

前の108回の人生で、何度も何度も、女王の私を追い詰めた「治外の民」ですよ!


20年も前倒しで聞こえてきた、思いも寄らぬ破滅の足音に、私は震え上がった。


「・・・・・他人から受けたつらい仕打ちは、何年たっても忘れられないのに、子育てのとき子供に悩まされたことは、不思議と忘れるもんなんだってさ。すげえよな、女の人って。すげえよ、母親って」


語り続けるブラッドさん。

おおーい、私も「治外の民」とあんたに受けた恨み忘れちゃいませんよー。


「でも、子育てに疲れ果てて、なにもかも嫌になってても、やっぱり子供をかわいいって思う瞬間は、あったんだって。雲間から差し込む光みたいにさ。そんな思い出だけは、不思議と今も憶えてるんだって」


そう話すブラッドの耳が少し赤い。


あ! 私、ピンときた!

さっきから自分のことを「子供」って距離を置いた呼び方してるわけ。

108回の人生経験なめるなよ。


「アアウア~」


「ちっ! 勘のいいチビめ」


私のにやにや笑いに気づいて、ブラッドが舌打ちする。


「そうだよ! 母上は俺を叱るとき、怒鳴ったり叩いたりする代わりに、オレの赤ん坊時代の思い出を語りだすんだよ! 延々と! それも周囲に聞こえるでかい声で! ミルクを噴水みたいに噴き上げただの、おしっこを撒き散らしながら転がってっただのってさ!!」


やけくそ気味に叫んだ後、ブラッドはため息をつき、がりがりと頭をかいて苦笑した。


「ずっりいよな、母親って。何年たっても勝てそうにないや」


ブラッド・・・・・・


そっかあ、天下無敵のブラッド様にも天敵がいたのかあ~

くふふっ、いいこと聞いたあ。私にそれを知られたのが運のツキよ。

よくも今まで猿扱いしてくれた。首を洗って待っておるがいいわ。

貴様の余裕もここまでよ。

私は天敵様に取り入って・・・・・・あれ?


「素敵なお母様ね。私もあなたのお母様のようになりたい。なれるかしら」


「なれるさ。一人では難しいかもしれない。でも、コーネリアさんは一人じゃない。そうだろ」


ブラッドの視線に気づき、メアリーがにっこりして頷く。


「オレでも出来ることはある。チビもいる」


「オ、オオアー!」


思考の袋小路に迷い込んで首をひねっていた私は、あわてて拳をつき上げ気勢をあげた。


「ありがとう。私はまだ母親にふさわしいことを何一つ成していない。なにをすればいいかもわからない。でも・・・・・!」


お母様は私を片手で抱き上げた。ブラッドが頷いて弓を拾い上げ、お母様に渡す。


「私はこの弓で、必ずあなたを守ってみせる。お父様が帰ってこられるその日まで、私の命にかえても。それが今の私に出来るただ一つのこと。あなたに母と思ってほしいの。私に母親としてやり直すチャンスを頂戴」


お母様はぎゅっと私を抱きしめた。

「あなたにいつか、私の手は温かかったと思い出してもらえるように・・・・・!」


「アアウー」

こ、こちらこそ、娘初体験ですが、宜しくお願いします。


あ、皆様に申し忘れました。

私が新生児なのに言葉を理解する件については、お母様は全然気にしてませんでした。

「あの人と同じ瞳をしているんだもの。不思議はありません」

の一言で済ましてしまいました。


私はちょっと呆れてしまった。

どんだけお父様に惚れてるんだっていう話だよね。

こんなに一途なお母様を置き去りにして、お父様はいったいどこで何をしているのやら。

妾宅なんかに行ってたら、新生児パンチをお見舞いしてやるんだからね!


「・・・・・・さて、と」


ブラッドが、ぱあんっと胸元で左掌を右拳で打ち鳴らした。


「生き残るための、作戦会議をはじめようか。あそこに立て籠もるしかないよなあ」


私達は屋敷を見上げた。今、私達がいるのは厩舎の横だ。

ここからは巨大なヴィルヘルム邸の全貌がよく見える。

異様な数の煙突、無駄に多い小尖塔。

前の家主のバイゴッド侯爵の人柄そのものの建物だ。

ハッタリと押しの強さの権化みたいだ。


私達は一斉にため息をついた。

みんなの心がひとつになったよ!

引きこもり進路希望の私だけど、さすがにアレは嫌だなあ・・・・・

がらんどうのでっかい石の棺桶に見えてくる。


ちなみに、煙突のほとんどはニセモノである。

煙突つき暖炉がいっぱいあるんだって見栄張りたかったんだろうね。


内装報告ー


絵画美術品一切なし!

サルーンにも応接間にもロングギャラリーにも、絵画がない!

引き剥がしたあとはある・・・・・

天井のあちこちにも、なにかをもぎ取った形跡が。

たぶん彫刻とか浮き彫りがあったんだろうな。


すげーぜ、こんな屋敷見た事がない!

びっくりしたよ。廃墟の一歩手前だよ。

略奪行為にさらされてるよ。

そして屋敷の中には「扉だけ」の見せかけ部屋が結構あったりする。

むごい・・・・・


私の前の108回の人生では、お父様がシャイロック商会から相当金をふんだくってたんだな。

使用人もいっぱいいたし、こんなポンコツ邸じゃなかったもの。


さて、現状報告を続けます。


めぼしい調度品もなし! 食器ろくになし! 醸造装置もなし!

酒蔵はからっぽだ。

ここ、ほんとうに公爵邸!?

準男爵の屋敷のがよっぽど金持ちだよ!


車庫はあるけど馬車はなし!

あ、馬もいません。だから、執事も御者も馬丁もいない。


というか必要ない。備え付けの衣類もなし。フットマン用の制服なんかも無しです。

最初は寝室の布団もシーツもカーテンまでなかったとさ。

ぜーんぶ根こそぎバイゴッド侯爵が持って行きました。


えぐすぎです・・・・・・フラワーガーデンの花の株まで持ってったらしい。

本当は窓や芝生や立ち木まで、持っていきたかったんだろう。

よくもこんな不良物件、息子に押しつける気になったな。


おまけに凄まじく住民の恨みを買っている。

庭の景観の邪魔だとかで、村ごと強制立ち退きさせまくったらしい。

プラス重税・・・・・・

地元の恨みを買いすぎて、息子のお父様の代になっても、働き手がほとんどこない。

総スカンである。どんだけ領民怒らせたんだよ・・・・・

領民と断絶している領地の屋敷なんて最悪だ。

従業員全員にそっぽを向かれている店主みたいなもんだ。


領地も売りまくって減りに減り、もう税収なんてほとんど望めない。

親の因果が子に報い・・・・・なのだ。


幸いヴィルヘルムの先々代、つまり私の曽祖父様は人格者だったので、当時の統治を覚えているお年寄りたちが数人、園丁とフットマンと雑役夫を兼ねてくれている。制服なしの私服ですけど・・・・・・

門番も彼らの役目なので、屋敷の裏側の広大な庭園の入り口の門楼に住みこんでいる。

よぼよぼです・・・・・耳遠い。

門番、大丈夫?


あとは通いの女性コックさんと厨房関係二人、

一人逃亡中。彼は公爵夫人毒殺未遂の疑いがもたれている。

コックさんは通いですよ!

つまり朝飯遅い。夕食早い。


同じく通いの古

いにしえ

の乙女のメイドさんが5人。

これもおじいちゃん達と同じく、先々代の人徳を慕ってくれたおばあちゃん達。

やはり私服・・・・・・これも、よぼよぼ・・・・・

お母様付きのレディーズメイドなんてとんでもない話だ。


ちなみにブラッドの着ているメイド服は、あまりに小さすぎて置いていかれた代物だ。

メアリーはお父様から渡された路銀で購入したらしい。


ハイドランジア王家は、公爵位だけお父様に与え、数々の手柄の褒賞金も未払いのままだ。

あとでお母様におおよその額を聞いて仰天した。

ハイドランジア王家が転覆しかねない金額だ。

そりゃ、王女と結婚させてなあなあにしようと謀るはずだわ・・・・


はあ、私の知識チートが生かせれば、あっという間に大金持ちになれるのに。

私兵だって雇えるよ!


で、現状はというと、おそろしく厳しい状況。

まともな戦力はブラッドとお母様なだけ。


「やるしかないか。メアリーさん、物置にモルタルの材料はあるかい? そっか、じゃあ、アレが使えるか」


そしてブラッドを中心にし、私達は額をつき合わせるようにし、作戦会議に入った。

生き残るために。

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