第4話 現実

 モーニングコールが鳴り、眠り続けていたい気持ちを抑え布団から出る。 


  時刻は7:30。


 約束の時間まで5時間あるのに、緊張感なのか高揚感なのか、目覚めが良い。 

 コンビニで買ったパンを食べながら、私生活もこんなに目覚めがよければ、と思う。

 簡単な朝食を済ませシャワーを浴びる。


 身支度をしながら、会ったら何を話そう?なんて事を考えているとチェックアウトの時間が近づいてきた。

 考えも中途半端なまま荷物をまとめ部屋を後にした。


---

 外は快晴。


 県境に近い街は山に囲まれており蒸し暑い夏でも時より涼し風を運んでくれる。

 心を弾ませながら駅につき時刻表を確認する。おめあての電車は…2時間後?

 …昨夜の行動を思い出す。


 大浴場のサウナと風呂に入り、テンションを上げたまま自室で缶ビール。お笑い番組を見ながら寝る。 


 このネット社会で、電車の時刻表を調べることを忘れていたことに気づく。

 

 『うーん!最低な男だ』と思いながら駅の誰もいないホームで線路を眺めていた。 


 線路を眺めた所で時は戻せない。謝るのが先!と思いメール。 

 返答は「わかりました!予約したお店の時間変更します!」


 再び『うーん!最低な男だ』と思いながら今度は自販機の、飲み物の種類を数えていた。


 電車に乗りやっと目的地に到着。時刻は13時。待ち合わせのカフェの前で立ち止まっていると、ベルの音と共に扉が開く。


 『この人が!』


 「はじめましてー。待ってました。」


 私は『挨拶は…天気の話から…緊張感を見せずに…』と妄想していたのに、一言「はじめまして」と返しただけだった。


 「中でお昼を食べましょう!」と彼女にリードされ“予約席”と書かれた席に座る。

 私たちは”季節のカレーとパンケーキセット”を注文。彼女はそこに“手作りデザート”をつけた。


 木材で作られたテーブルや椅子。レジの前には、焼きたてのパンが置かれ、おしゃれで、居心地の良い店内だった。 


 彼女は服装はジーンズに白いTシャツ。腕には大きな時計。髪の毛は頬の所で切り揃えられ、とても清潔感があった。


 店員さんが運んできたカレーとパンケーキを食べながら、他愛もない会話をしていた。


 笑顔で私と会話をする彼女。 


 …どう見ても“病気”を抱える人には見えない。目を大きく見開き、口角の上がった口元が明るい雰囲気を装う。


 彼女はその笑顔のまま“現実”を語りはじめた。


 「私リストカットしたことあるんです。」 腕には無数の線。


 突然の一言に私の時は止まった。 


 彼女は自分の腕を見せ話を続ける。

 

 「5年前物事が上手くいかず、飛び降り自殺もしましたが死ねませんでした」


 また精神的な痛みだけでなく、“体を走る痛み”や“天候に左右される痛み”など様々な苦痛を彼女に与える病気だと知った。


 私はテレビの画面を見ているのか?今見ているドラマの題名は…?


『線維筋痛症の彼女』


 笑顔で語る彼女に相槌しかかえせず、現実を逃避しているとショルダーバッグの中から“健康祈願”と書かれたお守りが、“昨日という過去”の現実を私に語りかけていた。

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