第8話 念の共有


「おい、寛。鼻の下伸ばしてんじゃねえよ、集中しろ。まだ負け確定じゃねえ」


「あっ『と』だった翔太!」


生意気な奴だ。20才のくせに。


「あんた、何人とまで感覚共有できてる?」


「うーん、3、4人かな」


「だめだ。味方全員と共有できるようにならないと。いまこっちの駒は全部で17枚。そのうち目覚めてるのが10枚だ」


「えらそーなこと言いやがって。目覚めてるって?」


「あんた、さっき『飛』として目覚めただろ。まだ目覚めてない“ただの駒”も何枚かあるってことさ」


「じゃ、お前は自分以外の9人と感覚を共有してるっていうのか?」


「そうさ。それに、俺クラスになるとみんなの感覚と“念”をまとめられる。えらいのは当然だ」


「何がえらい。将棋が強いくらいでイキるなよ、若造」


「ここでの仕事は駒だ。プロの駒だ。ここでは将棋が全てだ」


「お前、元アマ名人とか言ってたよな。もしかして将棋以外何もできねえんじゃないのか?」


「なにをー!!!!」


「図星だな。ただの将棋バカだったか」


「バカはあんただ。将棋で勝ってから言え」


「いつでもやってやるよ」


「おう、コテンパンにしてやるさ。そういうあんたはさぞかし立派な人生歩んで来たんだろうな。そうは見えないけど」


「この野郎~!」


「図星だな。ただのバカだったか」




「二人とも盤面に集中してよ!」


「すいません、静香さん」


「静香っていうのか」


「コラ、呼び捨てにすんじゃねー、おっさん」


「わかったわかった。俺はヒロシ。じゃあ感覚共有して念を送るか、翔太、静香ちゃん」


「はい」


「俺がまとめてやる」


「まあいいだろ、ミスるなよ」


しかし、また翔太とこちら側でコンビを組むとは思わなかったぜ。





バチン!


「あっ…!」

『銀』打ちの受け。これは数手後にこちらの『玉』が必至になる筋だったような。


「あんたが話してたから完全な“念”を送る前に指されてしまったじゃないか!」


「お前も喋ってたろ」



バチン!

バチン!

バチン!

バチン!

バチン!


パスッ!


おっさんニヤリ。インテリは苦悶の表情だ。



「負けました…」

インテリが投了した。こちら側の負けだ。こちら側というか、最後にこちら側にいただけだが。

勝ち目は薄いが、最後に静香ちゃんの『香』を受けていたらまだ分からなかった。




『飛』としての初対局は少し悔いが残る結果となったが、

『龍』になった時の高揚感がいつまでも続いていた。

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