第5話 駒としての人生

『桂』の哲は見たところ30半ばか。俺と同じか少し下くらいか。


それにしても奴の言っていた夜とは?夜に何があるというのか?


ここでは、通常の世界と同じように、夜が明けて朝が来るのか?


そして延々と駒としての人生を繰り返すのか?


でも、そんなことは今は置いておこう。とにかく今は気持ちがいい。

なんせこの『龍』に成ってからは全身に力がみなぎっているからだ。


慣れてきたからか、手もよく見えるぞ。

盤の四隅を見ろとよくあるが、戦況は終盤の入り口で、互角ながらもこちらの、おっさん側を持ちたい場面だ。



対局相手の巨人は40代半ばといったところか。インテリ風だ。

俺と違ってヤングエグゼクティブ、といった雰囲気だな。気に食わねえ。

おっさんに“念”を送りまくって勝たせて、こいつをギャフンといわせてやろう。


「新入り、相手の手番だからって油断するな。みんなと“念”を合わせろ」


遥か後方の『金』の源さんだ。


「いいか、集中しろ。慣れてくると味方の駒全員と感覚と“念”を共感できるようになるから」


「まさか?そんなことできるはず…」


「さっき『と』の翔太と“念”を共有しただろ。あの要領で皆の感覚と“念”を感じ取るんだ」


やってみるか。


こうか…。



これは!!!!!!!!


1人、2人と感じるぞ!考えが感覚となって伝わってくる。なんだこれは!?


…………………………………………。


なるほど。

次に相手は『歩』を成ってくる。そして次の『桂』打ちをみている。

先に相手の『桂』打ちを受けてから攻めるのが呼吸か。

受けはどうする?ほうほう、それがあるか。

攻めは?『歩』を成り捨てて『銀』で取らせて『角』成りか。



………………………………………………………………………。


ん!?

また別の感覚が!これは誰だ?

誰だかわからんが、この筋は画期的だぞ。

先に端『歩』を入れて同『歩』なら一度93『歩』か。それなら最終盤でこちらが1手早くなるのか。

これは駒台に居る『歩』の感覚だったか。


そして俺の『龍』は要の『金』をもぎ取ってきり捨てる順が見えるが、みんなどうだ?



…………………………。


ふむふむ。いけそうか。


しかし、果たしてこの順がこの指し手のおっさんに伝わるのか?



…………………………………。


なるほど。光り方と統一した“念”で伝えろ、か。

光り方、オーラは出すだけじゃなくて消すのも大事、と。

他の駒を光らせたいときはしばらく消えていろ、か。


まてよ、俺の『龍』はいずれ相手の駒台に『飛』に戻って置かれることになるじゃないか!

俺は再終盤は向こう側に居る可能性が高い。


どうすりゃいいんだこの状況………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る