第3話 対話

ううっ…いってえ!


3度の『歩』の叩き、その度に『飛』の俺は空中高く吊り上げられ、バチンと地面に叩きつけられた。


これは体がいくつあってももたないぜ。明日は筋肉痛だ。

明日?明日が来ればの話だが。


それにしてもいったい何が起こっているんだ?

ここはどこで、こいつらは誰だ?


歳はバラバラ。10代から60代、いやそれ以上もいるか。

駒たちは、皆一様に険しい顔つきをしているが、どこか活き活きとしているようにも見える。

『桂』や『香』、額の文字が誇らしげに映る。


両隣にも盤を挟んで巨人が向かい合っていてるが、駒は人ではなくただの駒だ。


そしてここは、見たことのあるような場所………。


将棋道場か!



戦況は、さらに数手、反対側の左辺で『歩』の突き捨てなどが起きている。


「おい、新入り。ぼーっとしてんじゃねえよ!」


同じ2筋の何段か前にいる『と』が振り向いて声を張り上げた。

額の『と』の文字は赤く燃えたぎるように光っており、体全体からも熱いオーラが発せられている。


「いいか、よく聞け。この筋に居座って俺を支えようなんて考えるな」


えらそーに。見たところまだ20才くらいじゃねえか。

なんで寝間着を着てんだよ。


「俺は『金』より価値が高いとされる『と』金だが、もうこちら側では役に立たない」


「たしかにそうだな、にーちゃん」


「このまま斜めに突っ込むんで犠牲になるから、『飛』のあんたはひらけたスペースに飛び込め」


「なるほど。スピードアップの手筋か。わかった」


「“念”を合わせろ。ミスったら今度いじめてやるからな」


「若造。こっちは地元のアマ大会で優勝したこともあるんだ。ミスるわけねえ」


「フっ。笑わせるなおっさん。俺は全国常連だった。白石翔太だ。知ってるか?」


「知らねえな。20才そこらで威張るんじゃねえ。俺は寛だ。お前こそ“念”を合わせろ」


棋は対話なり。将棋は盤上の対話か。まさかこんな形で対話するとは思わなかったぜ。


俺と若造は“念”を合わせはじめる。

なんだこの感じは………。

感覚が研ぎ澄まされていく。『と』の翔太と妙な一体感を感じる。



「あと教えといてやる。成る時は気がふれないように注意しろ。成りは気持ちいいぞ」


「ん?気がふれる?」

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