第2話 念

「よく盤面を見ろって言ってんだろ」


うるせえ『金』だな。こちとら『飛』だぞ。

なんかわからんがよく考えるんだ。これ負けたらどうなる?

とにかく考えろ。いや、考えてどうする?指すのは俺じゃねえ。


「新人、指すのは自分じゃないって思ってるだろ?」


「ええ」


「光るんだよ、自分の意志を光って示せ!」


「光るって?」


「オーラを出せ。とにかくやってみろ。やればわかる」


なんだよそれ…。


この『歩』は、たしかに“叩きの歩”だ。

相手の駒台には?

ああ、あれが駒台か。『銀』と『桂』と『歩』が4枚。いや4人か。


今自陣2段目に居て、この『歩』を横にかわせば、どこに行っても“『銀』の割り打ち”や“ふんどしの『桂』”でまずい。

引く手はない。取ると、あと3回『歩』で叩かれて、肩に『銀』を打たれてまたバックか。

それじゃ勝てない…


いや、ちょっとまてよ。変化をちゃんと読まないのはいけないクセだった。

3度目の叩きの時に、2筋に回れば先手を取れるじゃないか!


この盤面からして、指し手は2人とも級位者だな。ここは俺が。

俺が?俺がって、俺がどうすんだ?

光る?光るってなんだよ!オーラとか言ってたな。


とにかく指し手に気づかせよう。


俺は頭の中で考えた変化の筋を念を込めて指し手に送った。

この『歩』は取って、さらに2回取って、『飛』を転回するんだ、おっさんよう!

ここで俺が戦力外になるわけにはいかねえんだ!戦力外なんてもうまっぴらだ!



「うーむ」

指し手のおっさんが唸っている。60代ってところか。

色あせたポロシャツがぽっっこりしたお腹を覆っている。

腹は三段ってところか。


おっさん!気づけよ!

さらに“念”を込めて光った。


背後から大きな指が頭上を通り、目の前の『歩』がクレーンゲームのように駒台に運ばれていく。


焦ったぜ。一瞬『飛』の俺を先に動かすのかと思ったからな。


ガシっ!


そして続いて俺が持ちあげられた。


うおっ!このおっさん手がぬるぬるしてやがる。しかもヤニくせえ!

ひえええ!そんなに高く上げるな。俺は高所恐怖症なんだ。


バチン!!


うっ……………。


痛てえ!


俺はさっきまで『歩』のいたマスに叩きつけられた。


「やるじゃねえか、新人」

さっきの『金』のおやじが斜め後方でフムフムというような顔をしている。


「わしはゲン、源っていうんだ。お前、光ってたぜ」


「俺は…ヒロシ、寛です」



「ヒロシか、さあ、次だ」

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