第8話 最強の武闘家


 俺が戦場にたどり着いた時、仲間たちは満身創痍だった。

 傷の深さからどれだけの死闘だったのか容易に想像できる。

 俺は静かに、それでいて闘志を秘めた目で敵を見つめる。

 仲間を傷つけた貴様らをを許さぬと。

 そして俺は魔物の大軍の間に立ちふさがった



 先走ったのか、一匹の魔物が突っ込んできた。

 その瞬間、魔物の頭部が弾けた。

 俺のアッパーカットがさく裂したのだ。



 飛び掛かった魔物が頭部を失い、地でもがいている。

 即死しないとは中々の生命力だ。

 他の魔物は何が起きたのか知覚できなかったのだろう。

 僅かだが困惑している様子だ。

 だがその混乱は長く続かない。



 戦場に妙な音が聞こえてきたのだ。

 虫の羽音だろうか?

 聞きなれない音の発生源を探すが、距離が遠すぎて分からない。

 混乱していた魔物はその音を聞いてすぐに統制を取り戻す。


「ほう……」



 もしかしたらこの大群を操るボス敵存在ががいるやもしれん。

 油断は出来ない。



 魔物たちは俺という強敵を取り囲み、ギチギチと不快な警戒音を漏らす。

 数千の魔物は津波のように押し寄せ、俺を飲み込もうとする。

 俺は臆せずにそれに突っ込む。

 恐怖なぞない。



 俺の体は『気功』によって強化されているからだ。

 気功とは前衛職にとっての必須技能で、外気功と内気功の2種類に分かれている。

 外気功は体表の硬化、内気功は身体能力を10倍以上も強化が可能だ。

 この気功によって俺の肉体はオリハルコン並みの強度を誇る。

 生半可な攻撃は俺には一切通じない。



 俺は敵に全力で突進する。

 音速を突破した際に生じるショックウェーブをまき散らしながら。

 俺のふんどしがベヒーモスの皮じゃなかったら今頃全裸だっただろう。



 俺の突進を受けた魔物の大軍は竜巻の前の木の葉のように吹き飛ぶ。

 バラバラになった魔物の手足が雨のように降り注ぐ中、俺はただ突き進む。

 立ちふさがる魔物に腕を振るうたびに魔物の体が砕け、千切れ飛ぶ。



「こんなものか!?」



 まるで歯ごたえがない。

 このまま魔物を殲滅しようとした時だ。

 またあの羽音が聞こえてくる。

 その瞬間、カマキリの魔物が壁のように俺を取り囲む。

 何かとてつもなく嫌な気配を感じた。



 俺の相棒が、全身の筋肉たちが危険を知らせてくれた。

 何かが空気を引き裂きながらまっすぐに向かってくると。

 とっさに腕を突き出し、体を守ったのは正解だった。

 壁のように立ち塞がる魔物から白い閃光が走ったのだ。



「ぬうぅっ!?」



 その衝撃は凄まじく、周囲の魔物の大群が蒸発するほどだった。

 さすがの俺も尻もちをつきそうになる。


 なんということだ! 俺の筋肉が押し負けただと!?

 まだまだ鍛錬が足りぬ。

 もっと良質なプロテインを摂取せねばなるまい。



 この戦いが終わったら訓練メニューを見直す必要がある。

 俺はそう決めると目の前の敵を見据える。

 二回りは大きいカマキリの魔物が立っていた。

 明らかにボスっぽい。

 さっきの妙な音を出していたのもコイツかもしれない。



 他の個体が黒いのに対して、このボスっぽいのは白い。

 俺が持つ秘蔵の品である絹のふんどしのような純白だ。



 息つく間もなくボスっぽい魔物が追撃を放ってくる。

 凄まじい速度だ。

 斬撃を凌いだ俺の腕にいくつもの傷ができ、血が滲んでいる。

 オレハルコンに匹敵すると言われた俺の筋肉を傷つけるとは!



「やるではないか!!」



 予期せぬ強敵に俺は獰猛に笑う。

 久々に楽しい戦いになりそうだ。


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