第9話 大貫衣弦、クマ退治!

「ヴェルム、どいてろ」


カウボーイハットのクマを押し退けて、今度はさらにデカいクマが姿を見せる。

今度のクマは眼帯をしていて、頭部の毛が金髪になっていた。

金髪のクマヤバ!珍百景だ!


「俺はガルド。ベア族のボスだ。お前が噂の竜騎士ドラゴンナイトだな?」


さてこの状況で俺はどうするべきだろうか。

クマを食い止めなきゃならないのはわかっているんだが、どうやって止めるとか全く考えていなかった。

何とか会話だけで平和的に解決しないものか。


「あぁそうだ俺が竜騎士ドラゴンナイトだ」


怖気付いてはいけない。

あくまで堂々としていなければ。

だから俺はあくまで胸を張ってクマの前に立つ。


「クククク·····クケケケケケケ!」


「笑い方キモッ!」


「お前が竜騎士ドラゴンナイトだと!?笑わせるな!よくもまぁそんなナリでそんな事が言えたもんだな!」


うわ、完全にバレてるよ。

まぁ俺はどう見ても竜騎士って感じじゃないしな。


「おいヴェルム!お前あんな小僧の言葉に惑わされたのか!このボケ!あんな奴が竜騎士ドラゴンナイトな訳ねーだろが!バカめ!」


「す、すいませんボス!」


金髪グマがカウボーイグマの頭を何度もど突いている姿はやけに滑稽だ。

ここで俺が竜騎士ってのは嘘って明かしてしまえば何とかなったりしないかな。


「しかしお前が竜騎士ドラゴンナイトを名乗ったという事は大罪だ。我がベア族にとって竜騎士は忌むべき宿敵。その名を口にする事即ち、我が種族に対する宣戦布告」


ダメそうだなこりゃ。

俺が軽々しく口にした竜騎士ってワードがまさか宣戦布告となるとは誰が予想しただろう。


「イヅル、やっぱり対話は難しいわよ」


「出来るだけやってみるぞ」


クマの軍勢の前に立ち塞がる俺。

圧倒的な数の差に加え、一体のサイズもバカデカいため、まるで生きた心地がしない。

エクスカリバーの鞘が俺を不死身にしてくれていたら怖くなんてなかったのだろう。

惜しい、あと少し有能なスキルだったら俺は最強になれたのに。

ていうか限界突破拒絶オーバーリミットキャンセラーがなきゃ俺最強なんじゃないの?


「俺は漆黒の竜騎士、オオヌキイヅルだ。お前らにはとても信じられない話かもしれないが、今こうして目の前に竜騎士がいる」


とはいったもののこの世界における竜騎士ってどんな奴なのか、ちょっとしか話を聞いていないからあまりわからんが頑張ってみるか。

そう、イメージだ。

アニメの騎士団長キャラが敵の軍勢を前に語りかけるような、そんなイメージを自分に投影させるのだ。


「かつての竜騎士がお前達をどうしたかは知っている。しかし今は100年前とは違う。俺はお前達と争う気はない」


「·····お前など竜騎士ではない。竜騎士の名を語ったただの小僧だ」


その通り。


「無意味な殺し合いの末に残る物など何もない。あるのは滅び。お互いわかっているだろう?ベア族は滅びかけた、竜騎士も滅びかけた。もはや争う事に意味はあるのかと」


悪くない出来だ。

即興の演説だが意外とそれっぽく仕上がってるじゃないか。

こんなにも強い重圧があるのに、俺はよくやれている。


「ぬかせ、これは一族の誇りの問題なのだ。竜騎士は一人も生かしてはおけない。竜騎士を語るもの皆敵である。小僧、お前が竜騎士を語った時点でもう我が一族の敵となった。そしてそこに与した者達も全て敵となる」


全然ダメだ。

俺のカッコイイ演説にも全く聞く耳を持たないクマ達。


「俺はソロプレイヤーだ。一人でこの地へ来て、たまたまお前達と遭遇しただけ。仲間などいないぞ」


「ウケケケ!そのチビ女も道づれだ!ついでに村の奴らもそいつを匿った罪で処刑してやるぜ!」


あぁ、やっぱりこうなるのか。

予想していたとはいえ、やはりそうなるとどうにかしてこいつらの進行を止めなくてはならない。


俺は腰に携えた聖剣を引き抜き天高く翳した。

すっかり暗くなった空、掲げたその刀身に月(?)明かりが反射する。


「あの村に手を出す事は許さない。もしも従わないのであれば、この聖剣エクスカリバーがお前達の体に天罰を刻み込む事になるぞ」


「聖剣·····エクスカリバー·····?」


クマ達の間に動揺が広がる。

そうだ恐れろ、この伝説の聖剣を前に跪け。

そうしてくれないと困るんだよ!


「聞いた事もないな。ただのハッタリだ。これ以上あんな奴に付き合ってるのがバカらしい。ヴェルム、さっさと殺せ」


「任せてくださいボス!ひき肉にしてやりますぜ!」


ダメだったーー!

頑張ったけど話になんなかったーー!


「イヅル、下がって!」


ナナの言葉に従って俺はそそくさとその場を去る。


「ウケケケ!逃がすかよ!」


俺が逃げたのを見てすぐに追いかけてくるカウボーイグマ。

クマのくせに速いんだよ!クソが!


火炎球ファイアーボール


ナナが前方に左手を前方に翳すと、そこに魔法陣が浮かび上がる。

魔法陣の中から飛び出したのは炎の球体、それが空中を泳ぎカウボーイグマの元へと急速接近。

カウボーイグマはそれを避けきれず、その脇腹にクリーンヒット、同時に爆発を起こし煙がクマを包み込んだ。


「おおっ!」


やったか!?とか言うと絶対やってないので自重する。

しかし今の一撃はかなりのダメージがあったように思えるが。


「やりやがったなお前ら·····」


煙の中からのそのそとその姿を現すカウボーイグマ。

その体は先程の炎で体毛が焼けてちぢれていて、革ジャンの脇腹にも大穴があいてしまっていた。

あの攻撃でカウボーイハットに被害がないのがミステリーだ。


「あの攻撃で仕留めきれないのか·····。結構キツいな·····」


「だから最初から言ってるじゃないの!」


ナナの魔術一発で一体を戦闘不能に出来るくらいの戦力差ならもしかしてとも思ったが、これを50体ほど相手にしないとならないとなると厳しい。


「完全に殺す!みじん切りだ!」


「みじん切りかよ!」


怒り狂ったカウボーイグマは俺達に向かって一直線に突進。

その速さは俺が全速力で逃げてもその倍速くらいはあるだろう。

逃げきれないのならやるしかない。

こちらには切れ味最強のエクスカリバー、こいつで切り裂けば奴の息の根を止める事は出来る。


ならばあいつの進行を止めればいい。


妄想拡張イリュージョンメイカー·····」


想像しろ。


創造しろ。


明確に、鮮明に、イメージを形に。


あの進行を止めるもの、硬くて重い物。

地面から動かない物。


風が吹き始める。

俺のイメージを、妄想を現実にする力。

それが俺の妄想拡張イリュージョンメイカーなのだ。


「ゴフッ!!」


風が止むのと同時にカウボーイグマの鈍い声が響く。

その場にいた誰もが何が起きたのかわからず驚いた様子だ。


「な、なんだ·····こいつは·····」


カウボーイグマは目の前に現れたそれを破壊するほどの力は持ち合わせておらず、自らの突進によるダメージを被って口や鼻から血を流していた。


「あれは一体·····」


「テトラポッドだ」


俺が具現化したのは防波堤に山積みにされている消波ブロック。

とても大きく重く、簡単には破壊出来ない強固な物体である。

それを一つ、クマの進行方向に具現化したのだ。


テトラポッドにやられて動けないカウボーイグマに近付いた俺はエクスカリバーの切っ先をその鼻先へと向けた。


「まだやる気か?」


カッコよくキメてはいるが、心臓は今にもはち切れそうに脈動してるし、ちゃんと妄想拡張イリュージョンメイカーが発動出来た事にホッとしていたりする。


よかった!よくやった俺!

半分賭けだったが上手くやり遂げた!


「殺せ。俺様は負けた」


「だから言ってんだろ、無意味な殺し合いの末に残る物など何もないって。お互い無駄な戦いやって得るものなんてないわけだし。100年前の事をいつまで引きずってるつもりだよ」


殺した方が俺的には安心なんだけど。

絶対襲いかかってくるなよこのカウボーイグマ。

俺は今命懸けで剣を鞘にしまうんだからな。


エクスカリバーを鞘にしまうのを他のクマ達に見せつけると、クマのボスが再び対話を始めた。


「お前は何者なんだ?」


「俺は竜騎士兼、創造主。そしてこの世界の調停者。あらゆる争いに終止符を打つ者」


「創造主だと·····!?」


ちょっと色々と付け加え過ぎた気もするが、ここは調子に乗って自分をデカく見せないといけない場面だ。

俺達二人でこのクマ達全員を相手にするのはちょっと難しい。

村にまで被害が及ぶ可能性が充分ある為、一番いい解決方法は対話。

ここでカウボーイグマを殺さなかった事で俺は自分の意志を示し、テトラポッドを出現させた事で奇跡を示した。


「お前達は傲慢だ。他者を抑圧し奪い取る事でその力を誇示し続けてきた。故にいつまでも争いが絶える事はない。種族のプライドだの誇りだのを口実にしているだけで、やってる事は身勝手な略奪者だ」


「我がベア族を侮辱するつもりか!」


「ベア族の長よ、誇り高き種族なら闘争だけでなく、弱き者を助け、他者と共存する誇りを持て。それこそ指導者たるお前の責任だ」


マジそろそろ聞き届けてくれないかな。

本当に言う事がなくなってきたんだけど。


「わ、私達だってベア族と争いたくなんてない!本当はもっとお互いに尊重し合って共存出来るはずよ!」


「共存か·····。それには長い年月が必要だ」


「時間ならいくらでもあるだろ。急ぐ必要もないし、ここから始めればいい。ベア族の長、お前が最初の一歩を踏み出せば時代は変わる。お前の名は永遠に語り継がれるだろう」


クマ達は静まり返った。

俺の言葉にいよいよ本気に考え始めたようだ。

やっとまともに会話が出来そうだ。


頑張って演じた甲斐があったな。


「すぐに答えは出せない。明日の朝、またここに来よう」


えー!マジかよ!

さっさと答えを出せよ!長引かせんなよ!

明日まで待つなんて拷問だろ!


「あぁわかった。ここで待つ」


しかしそれを飲むしかない。

俺は調停者、平静を装っていないと怪しまれてしまう。


クマ達はそれ以上危害を加えて来ることなく、怪我をしたカウボーイグマを担いで森の中へと去っていった。


クマ達が去った後、緊張の糸が切れた俺は目眩に襲われる。


ふらついた俺を抱きとめてくれたのは我が妹、いや偽の妹のナナリーだった。


その小さな体はとても柔らかくて、なんだかいい匂いがする。


「イヅル·····あなた、本当に何者なのよ·····」


「俺は、そうだな·····。ただの一般人だよ」

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