第7話 大貫衣弦、限界突破拒絶!
妄想を現実に変えるスキル。
それだけの説明文があれば、どれだけ有能なスキルなのか大半の人間は想像がつくだろう。
この世界の人間がどういったスキルを持っているのかは未知数だが、その中でも俺のスキルは強スキルに分類される事は間違いないだろう。
というかそう思いたい。
地面に横たわっていたエクスカリバーを手に取ると、ずっしりとその重さが伝わってくる。
本物の剣が意外と重いというのは知っていたが、確かにその感覚は俺も感じた。
この重量の剣をブンブンと振り回すだけの筋力は俺にはないので、あくまでそれっぽさを演出する道具として使うしかないか。
「さて、剣だけじゃちょっとな。鞘もそれっぽくしないと。確かエクスカリバーの鞘は持つ者を不死身にするという魔法の鞘だった気がするな」
「ちょ、ちょっと·····どういう事よ」
鞘·····鞘·····
形状を予想し、重さや触り心地、装飾なんかを明確に想像していく。
よりリアルに、鮮明に、まるでそれがこの場所にあるかのように。
すると先程と同じように風が巻き起こり、それが止むのと同時に俺の想像していた物と全く同じ物がそこに横たわっていた。
「成功だな」
「な、なによそれ!何が成功なの!?何をしたのよ!」
目の前で起きてる事を全く理解出来ない様子のナナは、少々ヒステリックに俺への説明を要求している。
鞘を拾い上げ、剣を収めつつも仕方なく説明をしてあげる事にした。
「俺は創造主だ。自分がイメージした物をこの世界で創造する事が出来る」
「そんな能力聞いたことないわよ!ありえない·····」
「ありえないか、だが自分の目で見ただろ。これが俺の能力、
「·····それが確かならあなた、化物よ」
化物·····。
なんといういい響き。
言われてみたかった言葉の一つ。
もちろん良い意味の方で。
「化物ね、そう思うのならそれでも構わないさ。なんとでも呼んでくれて構わない」
エクスカリバーの鞘を具現化する事に成功。
伝説通りなら俺はこれで不死身の力を手に入れた事になるな。
これならどんな敵が現れても恐怖に怯える事はない。
不死身でなおかつ最強のスキルを持つ俺は、この世界の覇者となる資質に満ち溢れている。
てかこれだけの無敵状態なら誰でも簡単に世界を手にする事が可能だ。
なんだ、ヌルゲーじゃないか。
イージーモードレベルじゃない。
チュートリアルモードだ。
「さて、じゃあちょっと試してみるか」
不死身になったのなら傷はすぐに治癒されるだろう。
高いところから落ちても、炎に燃やされても、全身を切り刻まれても一瞬で完治するはず。
俺はエクスカリバーを鞘から軽く引き抜き、その煌めく刀身に自らの手のひらをそっと添える。
「ちょっとバカ!何してんのよ!」
エクスカリバーは非常に切れ味のいい剣。
触れただけでもあらゆるものを切り裂く最強の剣。
そこに俺の手のひらが触れた事でもちろん皮膚は裂ける。
しかし大丈夫。
俺は不死身だ。
傷などつきはしない。
「あれ?」
おかしいな。
なんか痛いぞ。
血がどんどん溢れてくるぞ。
「そんなはずは·····」
少し待ってみたが、血が止まるような気配は全くないし、痛みも全く治まらない。
これはつまり·····
「不死身能力は持ってないのか!くそー!」
「訳わかんないこと言ってないでちょっと傷を見せなさいよ!」
かかりつけのナナ先生に傷を見てもらい、念の為包帯を巻くことになりました。
なぜ俺はわざわざ手のひらで試したのか。
指先でちょっと試すくらいでよかったのに。
これでわかった。
妄想を現実にする事は出来るが、それに纏わる伝説や言い伝えまでは具現化出来ないという事だ。
「さすがに限界があるか。不死身だったら最強過ぎるもんな。普通に考えてそんなのは無理···············ん?」
待てよ。
まさかそういう事なのか?
察しのいい俺は勘づいてしまっているぞ。
いやそれは認めたくない。
しかしそれがなんだかしっくり来てしまってる。
「
つまり俺が現実的にそれは無理だろと思うような事はこの第二スキルによって制限されてしまう。
いくら俺が妄想を現実にしても、現実は甘くないよと拒絶されてしまうというわけか。
ガッデム!
最悪のスキルじゃねーかよ!
あーでも考えれば考えるほどこの二つのスキルに思い当たる節がある。
向こうの世界では俺は妄想族で、四六時中あらゆる妄想が駆け巡っていたものだ。
もちろんその中では俺が勇者になって魔王を討伐するものもあれば、異能の力を手に入れて巨悪に立ち向かう設定など、妄想の数は計り知れない。
故に妄想力の強さはフリーザ様レベルの53万といったところ。
だからこの世界でこの能力が俺に備わったというのは理解出来る。
しかし同時に俺は現実の無情さを知っている。
好きな人が出来たとしても、その子にはイケメンの彼氏がいたり。
不良に絡まれても喧嘩で勝てるような腕力もない。
想像の中では上手くいくことも、現実ではそうならないと諦めていたのは確かだ。
だから今まで彼女も出来た事もないし、キスした事だってないし、手を繋いだのだってフォークダンスの時くらいだし。
現実を認めたくなくて妄想の世界に逃げ込み、ゲームやアニメのような理想郷にすがりついていたのだ。
そんなのは無理だ、現実的じゃない、そんな俺の負の感情がこの第二スキル
全て辻褄が合ってしまう。
コナン君の推理ばりに合点がいってしまう。
「イヅル、イリュージョンなんちゃらって力があるなら、自分の服くらい作れるんじゃないの?」
「はっ!確かに!頭いいなお前」
自分の服を想像する。
あくまで俺は竜騎士、竜騎士と言えば重装備。
イカつい鎧を纏い、戦場を駆け抜ける狂戦士。
この体にイカつい鎧をイメージ。
色は紫で所々尖ってて、タックルしたら人を殺せそうな重量感。
俺の体を中心に風が吹き始める。
いいぞ、これはいい。
イメージは完璧だ。
体にまとわりついてくるようなイメージがそのまま反映され、今度は俺の体にそのまま鎧が具現化されていく。
風が止むと、俺の体にピッタリとフィットした鎧が完成していた。
「重ーーーーー!」
完成した瞬間、あまりの重さに耐えきれず俺はその場に倒れ込む。
倒れ込んだ衝撃で家全体が揺れて、危うく崩壊させてしまうところだった。
「い、イヅル、大丈夫·····?」
「お、重すぎる·····動けん·····」
俺の無意識がこのサイズの鎧ならこれくらいの重さがなきゃおかしいと思ってしまっているのだろう。
デメリットしかねーじゃねーか!
そもそも俺の体の筋力は常人以下なので、重い鎧を着たまま軽やかに動くなんて事は到底無理な話だ。
なら動きやすい身軽な服装に変更しておこう。
そして俺が想像したのは半袖Tシャツにハーフパンツという、元の世界で俺が愛用していた服装だ。
「どうだナナ。このラフな格好は結構イカしてるだろ?」
「イカしてるってどういう意味なのかわからないけど、こっちの世界じゃ全然見慣れない服装ね」
「あー、そうか。逆に目立つわけね。それに竜騎士っぽくもないか」
Tシャツハーパンの竜騎士ってのも悪くない気がするが、もう少しカッコイイ服装の方がいいだろう。
そして俺が次に創造したのはアニメキャラの主人公が着ていた服装。
全身黒を主体とし、白のアクセントが袖や胸などに際立つ。
スーツのようにピッチリとして、羽織っているコートが風に靡いてマントのように見える。
服のあちこちに不必要なベルトがついているがそれもまたカッコイイ。
エクスカリバーを腰に携え、右手を水平に真横へ振ってポーズを決める。
「これは完璧だ。これしかない」
「明らかに目を引く服装だけど、まぁ変な人には見えないわね。騎士と言われればそれっぽくも見えるし」
「ふむ、では竜騎士オオヌキイヅル、ここに誕生という訳だ」
「竜騎士なら一番大事なドラゴンがいないけどね」
「·····やっぱそうなの?竜騎士ってドラゴンに乗って戦ったりする奴?」
「そうよ。100年前に魔女の軍勢に与した奴らよ。だから竜騎士って口にする事もここでははばかられる。特にベア族はかつてその竜騎士に絶滅させられかけたから、その単語は禁句だったんだけど」
それを知らずにピンポイントで竜騎士の単語を口にした俺すげーな。
「もうすぐ日が暮れる。私達がここに残ってるのはまずいわ。村の外へ行くわよ」
「おう、了解だ」
少々不安ではあるが、最低でも少しは強くなって俺達は村を出た。
果たして本当に大丈夫なのか·····。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます